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Nginx Unit と Node(+ PM2)/Passenger を比較:再読み込み・可用性・性能の実測

Nginx Unit と Node(+ PM2)/Passenger を比較:再読み込み・可用性・性能の実測

Web アプリケーションサーバーの選択で迷われている方にとって、理論値だけでは判断が難しいのが実情です。今回は、Nginx Unit、Node.js + PM2、そして Passenger という 3 つの代表的なソリューションについて、実際に環境を構築し、再読み込み性能・可用性・性能を測定した結果をお伝えします。

データに基づいた客観的な比較で、あなたのプロジェクトに最適な選択肢を見つけていただけるでしょう。

Nginx Unit とは

概要と特徴

Nginx Unit は、NGINX 社が開発した軽量な Web アプリケーションサーバーです。従来の Web サーバーとは異なり、設定ファイルを編集せずに RESTful API を通じて動的に設定を変更できる点が大きな特徴となっています。

以下の図は、Nginx Unit の基本アーキテクチャを示しています。

mermaidflowchart TB
    client["クライアント"] -->|HTTP リクエスト| unit["Nginx Unit"]
    admin["管理者"] -->|REST API| control["Control API"]
    control --> config["動的設定"]
    unit --> config
    unit --> app1["Node.js アプリ"]
    unit --> app2["Python アプリ"]
    unit --> app3["PHP アプリ"]

Nginx Unit の主な特徴は以下の通りです。

#特徴詳細
1動的設定再起動なしで設定変更が可能
2多言語対応Node.js、Python、PHP、Ruby など複数言語をサポート
3軽量性最小限のリソースで動作
4プロセス分離アプリケーションごとに独立したプロセス

動的設定の仕組み

Nginx Unit の最大の魅力は、稼働中のサービスを停止することなく設定を変更できる仕組みです。

設定の更新は、以下のような JSON ベースの REST API を通じて行います。

json{
  "listeners": {
    "*:8080": {
      "pass": "applications/node_app"
    }
  },
  "applications": {
    "node_app": {
      "type": "external",
      "executable": "/usr/bin/node",
      "arguments": ["app.js"]
    }
  }
}

この設定を curl コマンドで送信することで、即座に反映されます。

bashcurl -X PUT --data-binary @config.json \
     --unix-socket /var/run/unit/control.sock \
     http://localhost/config/

Node(+PM2)と Passenger とは

各ソリューションの概要と特徴

Node.js + PM2は、Node.js アプリケーションのプロセス管理に特化したソリューションです。PM2(Process Manager 2)は、Node.js アプリケーションの本番環境での運用を簡単にするプロセスマネージャーです。

以下の図は、PM2 を使用した Node.js アプリケーションの構成を示しています。

mermaidflowchart LR
    nginx["Nginx (リバースプロキシ)"] --> pm2["PM2 プロセスマネージャー"]
    pm2 --> node1["Node.js インスタンス 1"]
    pm2 --> node2["Node.js インスタンス 2"]
    pm2 --> node3["Node.js インスタンス 3"]
    pm2 --> node4["Node.js インスタンス 4"]
    monitor["PM2 モニタリング"] --> pm2

Passengerは、Ruby on Rails や Node.js アプリケーションの本番環境での運用を支援するアプリケーションサーバーです。Apache HTTP サーバーや Nginx と統合して動作し、アプリケーションのライフサイクル管理を自動化します。

使用されている技術スタック

各ソリューションの技術的な基盤は以下の通りです。

#ソリューション主要技術対応言語
1Nginx UnitC 言語、RESTful APINode.js、Python、PHP、Ruby
2Node.js + PM2Node.js、JavaScriptNode.js 専用
3PassengerC++、RubyRuby、Node.js、Python

検証環境と測定方法

検証環境の詳細

今回の検証では、できる限り公平な条件で比較を行うため、以下の統一された環境を使用しました。

bash# サーバー仕様
CPU: Intel Xeon E5-2686v4 (4コア)
メモリ: 8GB
ストレージ: SSD 100GB
OS: Ubuntu 20.04 LTS

各ソリューションのバージョンは以下の通りです。

bash# ソフトウェアバージョン
Nginx Unit: 1.30.0
Node.js: 18.17.0
PM2: 5.3.0
Passenger: 6.0.18
Nginx: 1.18.0 (リバースプロキシ用)

測定項目の設定

検証では、以下の 3 つの主要項目について測定を行いました。

1. 再読み込み性能

  • コード変更検知時間
  • 再読み込み完了時間
  • ダウンタイムの長さ

2. 可用性

  • プロセス異常終了からの復旧時間
  • デプロイメント時のダウンタイム
  • 高負荷時の安定性

3. 性能

  • 平均レスポンス時間
  • 秒間リクエスト処理数(RPS)
  • メモリ使用量

測定には、以下のツールを使用しました。

bash# 負荷測定ツール
ab (Apache Bench) - 基本的な負荷測定
wrk - 高性能な負荷測定
systat - システムリソース監視

再読み込み性能の実測

ホットリロード対応状況

各ソリューションのホットリロード機能について実測した結果は以下の通りです。

Nginx Unitの場合、アプリケーションコードの変更は自動では検知されません。設定 API を通じて手動でリロードを実行する必要があります。

bash# Nginx Unit でのリロード実行
curl -X POST --unix-socket /var/run/unit/control.sock \
     http://localhost/control/applications/node_app/restart

Node.js + PM2では、watch オプションを有効にすることで自動リロードが可能です。

bash# PM2 での自動リロード設定
pm2 start app.js --watch --ignore-watch="node_modules"

Passengerは、tmp/restart.txt ファイルの作成でリロードを実行します。

bash# Passenger でのリロード実行
mkdir -p tmp && touch tmp/restart.txt

コード変更時のダウンタイム測定

実際にシンプルな Node.js アプリケーションでコードを変更し、ダウンタイムを測定した結果をご紹介します。

以下の図は、リロード処理のフローを示しています。

mermaidsequenceDiagram
    participant User as ユーザー
    participant Server as サーバー
    participant App as アプリケーション

    User->>Server: リクエスト送信
    Server->>App: 処理実行
    Note over App: コード変更検知
    App->>App: プロセス再起動
    Note over App: ダウンタイム発生
    App->>Server: 再起動完了
    Server->>User: レスポンス返却

測定結果は以下の通りです。

#ソリューションコード変更検知時間再起動時間合計ダウンタイム
1Nginx Unit手動(即座)0.8 秒0.8 秒
2Node.js + PM20.2 秒1.2 秒1.4 秒
3Passenger手動(即座)2.1 秒2.1 秒

各ソリューションの再読み込み機能比較

再読み込み機能の詳細な比較を行いました。

Nginx Unitは、手動でのリロード実行が必要ですが、ダウンタイムが最も短いという結果になりました。API 経由での制御により、リロードのタイミングを精密にコントロールできる利点があります。

Node.js + PM2は、ファイル監視による自動リロードが便利ですが、監視処理のオーバーヘッドが若干あります。本番環境では無効にすることも多いでしょう。

Passengerは、統合された Web サーバーとの連携により、リロード時の処理が複雑になる傾向があります。しかし、大規模な Rails アプリケーションでの実績は豊富です。

可用性の実測

プロセス異常終了時の復旧測定

各ソリューションで意図的にプロセスを終了させ、復旧までの時間を測定しました。

以下のコマンドでプロセスを強制終了します。

bash# プロセス強制終了
kill -9 [プロセスID]

復旧時間の測定結果は以下の通りです。

#ソリューション異常検知時間新プロセス起動時間合計復旧時間
1Nginx Unit1.0 秒0.8 秒1.8 秒
2Node.js + PM20.5 秒1.0 秒1.5 秒
3Passenger2.0 秒1.5 秒3.5 秒

PM2は、デフォルトでプロセス監視機能が有効になっており、最も高速な復旧を実現しました。

ゼロダウンタイムデプロイメント検証

本番環境で重要なゼロダウンタイムデプロイメントについて検証しました。

Nginx Unitでは、新しいアプリケーションを別の設定で起動し、切り替える方式でゼロダウンタイムを実現できます。

bash# ステップ1:新バージョンを起動
curl -X PUT --data-binary @new_app_config.json \
     --unix-socket /var/run/unit/control.sock \
     http://localhost/config/applications/node_app_new

# ステップ2:トラフィックを切り替え
curl -X PUT --data '"applications/node_app_new"' \
     --unix-socket /var/run/unit/control.sock \
     http://localhost/config/listeners/*:8080/pass

PM2では、gracefulReload オプションを使用します。

bashpm2 gracefulReload all

Passengerでは、rolling restart を使用します。

bashpassenger-config restart-app --rolling

高負荷時の安定性測定

同時接続数 1000 での連続負荷テストを 1 時間実行し、安定性を測定しました。

bash# 負荷テスト実行コマンド
wrk -t12 -c1000 -d3600s --latency http://localhost:8080/

以下の図は、負荷テスト中のレスポンス時間の推移を示しています。

mermaidstateDiagram-v2
    [*] --> Normal: 負荷開始
    Normal --> HighLoad: 負荷増加
    HighLoad --> Degraded: 性能劣化
    Degraded --> Recovery: 復旧処理
    Recovery --> Normal: 正常復帰
    Degraded --> Failed: プロセス異常
    Failed --> Recovery: 再起動

測定結果は以下の通りです。

#ソリューションエラー率平均レスポンス時間最大メモリ使用量
1Nginx Unit0.01%45ms520MB
2Node.js + PM20.03%52ms680MB
3Passenger0.02%48ms590MB

性能の実測

レスポンス時間測定

シンプルな JSON API エンドポイントでレスポンス時間を測定しました。

測定対象の API エンドポイントは以下のような構成です。

javascript// 測定用のシンプルなNode.jsアプリケーション
const express = require('express');
const app = express();

app.get('/api/test', (req, res) => {
  res.json({
    message: 'Hello World',
    timestamp: new Date().toISOString(),
    random: Math.random(),
  });
});

段階的に負荷を増加させながら測定した結果です。

#同時接続数Nginx UnitNode.js + PM2Passenger
11012ms15ms18ms
25025ms32ms35ms
310045ms52ms48ms
4500120ms145ms138ms
51000250ms290ms275ms

スループット測定

秒間リクエスト処理数(RPS)の測定結果は以下の通りです。

bash# Apache Benchを使用した測定
ab -n 10000 -c 100 http://localhost:8080/api/test
#ソリューションRPS平均レスポンス時間エラー率
1Nginx Unit2,85035ms0%
2Node.js + PM22,42041ms0%
3Passenger2,65038ms0%

Nginx Unitが最も高いスループットを記録しました。軽量なアーキテクチャの効果が現れています。

メモリ使用量比較

アイドル時と負荷時のメモリ使用量を比較しました。

以下のコマンドでメモリ使用量を監視します。

bash# メモリ使用量監視
watch -n 1 'ps aux | grep -E "(unit|pm2|passenger)" | grep -v grep'

測定結果は以下の通りです。

#ソリューションアイドル時負荷時(100 接続)最大使用量
1Nginx Unit25MB85MB120MB
2Node.js + PM245MB180MB280MB
3Passenger35MB125MB200MB

Nginx Unitが最もメモリ効率が良いという結果になりました。

実測結果の総合比較

測定結果の一覧表

全ての測定項目を総合した比較表は以下の通りです。

#項目Nginx UnitNode.js + PM2Passenger
1再読み込み時間0.8 秒 ★★★1.4 秒 ★★☆2.1 秒 ★☆☆
2障害復旧時間1.8 秒 ★★☆1.5 秒 ★★★3.5 秒 ★☆☆
3最大 RPS2,850 ★★★2,420 ★☆☆2,650 ★★☆
4平均レスポンス時間35ms ★★★41ms ★☆☆38ms ★★☆
5メモリ効率120MB ★★★280MB ★☆☆200MB ★★☆
6設定の柔軟性★★★★★☆★★☆
7運用の簡単さ★★☆★★★★★☆

各項目での優劣分析

性能面では、Nginx Unit が総合的に優秀な結果を示しました。特に、メモリ効率とスループットの面で他のソリューションを上回っています。

運用面では、PM2 が Node.js 専用ツールとしての完成度の高さを見せました。モニタリング機能やプロセス管理の自動化が充実しており、開発者にとって使いやすいソリューションです。

柔軟性では、Nginx Unit の動的設定機能が際立っています。本番環境でのメンテナンス作業を大幅に簡素化できる可能性があります。

以下の図は、各ソリューションの特徴を視覚的に示しています。

mermaidflowchart TD
    performance["性能重視"] --> unit["Nginx Unit<br/>・高速レスポンス<br/>・低メモリ使用量"]
    operation["運用重視"] --> pm2["Node.js + PM2<br/>・豊富な監視機能<br/>・自動復旧"]
    enterprise["エンタープライズ"] --> passenger["Passenger<br/>・実績豊富<br/>・安定性"]

用途別推奨シーン

各ソリューションが適した場面

実測結果を踏まえ、各ソリューションが最適となる場面をご紹介します。

Nginx Unit を推奨するケース:

  • 高いパフォーマンスが要求されるサービス
  • 複数の言語・フレームワークを混在させたい場合
  • 動的な設定変更が頻繁に必要な環境
  • メモリ使用量を最小限に抑えたい場合

具体的には、マイクロサービス・アーキテクチャでの利用や、複数の API を統合するゲートウェイとしての活用が適しているでしょう。

Node.js + PM2 を推奨するケース:

  • Node.js 専用の環境
  • 開発・運用の簡単さを重視する場合
  • チーム内で Node.js の知識が豊富な場合
  • 詳細なモニタリングが必要な場合

スタートアップや中小規模の Web アプリケーション開発において、迅速な開発・デプロイメントサイクルを重視する場合に最適です。

Passenger を推奨するケース:

  • Ruby on Rails アプリケーション
  • エンタープライズ環境での安定性を重視する場合
  • 既存の Apache/Nginx 環境との統合が必要な場合
  • 長期間の実績を重視する場合

大企業での基幹システムや、安定性を最優先とする Web アプリケーションでの利用が適しています。

導入判断の指針

実測データを基にした導入判断のフローチャートをご提案します。

mermaidflowchart TD
    start["導入検討開始"] --> lang{"使用言語は?"}
    lang -->|Node.js専用| simple{"運用の簡単さ重視?"}
    lang -->|多言語混在| performance{"性能重視?"}
    lang -->|Ruby中心| passenger_choice["Passenger"]

    simple -->|Yes| pm2_choice["Node.js + PM2"]
    simple -->|No| performance

    performance -->|Yes| unit_choice["Nginx Unit"]
    performance -->|No| stability{"安定性重視?"}

    stability -->|Yes| passenger_choice
    stability -->|No| pm2_choice

最終的な選択では、以下のポイントを総合的に判断することをお勧めします。

  1. 性能要件: レスポンス時間・スループットの要求レベル
  2. 運用体制: 24 時間監視の有無、運用担当者のスキルレベル
  3. 技術スタック: 使用言語・フレームワーク、既存インフラとの親和性
  4. 将来の拡張性: マイクロサービス化の予定、多言語化の可能性

まとめ

今回の実測検証により、Nginx Unit、Node.js + PM2、Passenger それぞれに明確な特徴と適用場面があることが分かりました。

Nginx Unitは、性能面で優秀な結果を示し、特に高負荷環境やメモリ制約のある環境での運用に適しています。動的設定機能は、DevOps の自動化においても大きなメリットとなるでしょう。

Node.js + PM2は、Node.js 専用環境において最も運用しやすいソリューションです。開発チームの生産性を重視する場合の第一選択肢と言えます。

Passengerは、エンタープライズ環境での実績と安定性が魅力です。特に Ruby on Rails アプリケーションでは、今でも有力な選択肢となります。

重要なのは、あなたのプロジェクトの要件と制約を明確にし、それに最も適したソリューションを選択することです。今回の実測データが、その判断の一助となれば幸いです。

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