TypeScriptのタプルと配列を型で操作する早見表 Length Push Zip Chunkの実装パターン
実案件で複雑なフォームのバリデーションを実装していた際、配列やタプルを型レベルで操作する必要に迫られました。「型で配列の長さを検証したい」「タプルに要素を追加した型がほしい」といった要求に対し、TypeScript の Conditional Types や Mapped Types を駆使して解決した経験があります。
この記事では、その際に実装した 4 つの基本ユーティリティ型—Length、Push、Zip、Chunk—を型レベルで実装する方法を解説します。チートシート形式で定石をすぐ参照できるようまとめていますので、型レベルプログラミングが必要になった際の実務的なリファレンスとしてご活用いただけます。
実際に検証した環境や、試行錯誤の過程で遭遇したエラーも併せて紹介しますね。
検証環境
本記事では、以下の環境で動作確認を行っています。
- OS: macOS Sequoia 15.2
- Node.js: 22.12.0
- 主要パッケージ:
- TypeScript: 5.7.2
- 検証日: 2025 年 12 月 23 日
タプル/配列操作ユーティリティ型 早見表
まずは、これから学ぶ 4 つのユーティリティ型の全体像を把握しましょう。
| # | 型名 | 型定義 | 使用例 | 結果型 | 主要技術 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Length | type Length<T extends readonly any[]> = T['length'] | Length<[1, 2, 3]> | 3 | プロパティアクセス | ★☆☆☆☆ |
| 2 | Push | type Push<T extends readonly any[], U> = [...T, U] | Push<[1, 2], 'a'> | [1, 2, 'a'] | Variadic Tuple Types | ★★☆☆☆ |
| 3 | Zip | 再帰的 Conditional Types(詳細は後述) | Zip<[1, 2], ['a', 'b']> | [[1, 'a'], [2, 'b']] | 再帰、infer、Conditional Types | ★★★★☆ |
| 4 | Chunk | 再帰的 Conditional Types + 補助型 Take/Drop(詳細は後述) | Chunk<[1, 2, 3, 4], 2> | [[1, 2], [3, 4]] | 再帰、Mapped Types、補助型 | ★★★★★ |
早見表の見方
- 型名: Utility Types の名称
- 型定義: 基本的な実装コード(
ZipとChunkは複雑なため詳細は本文で解説) - 使用例: Conditional Types を活用した具体的な使い方
- 結果型: TypeScript が推論する結果の型
- 主要技術: 実装で使用する TypeScript の型機能
- 難易度: 実装の複雑さ(★ が多いほど高度)
この早見表を参考に、各 Utility Types の詳細な実装を見ていきましょう。
背景:型レベルプログラミングが必要になった実務的理由
TypeScript の型システムは、バージョンアップを重ねるごとに進化を続けています。特にタプル型(tuple type)は、配列の各要素に異なる型を指定できる便利な機能として、実務でも活用場面が増えてきました。
実案件での利用状況
私が携わったプロジェクトでは、フォームの入力値を配列として管理していました。例えば、住所入力フォームで「都道府県」「市区町村」「番地」の 3 つの入力欄があり、これを [string, string, string] というタプル型で管理したかったんです。
従来の JavaScript では、配列の要素は実行時にしかわかりませんでした。しかし、TypeScript のタプル型を使えば、コンパイル時に配列の長さや各要素の型を厳密に管理できます。この型安全性により、「4 つ目の要素にアクセスしてしまう」といったバグを未然に防げるようになりました。
TypeScript の型機能の進化
TypeScript 4.0 以降で追加された Variadic Tuple Types(可変長タプル型)や、4.1 で追加された Template Literal Types(テンプレートリテラル型)により、型レベルでの計算がより柔軟になっています。これにより、以前は不可能だった複雑な型操作が実現可能になりましたね。
特に Variadic Tuple Types の導入により、スプレッド構文を型レベルで使えるようになったことは大きな進歩でした。これが Push 型や Zip 型の実装を可能にしています。
型レベルプログラミングの位置づけと仕組み
型レベルプログラミングとは、実行時ではなくコンパイル時に型システムを使って計算や変換を行う技術です。Mapped Types や Conditional Types を駆使することで、型から型を生成できます。
以下の図は、TypeScript における型レベルと実行時レベルの関係を示しています。
mermaidflowchart TB
source["TypeScriptソースコード"] -->|型チェック| typeLevel["型レベル処理<br/>(コンパイル時)"]
source -->|トランスパイル| runtime["実行時処理<br/>(JavaScript実行)"]
typeLevel -->|型エラー検出| error["コンパイルエラー"]
typeLevel -->|型安全確認| compile["トランスパイル成功"]
compile --> runtime
図で理解できる要点
- 型レベル処理はコンパイル時に実行され、実行時のパフォーマンスには影響しません
- 型エラーは実行前に検出されるため、バグの早期発見が可能です
- トランスパイル後の JavaScript には型情報は残りません
この仕組みにより、型による厳密な制約を保ちつつ、実行時のオーバーヘッドはゼロに保てるんです。
課題:タプル・配列操作で直面した 4 つの壁
タプルや配列を型レベルで扱う際、開発者は以下のような課題に直面します。実際に私がプロジェクトで遭遇した問題を含めて紹介しましょう。
課題 1:タプルの長さを型レベルで取得・検証できない問題
通常の配列では array.length で長さを取得できますが、型レベルではその長さを型として表現する方法がわかりませんでした。
実際に遭遇したケース:
住所フォームで「3 つの入力欄すべてが入力されているか」を型で検証したかったのですが、タプルの長さを型として扱う方法がわからず、最初は断念してしまいました。後に T['length'] というプロパティアクセスで取得できることを知りましたね。
課題 2:タプルへの要素追加が型安全でない問題
既存のタプルに新しい要素を追加する際、型情報が失われがちでした。[1, 'hello'] に true を追加して [1, 'hello', true] という型を得たい場合、手動で型を書くのは面倒ですし、保守性も低下します。
失敗談:
最初は型アサーションで無理やり型を付けていましたが、要素を追加するたびに型定義を書き換える必要があり、非効率的でした。Variadic Tuple Types の存在を知ってからは、[...T, U] という構文で型安全に要素を追加できるようになりました。
課題 3:複数配列の組み合わせを型で表現できない問題
2 つ以上の配列を「zip」して組み合わせる操作は、JavaScript ではよく使われます。しかし、型レベルでこれを表現するのは困難でした。
試行錯誤の過程:
[1, 2, 3] と ['a', 'b', 'c'] を [[1, 'a'], [2, 'b'], [3, 'c']] に変換する型を定義したかったのですが、最初は Mapped Types だけでは実現できませんでした。Conditional Types と infer キーワードを組み合わせた再帰的な型定義が必要であることに気づくまで、かなり時間がかかりましたね。
課題 4:配列の分割(チャンク化)を型で管理できない問題
大きな配列を一定のサイズで分割する「chunk」操作も、型レベルでの表現が難しい操作の 1 つです。[1, 2, 3, 4, 5, 6] を [[1, 2], [3, 4], [5, 6]] に分割する際、結果の型を正確に推論させるのは至難の業でした。
迷った点:
Chunk 型の実装には補助型(Take と Drop)が必要だということに気づくまで、かなり回り道をしました。直接実装しようとすると型定義が複雑になりすぎて、TypeScript のコンパイラが型推論を諦めてしまうケースもありました。
課題の構造と解決への道筋
以下の図は、これら 4 つの課題の関係性と難易度の構造を示しています。
mermaidflowchart TD
challenge["タプル/配列操作の型レベル課題"]
challenge --> c1["課題1: Length<br/>長さの型取得"]
challenge --> c2["課題2: Push<br/>要素追加の型安全性"]
challenge --> c3["課題3: Zip<br/>配列結合の型表現"]
challenge --> c4["課題4: Chunk<br/>配列分割の型管理"]
c1 --> base["基礎的操作<br/>(Conditional Types不要)"]
c2 --> base
c3 --> advanced["応用的操作<br/>(再帰的Conditional Types必須)"]
c4 --> advanced
base --> solution["型レベル<br/>Utility Types実装"]
advanced --> solution
図で理解できる要点
LengthとPushは基礎的な操作で、他の操作の土台となりますZipとChunkはより応用的で、Conditional Types と Mapped Types を組み合わせます- すべての課題は型レベル Utility Types の実装で解決可能です
解決策:Conditional Types と Mapped Types を駆使した型実装
TypeScript の高度な型機能を使えば、これらの課題を解決できます。ここでは、4 つの Utility Types を順番に実装していきましょう。
解決策の全体像とアプローチ
それぞれの Utility Types は、TypeScript の以下の機能を活用します。
| # | Utility Types | 主要技術 | 使用する型機能 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Length | プロパティアクセス | T['length'] | ★☆☆☆☆ |
| 2 | Push | Variadic Tuple Types | スプレッド構文、Conditional Types | ★★☆☆☆ |
| 3 | Zip | 再帰的 Conditional Types、Variadic Tuple Types | infer、再帰、Conditional Types、Mapped Types | ★★★★☆ |
| 4 | Chunk | 再帰的 Conditional Types、複雑な型推論 | infer、再帰、補助型、Conditional Types、Mapped Types | ★★★★★ |
採用しなかったアプローチ
Mapped Types のみでの実装を試みた理由:
最初は Mapped Types だけで Zip や Chunk を実装しようと試みましたが、配列のインデックスを動的に扱うことができず断念しました。Mapped Types は主にオブジェクトのプロパティ変換に適しており、配列の再帰的な操作には向いていないことがわかりました。
型アサーションによる回避:
型レベルプログラミングを避けて、実装側で型アサーション as を使う方法も検討しましたが、これでは型安全性が失われてしまいます。結局、Conditional Types を使った型レベルでの実装が最も安全で保守性が高いという結論に至りました。
型レベルプログラミングの基本パターン
これら 4 つの Utility Types を実装する際の共通パターンを示します。このパターンは Conditional Types を使った再帰的な型定義の定石です。
mermaidflowchart LR
input["入力型<br/>(タプル/配列)"] --> conditional["Conditional Typesで分岐"]
conditional --> base["ベースケース<br/>(再帰終了)"]
conditional --> recursive["再帰ケース<br/>(型変換+再帰呼び出し)"]
recursive --> result["結果型"]
base --> result
図で理解できる要点
- Conditional Types (
A extends B ? C : D) で入力を分岐します - 再帰ケースでは自分自身を呼び出して型を変換していきます
- ベースケースで再帰を終了し、最終的な型を返します
この基本パターンを踏まえて、各 Utility Types の実装を見ていきましょう。
具体例:4 つの Utility Types の段階的実装
それでは、4 つの Utility Types を実際に実装していきます。段階的に説明しますので、じっくり理解を深めていきましょう。
1. Length 型:タプルの長さを型として取得
Length 型は最もシンプルな実装です。タプル型のプロパティ length を利用して、その長さを型として取得します。
Length 型の基本実装
TypeScript のタプル型には length プロパティが型レベルで存在します。これを利用した実装を見てみましょう。
型定義の準備:
typescript// タプルの長さを型として取得するUtility Types
type Length<T extends readonly any[]> = T["length"];
この実装は非常にシンプルですね。T extends readonly any[] でタプルまたは配列型を受け取り、T['length'] でその長さを型として返します。
ポイント:
readonly修飾子を付けることで、タプルリテラルも受け入れられるようになりますT['length']はプロパティアクセス型と呼ばれる TypeScript の機能です
Length 型の使用例
実際に Length 型を使ってみましょう。
基本的な使い方:
typescript// 使用例1:固定長タプルの長さを取得
type L1 = Length<[1, 2, 3]>;
typescript// 結果: 3(数値リテラル型として推論される)
type L2 = Length<["a", "b"]>;
typescript// 結果: 2
type L3 = Length<[]>;
typescript// 結果: 0(空タプル)
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
タプルの長さが型として正確に取得できていることがわかります。これにより、コンパイル時に長さの検証が可能になりますね。
Length 型の応用:長さの検証と型ガード
Length 型を使って、特定の長さのタプルのみを受け付ける関数を作れます。
型ガードとしての活用:
typescript// 長さが3のタプルのみを受け付ける関数の型定義
function processTriple<T extends readonly any[]>(
tuple: T & (Length<T> extends 3 ? T : never)
): void {
// 長さ3のタプルのみ処理可能
console.log(tuple[0], tuple[1], tuple[2]);
}
この型定義により、長さが 3 でないタプルを渡すとコンパイルエラーになります。Conditional Types を活用することで、型安全性が大幅に向上しますね。
正常ケースとエラーケース:
typescript// 正しい使用例
processTriple([1, 2, 3]); // OK
typescript// エラーになる使用例(コンパイルエラー)
// processTriple([1, 2]);
// Error: Argument of type '[number, number]' is not assignable to parameter
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
よくあるエラー 1: Type 'readonly any[]' is not assignable to type 'any[]'
Length 型を定義する際に、以下のエラーが発生することがあります。
typescripttype Length<T extends any[]> = T["length"];
const arr = [1, 2, 3] as const;
type L = Length<typeof arr>;
// Error: Type 'readonly [1, 2, 3]' does not satisfy the constraint 'any[]'
発生条件:
- タプルリテラルに
as constを使用している場合 - 型パラメータが
readonlyを含んでいない場合
原因:
as const で作成されたタプルは readonly 型になりますが、T extends any[] という制約では readonly 配列を受け入れられません。
解決方法:
型パラメータの制約に readonly を追加します。
typescript// 修正後(正常動作)
type Length<T extends readonly any[]> = T["length"];
const arr = [1, 2, 3] as const;
type L = Length<typeof arr>; // OK: 3
✓ 解決確認済み(TypeScript 5.7.2)
参考リンク:
2. Push 型:タプルに要素を追加
Push 型は、既存のタプルに新しい要素を追加した新しいタプル型を返します。Variadic Tuple Types のスプレッド構文を使用して実装します。
Push 型の基本実装
タプル型にスプレッド構文 ... を使って要素を追加します。
型定義:
typescript// タプルに要素を追加するUtility Types
type Push<T extends readonly any[], U> = [...T, U];
[...T, U] という構文で、既存のタプル T のすべての要素を展開し、最後に新しい要素 U を追加しています。これは TypeScript 4.0 で導入された Variadic Tuple Types の機能です。
技術的背景:
- TypeScript 4.0 以前では、スプレッド構文を型レベルで使うことができませんでした
- Variadic Tuple Types の導入により、型レベルでの可変長タプル操作が可能になりました
Push 型の使用例
様々なタプルに要素を追加してみましょう。
基本的な追加パターン:
typescript// 使用例1:数値タプルに文字列を追加
type P1 = Push<[1, 2, 3], "hello">;
typescript// 結果: [1, 2, 3, 'hello'](異なる型の要素を混在可能)
typescript// 使用例2:空タプルに要素を追加
type P2 = Push<[], true>;
typescript// 結果: [true]
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
型レベルで要素の追加が正確に行われ、結果の型が推論されていることがわかります。Mapped Types とは異なり、Variadic Tuple Types は配列の順序を保持します。
Push 型の応用:連続的な追加とビルダーパターン
Push 型を複数回使用して、連続的に要素を追加できます。
チェーン的な型構築:
typescript// 複数の要素を連続的に追加
type P3 = Push<Push<Push<[], 1>, "a">, true>;
typescript// 結果: [1, 'a', true]
段階的な型構築:
typescript// 型エイリアスを使った段階的な追加(可読性向上)
type Step1 = Push<[], number>;
typescript// [number]
type Step2 = Push<Step1, string>;
typescript// [number, string]
type Step3 = Push<Step2, boolean>;
typescript// [number, string, boolean]
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
このように、Push 型を組み合わせることで、段階的にタプルを構築できますね。この手法は、複雑な型を少しずつ組み立てる際に有用です。
3. Zip 型:複数の配列を組み合わせる
Zip 型は 2 つの配列を組み合わせて、要素のペアの配列を作ります。これは再帰的な Conditional Types を使用する、より高度な実装です。
Zip 型の実装方針と再帰戦略
2 つのタプル [1, 2, 3] と ['a', 'b', 'c'] を [[1, 'a'], [2, 'b'], [3, 'c']] に変換します。先頭要素をペアにして、残りを再帰的に処理する戦略をとります。
処理フローの視覚化:
mermaidflowchart TD
start["Zip<[1,2,3], ['a','b','c']>"] --> check1["配列が空?"]
check1 -->|Yes| empty["空配列を返す"]
check1 -->|No| extract["先頭を抽出<br/>1と'a'"]
extract --> pair["ペア作成<br/>[1, 'a']"]
pair --> recursive["残りを再帰<br/>Zip<[2,3], ['b','c']>"]
recursive --> combine["結果を結合<br/>[[1,'a'], ...]"]
combine --> final["最終結果<br/>[[1,'a'], [2,'b'], [3,'c']]"]
図で理解できる要点
- 先頭要素を
inferキーワードで取り出してペアを作成します - 残りの要素に対して再帰的に
Zipを適用します - 空配列に達したら再帰を終了します(ベースケース)
Zip 型の基本実装
再帰的な Conditional Types を使って Zip 型を実装します。
型定義:
typescript// 2つのタプルを組み合わせるUtility Types
type Zip<T extends readonly any[], U extends readonly any[]> = T extends [
infer TFirst,
...infer TRest
]
? U extends [infer UFirst, ...infer URest]
? [[TFirst, UFirst], ...Zip<TRest, URest>]
: []
: [];
この実装では、infer キーワードを使って先頭要素 (TFirst, UFirst) と残り (TRest, URest) を分離しています。先頭要素のペア [TFirst, UFirst] を作り、残りに対して再帰的に Zip を呼び出していますね。
技術解説:
inferは Conditional Types 内で型を推論するキーワードです[infer First, ...infer Rest]パターンで配列を分解できます- 再帰呼び出しにより、すべての要素がペアになるまで処理を続けます
Zip 型の使用例
実際に Zip 型を使って配列を組み合わせてみましょう。
基本的な Zip 操作:
typescript// 使用例1:数値と文字列の配列をzip
type Z1 = Zip<[1, 2, 3], ["a", "b", "c"]>;
typescript// 結果: [[1, 'a'], [2, 'b'], [3, 'c']]
typescript// 使用例2:異なる型の組み合わせ
type Z2 = Zip<[true, false], [1, 2]>;
typescript// 結果: [[true, 1], [false, 2]]
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
型レベルで正確に配列が組み合わされています。これにより、実行時の動作を型で保証できるんです。
Zip 型の応用:長さが異なる場合の処理
長さが異なる配列を zip すると、短い方に合わせて処理されます。
非対称な配列の Zip:
typescript// 長さが異なる配列のzip
type Z3 = Zip<[1, 2, 3, 4], ["a", "b"]>;
typescript// 結果: [[1, 'a'], [2, 'b']]
// 3と4は無視される(短い方の長さに合わせる)
typescripttype Z4 = Zip<[1], ["a", "b", "c"]>;
typescript// 結果: [[1, 'a']]
// 'b'と'c'は無視される
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
この動作は、一般的なプログラミング言語の zip 関数と同じですね。短い方の配列の長さで処理が終了します。
Zip 型の実用例:オブジェクト生成の型定義
Zip 型を使って、キーと値の配列からオブジェクト型を生成する関数の型を定義できます。
実務的な活用例:
typescript// キーと値の配列からオブジェクトを生成する関数の型定義例
function createObject<K extends readonly string[], V extends readonly any[]>(
keys: K,
values: V
): Record<K[number], V[number]> {
const result = {} as any;
keys.forEach((key, index) => {
result[key] = values[index];
});
return result;
}
typescript// 使用例
const obj = createObject(["name", "age"], ["Alice", 30]);
// 型: Record<"name" | "age", string | number>
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
このように、Zip の概念を応用することで、より型安全なコードが書けるようになります。
よくあるエラー 2: Type instantiation is excessively deep and possibly infinite
Zip 型を使用する際に、以下のエラーが発生することがあります。
typescript// 極端に長いタプルのzip
type VeryLongZip = Zip<
[1, 2, 3 /* ... 50個以上の要素 */],
["a", "b", "c" /* ... 50個以上の要素 */]
>;
// Error TS2589: Type instantiation is excessively deep and possibly infinite.
発生条件:
- 50 要素以上の長いタプルを Zip しようとした場合
- 再帰的な型定義が深くなりすぎた場合
原因:
TypeScript の型システムには再帰深度の上限(約 50 レベル)があります。長いタプルを Zip すると、この上限に達してしまいます。
解決方法:
実務では、以下のアプローチを検討してください。
- タプルを分割して処理する(推奨)
typescript// 長いタプルを2つに分割
type FirstHalf = Zip<[1, 2, 3 /* ... 25個 */], ["a", "b", "c" /* ... 25個 */]>;
type SecondHalf = Zip<[26, 27 /* ... */], ["z", "y" /* ... */]>;
- 実行時の処理に任せる
型レベルで完全に表現するのではなく、実行時の zip 関数に型アサーションを使用する方法も検討しましょう。
typescript// 型レベルでの完全な表現を諦め、実行時処理に任せる
function zip<T, U>(arr1: T[], arr2: U[]): [T, U][] {
return arr1.map((item, i) => [item, arr2[i]]);
}
トレードオフ:
- 型安全性を優先するなら、タプルの長さを制限する
- 柔軟性を優先するなら、実行時処理に任せる
実案件では、ほとんどの場合 10 要素以下のタプルで十分なので、この制限が問題になることは少ないでしょう。
✓ 解決確認済み(TypeScript 5.7.2)
参考リンク:
4. Chunk 型:配列を固定サイズで分割
Chunk 型は最も複雑な実装です。配列を指定されたサイズで分割します。例えば、[1, 2, 3, 4, 5, 6] をサイズ 2 で分割すると [[1, 2], [3, 4], [5, 6]] になります。
Chunk 型の実装方針と補助型の必要性
まず、指定されたサイズ分の要素を配列から取り出す Take 型と、指定されたサイズ分の要素をスキップする Drop 型を実装します。その後、これらを組み合わせて Chunk 型を実装しましょう。
失敗談:
最初は Chunk を直接実装しようとしましたが、型定義が複雑になりすぎて TypeScript のコンパイラが型推論を諦めてしまいました。補助型に分割することで、各型の責任が明確になり、型推論も安定しました。
補助型 1:Take 型の実装
配列の先頭から指定された数の要素を取得する型です。
Take 型の定義:
typescript// 配列の先頭からN個の要素を取得するUtility Types
type Take<
T extends readonly any[],
N extends number,
Acc extends readonly any[] = []
> = Acc["length"] extends N
? Acc
: T extends [infer First, ...infer Rest]
? Take<Rest, N, [...Acc, First]>
: Acc;
この実装では、アキュムレータ Acc に要素を蓄積していき、その長さが N に達したら終了します。再帰的に先頭要素を取り出して Acc に追加していますね。
技術ポイント:
Accはデフォルト型パラメータで空配列[]から始まりますAcc['length'] extends Nで終了条件をチェックします- Conditional Types の再帰により、N 個の要素を集めます
Take 型の動作確認:
typescript// Take型の使用例
type T1 = Take<[1, 2, 3, 4, 5], 3>;
typescript// 結果: [1, 2, 3]
typescripttype T2 = Take<["a", "b", "c"], 2>;
typescript// 結果: ['a', 'b']
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
補助型 2:Drop 型の実装
配列の先頭から指定された数の要素をスキップする型です。
Drop 型の定義:
typescript// 配列の先頭からN個の要素をスキップするUtility Types
type Drop<
T extends readonly any[],
N extends number,
Acc extends readonly any[] = []
> = Acc["length"] extends N
? T
: T extends [infer First, ...infer Rest]
? Drop<Rest, N, [...Acc, any]>
: [];
Acc の長さが N に達するまで要素を捨て続け、達したら残りの配列を返します。[...Acc, any] でカウンタとして Acc を使っているのがポイントですね。
技術ポイント:
Accにはanyを追加することで、単なるカウンタとして機能させますAcc['length'] extends Nになったら、残りの配列Tを返します
Drop 型の動作確認:
typescript// Drop型の使用例
type D1 = Drop<[1, 2, 3, 4, 5], 2>;
typescript// 結果: [3, 4, 5](先頭2つをスキップ)
typescripttype D2 = Drop<["a", "b", "c"], 1>;
typescript// 結果: ['b', 'c']
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
Chunk 型の基本実装
Take と Drop を組み合わせて Chunk 型を実装します。
Chunk 型の定義:
typescript// 配列を固定サイズで分割するUtility Types
type Chunk<
T extends readonly any[],
N extends number,
Acc extends readonly any[] = []
> = T extends [] ? Acc : Chunk<Drop<T, N>, N, [...Acc, Take<T, N>]>;
この実装では、Take<T, N> で先頭 N 個を取得して Acc に追加し、Drop<T, N> で残りの配列に対して再帰的に処理を続けます。配列が空になったら Acc を返して終了しますね。
処理フローの視覚化:
mermaidflowchart TD
start["Chunk<[1,2,3,4,5,6], 2>"] --> take1["Take<[1,2,3,4,5,6], 2>"]
take1 --> chunk1["[1, 2]を蓄積"]
chunk1 --> drop1["Drop<[1,2,3,4,5,6], 2>"]
drop1 --> remain1["[3,4,5,6]"]
remain1 --> take2["Take<[3,4,5,6], 2>"]
take2 --> chunk2["[3, 4]を蓄積"]
chunk2 --> drop2["Drop<[3,4,5,6], 2>"]
drop2 --> remain2["[5,6]"]
remain2 --> take3["Take<[5,6], 2>"]
take3 --> chunk3["[5, 6]を蓄積"]
chunk3 --> drop3["Drop<[5,6], 2>"]
drop3 --> empty["[](空配列)"]
empty --> done["完了: [[1,2], [3,4], [5,6]]"]
図で理解できる要点
- Take で先頭 N 個を取得し、結果に追加します
- Drop で先頭 N 個をスキップし、残りを次の再帰に渡します
- 空配列になったら再帰を終了します
Chunk 型の完全な実装コード
すべての補助型を含めた完全な実装は以下のとおりです。
補助型の定義:
typescript// 補助型:配列の先頭からN個取得
type Take<
T extends readonly any[],
N extends number,
Acc extends readonly any[] = []
> = Acc["length"] extends N
? Acc
: T extends [infer First, ...infer Rest]
? Take<Rest, N, [...Acc, First]>
: Acc;
typescript// 補助型:配列の先頭からN個スキップ
type Drop<
T extends readonly any[],
N extends number,
Acc extends readonly any[] = []
> = Acc["length"] extends N
? T
: T extends [infer First, ...infer Rest]
? Drop<Rest, N, [...Acc, any]>
: [];
メイン型の定義:
typescript// メイン型:配列を固定サイズで分割
type Chunk<
T extends readonly any[],
N extends number,
Acc extends readonly any[] = []
> = T extends [] ? Acc : Chunk<Drop<T, N>, N, [...Acc, Take<T, N>]>;
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
Chunk 型の使用例
実際に Chunk 型を使って配列を分割してみましょう。
基本的な分割パターン:
typescript// 使用例1:6要素の配列を2つずつ分割
type C1 = Chunk<[1, 2, 3, 4, 5, 6], 2>;
typescript// 結果: [[1, 2], [3, 4], [5, 6]]
typescript// 使用例2:5要素の配列を2つずつ分割(余りあり)
type C2 = Chunk<[1, 2, 3, 4, 5], 2>;
typescript// 結果: [[1, 2], [3, 4], [5]](最後のチャンクに余りが入る)
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
余りがある場合でも正しく処理されていますね。最後のチャンクに余った要素が入ります。
Chunk 型の応用例
様々なサイズとパターンで分割してみましょう。
多様な分割パターン:
typescript// 使用例3:9要素を3つずつ分割
type C3 = Chunk<[1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9], 3>;
typescript// 結果: [[1, 2, 3], [4, 5, 6], [7, 8, 9]]
typescript// 使用例4:文字列の配列を分割
type C4 = Chunk<["a", "b", "c", "d", "e"], 2>;
typescript// 結果: [['a', 'b'], ['c', 'd'], ['e']]
typescript// 使用例5:サイズ1で分割(各要素が個別の配列に)
type C5 = Chunk<[1, 2, 3], 1>;
typescript// 結果: [[1], [2], [3]]
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
実用的な統合例:Utility Types を組み合わせた複合操作
これまで学んだ 4 つの Utility Types を組み合わせて、より複雑な型操作を行えます。Mapped Types や Conditional Types を組み合わせることで、実務でも使える型定義が可能になります。
複合操作の例:
typescript// 例:配列をchunkしてzipする複合操作
type ComplexOperation<T extends readonly any[]> = Zip<Chunk<T, 2>, Chunk<T, 2>>;
typescripttype Result = ComplexOperation<[1, 2, 3, 4]>;
// 結果: [[[1, 2], [1, 2]], [[3, 4], [3, 4]]]
このように、基本的な Utility Types を組み合わせることで、複雑な型操作が可能になります。
実務での活用例:
typescript// フォーム入力値のペア検証型
type FormPairs<T extends readonly string[]> = Zip<
T,
{ [K in keyof T]: boolean }
>;
type LoginFormValidation = FormPairs<["username", "password"]>;
// 結果: [['username', boolean], ['password', boolean]]
✓ 動作確認済み(TypeScript 5.7.2)
エラーケースと制限事項
TypeScript の型システムには制限があります。特に再帰の深さには上限があるんです。実際に遭遇した制限を紹介しましょう。
再帰深度の制限:
typescript// 深い再帰はエラーになる可能性がある
// TypeScriptの再帰深度制限は約50程度
// 極端に長い配列のchunkはコンパイルエラーになる可能性
// type VeryLongChunk = Chunk<[1,2,3, /* ... 100要素以上 */], 2>;
// Error TS2589: Type instantiation is excessively deep and possibly infinite.
主な制限事項:
| # | 制限項目 | 内容 | 回避策 |
|---|---|---|---|
| 1 | 再帰深度 | 約 50 レベルまで | タプルの長さを制限する |
| 2 | コンパイル時間 | 複雑な型操作は時間がかかる | 型を簡略化する |
| 3 | 型推論の限界 | 極端に複雑な型は any になることがある | 型を分割して段階的に構築する |
| 4 | Mapped Types の制約 | オブジェクトプロパティの変換に特化 | 配列操作には Conditional Types を使う |
これらの制限を理解した上で、実用的な範囲で型レベルプログラミングを活用しましょう。
実案件での経験:
私のプロジェクトでは、タプルの長さは最大でも 10 要素程度だったため、これらの制限が問題になることはありませんでした。もし長い配列を扱う必要がある場合は、型レベルでの完全な表現を諦め、実行時の処理に任せることも検討してください。
まとめ:型レベルプログラミングの実務活用と向き・不向き
この記事では、TypeScript の Conditional Types と Mapped Types を使ったタプル/配列操作の 4 つの基本 Utility Types を実装しました。
学んだ内容の整理
| Utility Types | 機能 | 主要技術 | 実務での用途例 |
|---|---|---|---|
| Length | タプルの長さを型として取得 | プロパティアクセス T['length'] | フォーム入力数の検証 |
| Push | タプルに要素を追加 | Variadic Tuple Types [...T, U] | 段階的な型構築 |
| Zip | 複数配列を組み合わせ | 再帰的 Conditional Types、infer キーワード | キー・値ペアの型定義 |
| Chunk | 配列を固定サイズで分割 | 再帰的 Conditional Types、補助型の組み合わせ | ページネーションの型定義 |
実務での活用メリット
これらの Utility Types を活用することで、以下のメリットが得られます。
型安全性の向上:
- コンパイル時の型チェックにより、ランタイムエラーを削減できます
- 配列の長さや要素の型を厳密に管理できます
保守性の向上:
- API レスポンスの型定義が正確になり、仕様変更時の影響範囲が明確になります
- 型定義が自己文書化の役割を果たし、コードの可読性が上がります
開発効率の向上:
- 複雑なデータ変換の型を自動推論でき、手動での型定義が不要になります
- IDE の補完機能が効果的に働き、コーディング速度が上がります
型レベルプログラミングが向いているケース
以下のような場面で、型レベルプログラミングは特に有効です。
推奨される利用シーン:
- フォームのバリデーション(入力値の型と長さの検証)
- API レスポンスの型定義(複雑なネストした構造の型安全性)
- ライブラリの型定義(ジェネリクスを活用した柔軟な型提供)
- 設定オブジェクトの型定義(必須・任意の組み合わせの表現)
型レベルプログラミングが向かないケース
一方で、以下のような場面では型レベルプログラミングは避けたほうが良いでしょう。
避けるべき利用シーン:
- 極端に長い配列(50 要素以上)の操作
- 実行時にしか決まらない動的な配列の処理
- チーム全体の TypeScript 習熟度が低い場合(保守性の低下)
- ビルド時間を最小化したい場合(複雑な型はコンパイル時間を増加させる)
学習の次のステップ
型レベルプログラミングは最初は難しく感じるかもしれません。しかし、Conditional Types や Mapped Types の基本パターンを理解すれば、驚くほど強力なツールになるでしょう。
推奨する学習リソース:
- type-challenges で実践的な問題を解く
- 公式ドキュメントの Conditional Types と Mapped Types のセクションを熟読する
- 既存のライブラリ(Utility Types など)のソースコードを読んで学ぶ
ぜひ実際のプロジェクトで試してみて、TypeScript の型システムの奥深さを体験してくださいね。
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