TauriとTypeScriptのユースケース 型安全にデスクトップアプリ開発を進める
Tauri と TypeScript を組み合わせたデスクトップアプリ開発では、フロントエンド(Web 技術)とバックエンド(Rust コマンド)の境界における型安全性が最大の課題です。本記事では、インターフェース設計と静的型付けを活用し、実務で型安全を保ちながら UI/UX の高いアプリケーションを構築する方法を解説します。
検索意図として「Tauri TypeScript 型安全」「Tauri インターフェース設計」「デスクトップアプリ 静的型付け」を想定し、実際に業務で採用した設計パターンと、採用しなかった案の理由を含めて説明します。初学者には境界での型チェックの重要性を、実務者には運用時の判断基準を提供します。
検証環境
- OS: macOS Sonoma 14.7 / Windows 11 / Ubuntu 22.04
- Node.js: 22.12.0
- TypeScript: 5.7.2
- 主要パッケージ:
- @tauri-apps/api: 2.2.0
- @tauri-apps/cli: 2.2.0
- zod: 3.24.1
- vite: 6.0.5
- 検証日: 2026 年 01 月 01 日
なぜTauriとTypeScriptで型安全が問題になるのか
この章でわかること
Tauri のアーキテクチャにおいて、TypeScript の型システムがどこまで有効で、どこから無効になるのかを理解できます。
フロントエンドとバックエンドの境界
Tauri は、Web 技術(HTML/CSS/JavaScript)で UI を構築し、Rust で実装されたコマンド(バックエンド)を呼び出す仕組みです。TypeScript はフロントエンド側で静的型付けを提供しますが、Rust コマンドとの通信は実行時に JSON 形式でシリアライズされるため、この境界で型安全性が失われます。
実際に検証したところ、以下のようなリスクが発生しました。
- フロントエンドで定義した型と Rust コマンドの引数型が一致しない
- Rust 側で返却される値の型が TypeScript 側の期待と異なる
- リファクタリング時に型定義の同期が漏れる
型安全の喪失がもたらす実務リスク
型安全性が失われると、以下のような問題が実務で発生します。
mermaidflowchart LR
frontend["フロントエンド<br/>TypeScript"] -->|JSON| boundary["境界<br/>invoke()"]
boundary -->|JSON| backend["バックエンド<br/>Rust"]
backend -->|JSON| boundary
boundary -->|JSON| frontend
style boundary fill:#ffcccc
上図は、Tauri におけるフロントエンドとバックエンドの通信境界を示しています。この境界では JSON による動的なデータ交換が行われるため、TypeScript の型チェックが及びません。
境界で型安全性が失われると、以下のような事故が発生します。
- 開発時には気づかず、本番環境で実行時エラーが発生
- ユーザー操作による予期しない入力値がバックエンドに渡る
- API 仕様変更時に、片方だけ修正して不整合が生まれる
実際に業務で発生した事例として、ファイルパスを受け取るコマンドで、フロントエンド側が string 型を送信したつもりが、Rust 側では Option<String> を期待していたため、null チェックが不足してパニックが発生しました。
つまずきポイント
- TypeScript の型定義が Rust の型定義と自動同期されないため、手動で整合性を保つ必要がある
invoke()関数は any 型を返すため、型アサーションを忘れると型安全性が失われる
型安全性を失う境界で起きる具体的な問題
この章でわかること
実務で遭遇した型安全性の問題と、放置した場合のリスクを具体的に理解できます。
コマンド呼び出しでの型不一致
Tauri でバックエンドコマンドを呼び出す際、invoke() 関数を使用します。
typescriptimport { invoke } from "@tauri-apps/api/core";
// 型定義なしで呼び出す場合
const result = await invoke("get_user_data", { userId: 123 });
// result は any 型になる
この例では、result が any 型のため、以下のような問題が発生します。
- 存在しないプロパティにアクセスしても TypeScript がエラーを出さない
- Rust 側で返却する型を変更しても、フロントエンドに影響が伝播しない
- IDE の補完が効かず、開発体験が低下する
JSON シリアライズ時の型変換
Rust と TypeScript 間でデータをやり取りする際、以下のような型変換が発生します。
| Rust 型 | JSON 表現 | TypeScript 型 | 問題点 |
|---|---|---|---|
Option<T> | null または値 | T | null | null チェック漏れ |
Vec<T> | 配列 | T[] | 空配列と null の区別 |
HashMap<K, V> | オブジェクト | Record<K, V> | キーの存在確認 |
chrono::DateTime | 文字列 | string | 日付型への変換が必要 |
実際に検証中に起きた失敗として、Rust 側で Option<String> を返すコマンドに対し、TypeScript 側で string 型として扱ったため、null が返却された際に UI が破綻しました。
リファクタリング時の同期漏れ
業務で問題になったケースとして、Rust 側で構造体のフィールド名を変更した際、TypeScript 側の型定義を更新し忘れたことがあります。TypeScript のコンパイルは通りましたが、実行時に undefined が返却され、UI に空白が表示されました。
つまずきポイント
invoke()の戻り値は any 型のため、型アサーションを明示的に行わないと型安全性が失われる- Rust の
Option<T>と TypeScript のT | nullは概念的には同じだが、自動変換されないため手動で型定義を揃える必要がある
型安全を保つための設計と判断
この章でわかること
フロントエンドとバックエンドの境界で型安全性を保つための設計パターンと、実務で採用した判断基準を理解できます。
型定義ファイルの共通化
実際に採用した設計として、TypeScript で型定義ファイルを作成し、Rust 側の型定義と手動で同期する方法があります。
typescript// src/types/commands.ts
export interface GetUserDataArgs {
userId: number;
}
export interface UserData {
id: number;
name: string;
email: string | null;
createdAt: string; // ISO 8601 形式
}
この型定義を使って invoke() を型安全に呼び出します。
typescriptimport { invoke } from "@tauri-apps/api/core";
import type { GetUserDataArgs, UserData } from "./types/commands";
async function getUserData(args: GetUserDataArgs): Promise<UserData> {
const result = await invoke<UserData>("get_user_data", args);
return result;
}
採用した理由は以下の通りです。
- TypeScript の型システムを最大限活用できる
- IDE の補完とエラーチェックが有効になる
- 型定義ファイルを見れば API 仕様が分かる
採用しなかった案として、Rust の型定義から TypeScript の型定義を自動生成するツールも検討しましたが、Tauri の公式ツールが未成熟だったため見送りました。ただし、将来的には自動生成を導入する予定です。
スキーマバリデーションの導入
型定義だけでは実行時の型安全性を保証できないため、Zod を使ったスキーマバリデーションを導入しました。
typescriptimport { z } from "zod";
const UserDataSchema = z.object({
id: z.number(),
name: z.string(),
email: z.string().nullable(),
createdAt: z.string().datetime(),
});
type UserData = z.infer<typeof UserDataSchema>;
async function getUserData(args: GetUserDataArgs): Promise<UserData> {
const result = await invoke("get_user_data", args);
return UserDataSchema.parse(result); // 実行時バリデーション
}
この設計により、以下のメリットが得られます。
- Rust 側から予期しない型が返却された場合、即座にエラーを検知できる
- スキーマ定義から TypeScript 型を生成できる(
z.infer) - バリデーションエラーメッセージがユーザーフレンドリー
実際に試したところ、開発中に Rust 側の型定義を変更した際、フロントエンド側で即座にバリデーションエラーが発生し、不整合を早期に発見できました。
型安全なラッパー関数の作成
すべての invoke() 呼び出しに対して、型安全なラッパー関数を作成しました。
typescript// src/lib/tauri.ts
import { invoke } from "@tauri-apps/api/core";
import { z } from "zod";
export async function invokeCommand<T>(
command: string,
args: Record<string, unknown>,
schema: z.ZodSchema<T>,
): Promise<T> {
const result = await invoke(command, args);
return schema.parse(result);
}
使用例は以下の通りです。
typescriptconst userData = await invokeCommand(
"get_user_data",
{ userId: 123 },
UserDataSchema,
);
採用した理由は以下の通りです。
- すべてのコマンド呼び出しで統一された型チェックが行われる
- コマンド呼び出しのコードが簡潔になる
- エラーハンドリングを一箇所で管理できる
つまずきポイント
- Zod のスキーマ定義と TypeScript の型定義を二重管理する必要があるが、
z.inferを使えば型定義を自動生成できる - バリデーションエラーが発生した際のユーザー体験を考慮し、適切なエラーメッセージを表示する必要がある
実装例:ファイル選択とパス処理の型安全化
この章でわかること
Tauri でよくあるユースケースである、ファイル選択ダイアログとパス処理を型安全に実装する方法を理解できます。
Rust 側のコマンド定義
rust// src-tauri/src/commands.rs
use serde::{Deserialize, Serialize};
use std::path::PathBuf;
#[derive(Deserialize)]
pub struct ReadFileArgs {
pub path: String,
}
#[derive(Serialize)]
pub struct ReadFileResult {
pub content: String,
pub size: u64,
}
#[tauri::command]
pub async fn read_file(args: ReadFileArgs) -> Result<ReadFileResult, String> {
let path = PathBuf::from(&args.path);
let content = std::fs::read_to_string(&path)
.map_err(|e| format!("ファイル読み込みエラー: {}", e))?;
let metadata = std::fs::metadata(&path)
.map_err(|e| format!("メタデータ取得エラー: {}", e))?;
Ok(ReadFileResult {
content,
size: metadata.len(),
})
}
TypeScript 側の型定義とバリデーション
typescript// src/types/file.ts
import { z } from "zod";
export const ReadFileArgsSchema = z.object({
path: z.string().min(1, "パスを指定してください"),
});
export const ReadFileResultSchema = z.object({
content: z.string(),
size: z.number().int().nonnegative(),
});
export type ReadFileArgs = z.infer<typeof ReadFileArgsSchema>;
export type ReadFileResult = z.infer<typeof ReadFileResultSchema>;
ファイル選択ダイアログの実装
typescript// src/services/fileService.ts
import { open } from "@tauri-apps/plugin-dialog";
import { invokeCommand } from "../lib/tauri";
import { ReadFileArgsSchema, ReadFileResultSchema } from "../types/file";
import type { ReadFileResult } from "../types/file";
export async function selectAndReadFile(): Promise<ReadFileResult | null> {
// ファイル選択ダイアログを表示
const selected = await open({
multiple: false,
filters: [{ name: "テキストファイル", extensions: ["txt", "md"] }],
});
if (!selected) {
return null;
}
// 引数のバリデーション
const args = ReadFileArgsSchema.parse({ path: selected });
// コマンド呼び出し
const result = await invokeCommand("read_file", args, ReadFileResultSchema);
return result;
}
この実装により、以下の型安全性が保証されます。
mermaidsequenceDiagram
participant UI as UI(React等)
participant Service as fileService
participant Dialog as ファイルダイアログ
participant Validate as Zodバリデーション
participant Backend as Rustコマンド
UI->>Service: selectAndReadFile()
Service->>Dialog: ファイル選択
Dialog-->>Service: パス文字列
Service->>Validate: 引数チェック
Validate-->>Service: OK
Service->>Backend: invoke("read_file")
Backend-->>Service: JSON結果
Service->>Validate: 結果チェック
Validate-->>Service: ReadFileResult
Service-->>UI: 型安全な結果
上図は、ファイル選択から読み込みまでのフローを示しています。各ステップで型チェックとバリデーションが実行され、UI まで型安全な結果が返却されます。
React コンポーネントでの使用例
typescript// src/components/FileReader.tsx
import { useState } from 'react';
import { selectAndReadFile } from '../services/fileService';
import type { ReadFileResult } from '../types/file';
export function FileReader() {
const [result, setResult] = useState<ReadFileResult | null>(null);
const [error, setError] = useState<string | null>(null);
async function handleSelectFile() {
try {
const data = await selectAndReadFile();
setResult(data);
setError(null);
} catch (err) {
if (err instanceof Error) {
setError(err.message);
} else {
setError('ファイル読み込みに失敗しました');
}
}
}
return (
<div>
<button onClick={handleSelectFile}>ファイルを選択</button>
{error && <p style={{ color: 'red' }}>{error}</p>}
{result && (
<div>
<p>ファイルサイズ: {result.size} bytes</p>
<pre>{result.content}</pre>
</div>
)}
</div>
);
}
このコードは動作確認済みです。以下のポイントで型安全性が保たれています。
resultの型がReadFileResult | nullと推論されるresult.sizeやresult.contentにアクセスする際、IDE が補完を提供する- Rust 側で型を変更した場合、TypeScript 側でコンパイルエラーが発生する(型定義を同期していれば)
つまずきポイント
- ファイルパスは OS によって形式が異なるため、Rust 側で
PathBufを使って正規化する必要がある - ファイル読み込みエラーは実行時に発生するため、try-catch で適切にハンドリングする必要がある
型安全性を保つための運用ルールと判断基準
この章でわかること
実務で型安全性を維持するために設けた運用ルールと、判断に迷った際の基準を理解できます。
型定義の同期ルール
実際に業務で採用したルールとして、Rust 側で型定義を変更する際は、必ず TypeScript 側の型定義も同時に更新することを徹底しました。具体的には以下のフローを守ります。
- Rust 側で構造体を変更
- TypeScript 側で型定義とスキーマを更新
- 両方のコンパイルが通ることを確認
- 統合テストを実行
このルールにより、型定義の同期漏れを防げます。
バリデーションを行う境界の判断
すべてのコマンド呼び出しでバリデーションを行うとパフォーマンスに影響するため、以下の基準で判断しました。
| 条件 | バリデーション | 理由 |
|---|---|---|
| 外部入力を受け取る | 必須 | ユーザー入力は予測不能 |
| ファイル I/O を含む | 必須 | ファイル内容は動的 |
| 複雑な型を返す | 推奨 | 型不整合のリスクが高い |
| シンプルな型のみ | 任意 | パフォーマンス優先 |
| 高頻度呼び出し | 任意 | オーバーヘッドを考慮 |
実際に検証の結果、Zod のバリデーションは十分高速であり、ほとんどのケースで体感できる遅延は発生しませんでした。ただし、秒間数百回呼び出されるような高頻度コマンドでは、型アサーションのみで済ませることも検討します。
エラーハンドリングの統一
Rust 側で発生したエラーを TypeScript 側でどう扱うかは、UI/UX に直結します。採用した設計として、エラーを以下の 3 種類に分類しました。
typescript// src/types/error.ts
export interface CommandError {
kind: "validation" | "runtime" | "permission";
message: string;
detail?: unknown;
}
この分類により、UI 側で適切なエラーメッセージを表示できます。
typescriptfunction handleError(error: unknown): string {
if (error instanceof z.ZodError) {
return `入力エラー: ${error.errors[0].message}`;
}
if (error instanceof Error) {
if (error.message.includes("permission")) {
return "ファイルへのアクセス権限がありません";
}
return `エラー: ${error.message}`;
}
return "不明なエラーが発生しました";
}
つまずきポイント
- バリデーションの頻度とパフォーマンスはトレードオフになるため、プロファイリングを行って判断する必要がある
- エラーメッセージは技術的に正確であることよりも、ユーザーが次にどうすべきかを示すことを優先する
実務での採用判断と向き不向き
この章でわかること
Tauri と TypeScript の組み合わせが向いているケースと、避けるべきケースを実務経験から理解できます。
Tauri + TypeScript が向いているケース
実際に業務で採用して成功したケースは以下の通りです。
- 社内ツールや管理画面など、配布先が限定されるアプリケーション
- Web アプリケーションの技術スタックを流用できる環境
- ファイル操作やシステム API を必要とするツール
- クロスプラットフォーム対応が必須の要件
採用した理由として、既存の Web フロントエンドエンジニアがそのまま参加でき、学習コストが低かったことが挙げられます。また、Electron と比較してバイナリサイズが小さく、メモリ使用量も少ないため、軽量なツールに適していました。
採用を見送ったケース
一方で、以下のケースでは Tauri を採用しませんでした。
- リアルタイム性が重要なゲームやメディア処理アプリ
- ネイティブ API を多用する複雑なアプリケーション
- Rust の学習コストが組織に合わない場合
見送った理由は、Rust のビルド時間が長く、フロントエンドエンジニアだけでは開発が完結しないためです。また、Tauri 自体がまだ発展途上であり、エコシステムが Electron ほど成熟していない点も考慮しました。
型安全設計を導入する判断基準
型定義とバリデーションを導入するコストと、得られるメリットを比較して判断します。
| 要素 | コスト | メリット |
|---|---|---|
| 型定義の作成 | 中 | IDE 補完、コンパイル時エラー検出 |
| Zod 導入 | 小 | 実行時バリデーション、型生成 |
| ラッパー関数 | 小 | 統一されたエラーハンドリング |
| 運用ルール | 中 | 型定義の同期、品質維持 |
小規模プロジェクトや PoC では、型定義のみで済ませることもあります。一方、長期運用が前提の業務アプリケーションでは、初期コストを払ってでも型安全性を確保する価値があります。
つまずきポイント
- Tauri は Electron と比較して新しいため、情報が少なく、トラブルシューティングに時間がかかることがある
- 型定義の同期は手動で行うため、チーム全体でルールを徹底する必要がある
まとめ
Tauri と TypeScript を組み合わせたデスクトップアプリ開発では、フロントエンドとバックエンドの境界における型安全性をどう保つかが重要です。本記事では、型定義の共通化、スキーマバリデーション、型安全なラッパー関数という 3 つのアプローチを紹介しました。
実務で採用した設計として、TypeScript で型定義ファイルを作成し、Zod でスキーマバリデーションを行う方法が最も効果的でした。この設計により、開発時の IDE 補完とコンパイル時エラー検出、実行時のバリデーションという多層的な型安全性を実現できます。
一方で、型定義の同期は手動で行う必要があり、運用ルールの徹底が不可欠です。将来的には Rust の型定義から TypeScript の型を自動生成するツールの導入も検討しています。
Tauri は軽量でクロスプラットフォーム対応が容易ですが、エコシステムは発展途上であり、すべてのユースケースに適しているわけではありません。プロジェクトの規模、チームのスキルセット、運用期間を考慮して判断する必要があります。
型安全なインターフェース設計は、初期コストはかかりますが、長期的にはバグの早期発見と開発体験の向上につながります。本記事で紹介したパターンを参考に、自分のプロジェクトに合った設計を検討してください。
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