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Git の fetch と pull の違いを理解してトラブルを回避する方法

Git の fetch と pull の違いを理解してトラブルを回避する方法

Git を使った開発では、リモートリポジトリから最新の変更を取得することが日常的に行われます。しかし、git fetchgit pull コマンドの違いを正しく理解せずに使うと、思わぬトラブルに遭遇することがあります。

本記事では、これらのコマンドの違いを実践的に学び、安全で効率的な Git ワークフローを身につける方法をご紹介します。実際の開発現場でよく遭遇するトラブル事例と、その回避方法も詳しく解説いたします。

Git の基本概念

リモートリポジトリとローカルリポジトリ

Git における開発では、主に 2 つのリポジトリが存在します。

mermaidflowchart TB
    remote[リモートリポジトリ<br/>GitHub/GitLab等]
    local[ローカルリポジトリ<br/>開発者のPC]
    working[作業ディレクトリ<br/>編集中のファイル]

    remote <-->|fetch/pull<br/>push| local
    local <-->|add/commit<br/>checkout| working

リモートリポジトリは、GitHub や GitLab などのサーバー上にあるメインのリポジトリです。チームメンバー全員が共有し、最新の変更が集約される場所になります。

ローカルリポジトリは、開発者個人の PC 上にある Git リポジトリのコピーです。ここでコミット履歴の管理や、リモートとの同期処理を行います。

Git のデータ取得の仕組み

Git でリモートから変更を取得する際には、以下の段階的な処理が行われます。

mermaidflowchart LR
    step1[リモートの変更確認]
    step2[データのダウンロード]
    step3[ローカルブランチへの反映]

    step1 --> step2
    step2 --> step3

    step1 -.->|fetch は<br/>ここまで| stop1[停止]
    step3 -.->|pull は<br/>最後まで実行| done[完了]

この仕組みを理解することで、fetch と pull の違いがより明確になります。fetch は途中で停止し、開発者が安全性を確認してから次のステップに進めるのです。

fetch と pull の基本的な違い

fetch とは何か

git fetch は、リモートリポジトリから最新の変更情報をダウンロードしますが、ローカルの作業ブランチには自動的にマージしません。

bashgit fetch origin main

fetch を実行した後の状態を確認できます:

bash# リモートの最新コミットを確認
git log origin/main

# ローカルとリモートの差分を確認
git diff main origin/main

fetch は「情報収集」の段階で、実際の作業領域には影響を与えません。これにより、安全に最新の状態を把握できるのです。

pull とは何か

git pull は、fetch とマージを一度に実行する便利なコマンドです。

bashgit pull origin main
# 上記は以下と同等
git fetch origin main
git merge origin/main

pull は効率的ですが、自動的にマージが実行されるため、予期しないコンフリクトが発生する可能性があります。

処理の流れ比較

2 つのコマンドの処理フローを比較してみましょう:

mermaidflowchart TD
    start[コマンド実行]
    fetch_cmd{fetchか<br/>pullか}
    download[リモートから<br/>データダウンロード]
    update_remote[リモート追跡<br/>ブランチ更新]
    fetch_end[fetch 完了<br/>確認可能]
    auto_merge[自動マージ実行]
    pull_end[pull 完了]

    start --> fetch_cmd
    fetch_cmd -->|fetch| download
    fetch_cmd -->|pull| download
    download --> update_remote
    update_remote -->|fetch| fetch_end
    update_remote -->|pull| auto_merge
    auto_merge --> pull_end

このフローから、fetch は中間段階で停止し、pull は最後まで自動実行されることがわかります。

よくあるトラブル事例

マージコンフリクトの発生

pull を使った際に最も頻繁に遭遇するのが、マージコンフリクトです。

発生パターン: 同じファイルの同じ行を、ローカルとリモートで異なる内容に変更した場合

bashgit pull origin main
# Auto-merging src/config.js
# CONFLICT (content): Merge conflict in src/config.js
# Automatic merge failed; fix conflicts and then commit the result.

リスク

  • 作業が中断される
  • コンフリクト解決に時間がかかる
  • 誤った解決により機能が破損する可能性

意図しない変更の上書き

pull の自動マージにより、意図せずローカルの変更が上書きされるケースです。

bashgit pull origin main
# 作業中のファイルが予期せず変更される
# 元の状態に戻すのが困難になる

典型的な状況

  • 作業中の実験的な変更がある状態で pull を実行
  • リモートに同じファイルの変更がプッシュされていた場合

ローカル作業の消失

最も深刻なトラブルとして、未コミットの作業が消失するケースがあります。

bash# 未コミットの変更がある状態で
git pull origin main
# error: Your local changes to 'src/app.js' would be overwritten by merge.
# Please commit your changes or stash them before you merge.

回避できない状況

  • 緊急でリモートの修正を取り込む必要がある
  • ローカルの変更が未完成でコミットできない状態

安全な使い分け方法

fetch を使うべき場面

fetch は以下の状況で積極的に活用しましょう:

1. 作業開始時の状況確認

bash# 朝一の作業開始時
git fetch origin
git status
git log --oneline main..origin/main

2. 作業中の定期的なリモート確認

bash# 2-3時間おきにリモートの更新をチェック
git fetch origin
# 新しい変更があるかを確認
git diff main origin/main --stat

3. 複雑な変更の事前確認

bash# 大きな変更の前に影響範囲を把握
git fetch origin
git show origin/main
git diff main origin/main

pull を使うべき場面

pull は以下の限定的な状況で使用することをお勧めします:

1. クリーンな状態での更新

bash# 未コミットの変更がない状態で
git status
# On branch main
# nothing to commit, working tree clean
git pull origin main

2. 新しくブランチを作成する直前

bash# 最新の main ブランチから新機能ブランチを作成
git checkout main
git pull origin main
git checkout -b feature/new-function

実践的なワークフロー

安全で効率的な日々の作業フローをご紹介します:

mermaidflowchart TD
    start[作業開始]
    fetch1[git fetch origin]
    check[リモート更新確認]
    has_update{新しい変更<br/>があるか}
    safe_merge[安全なマージ判断]
    local_work[ローカル作業]
    commit[作業のコミット]
    fetch2[git fetch origin]
    final_check[最終確認]
    push[git push]

    start --> fetch1
    fetch1 --> check
    check --> has_update
    has_update -->|あり| safe_merge
    has_update -->|なし| local_work
    safe_merge --> local_work
    local_work --> commit
    commit --> fetch2
    fetch2 --> final_check
    final_check --> push

推奨手順

  1. 作業開始時は必ず fetch で状況確認
  2. リモートの変更があれば内容を精査
  3. 安全と判断できればマージまたは pull
  4. ローカル作業を実施
  5. 作業完了後、再度 fetch で確認してから push

具体的なコマンド例

fetch の実行方法

基本的な fetch

bash# 特定のブランチを fetch
git fetch origin main

# 全てのリモートブランチを fetch
git fetch origin

# すべてのリモートから fetch
git fetch --all

fetch 後の確認コマンド

bash# リモートの最新コミットを表示
git log origin/main --oneline -10

# ローカルとの差分確認
git diff main origin/main

# 変更されたファイル一覧
git diff main origin/main --name-only

pull の実行方法

基本的な pull

bash# 現在のブランチに対応するリモートブランチから pull
git pull

# 特定のリモートブランチから pull
git pull origin main

# リベースオプション付き pull
git pull --rebase origin main

安全な pull のための事前確認

bash# 未コミット変更の確認
git status

# ローカルの変更をスタッシュ
git stash

# pull を実行
git pull origin main

# スタッシュを復元
git stash pop

オプション解説

fetch の主要オプション

オプション説明使用例
--allすべてのリモートから取得git fetch --all
--prune削除されたリモートブランチを整理git fetch --prune
--tagsタグ情報も取得git fetch --tags

pull の主要オプション

オプション説明使用例
--rebaseマージではなくリベースで統合git pull --rebase
--no-commit自動コミットを無効化git pull --no-commit
--ff-onlyFast-forward のみ許可git pull --ff-only

--ff-only オプションの安全性

bash# Fast-forward マージのみを許可(安全)
git pull --ff-only origin main
# Fast-forward できない場合はエラーで停止
# fatal: Not possible to fast-forward, aborting.

このオプションを使うことで、複雑なマージを回避し、安全に更新できます。

まとめ

Git の fetch と pull の使い分けをマスターすることで、開発効率が大幅に向上し、トラブルリスクを最小限に抑えることができます。

重要なポイント

  • fetch はリスクの少ない情報収集コマンド
  • pull は便利だが自動マージのリスクがある
  • 作業開始時は必ず fetch で状況確認
  • 不安な場合は fetch → 確認 → manual merge の手順を推奨
  • --ff-only オプションで安全な pull を実現

日々の開発で意識的にこれらのコマンドを使い分けることで、より安全で効率的な Git ワークフローを構築できるでしょう。チーム開発においても、メンバー全員がこの理解を共有することで、プロジェクト全体の安定性が向上します。

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