PWA（Progressive Web App）の需要が急速に高まる中、Svelte を使った PWA 開発が注目を集めています。Svelte の軽量性と高速性を活かして、ネイティブアプリのような体験を提供する PWA を効率的に構築できるからです。

本記事では、Svelte と SvelteKit を使って実際に PWA アプリを作成する手順を、初心者の方にもわかりやすく段階的に解説していきます。最終的にはオフライン対応やプッシュ通知機能まで実装できるようになります。

背景

PWA の市場動向と需要の高まり

現在の Web 開発において、PWA は重要な技術選択肢となっています。Google の調査によると、PWA を導入した企業の多くがユーザーエンゲージメントの向上を実現しているのです。

特に以下の要因により、PWA への注目が集まっています。

• モバイルファーストの世界: スマートフォンユーザーの増加により、アプリのような体験が求められている
• 開発コストの削減: ネイティブアプリとウェブアプリの一本化により、開発・保守コストを大幅に削減
• 配布の簡易化: アプリストアを経由せずに、URL からインストール可能

mermaidCopy codeflowchart TD
    traditional[従来の Web アプリ] -->|進化| pwa[PWA]
    native[ネイティブアプリ] -->|Web 技術で実現| pwa
    pwa --> benefits[利点]
    benefits --> cost[開発コスト削減]
    benefits --> distribution[配布の簡易化]
    benefits --> maintenance[保守性の向上]

Svelte の軽量性と高速性の優位性

Svelte は他のフレームワークと比較して、特に PWA 開発において大きな優位性を持っています。

パフォーマンス面での優位性

• 軽量なバンドルサイズ: React や Vue と比較して、約 40-60% 小さいバンドルサイズを実現
• ランタイムなし: コンパイル時に最適化されるため、ブラウザでのランタイム処理が最小限
• 高速な初期描画: 仮想 DOM を使わずに直接 DOM を操作するため、初期描画が高速

mermaidCopy codegraph LR
    build[ビルド時] -->|コンパイル| optimized[最適化されたコード]
    optimized -->|実行| browser[ブラウザ]
    browser -->|高速描画| ui[UI]

    style build fill:#e1f5fe
    style optimized fill:#f3e5f5
    style browser fill:#e8f5e8

従来フレームワークとの性能比較

以下の表で、主要フレームワークとの性能比較をご覧いただけます。

フレームワーク	バンドルサイズ	初期描画速度	メモリ使用量	PWA 適性
Svelte	★★★★★	★★★★★	★★★★★	★★★★★
React	★★★	★★★	★★★	★★★★
Vue	★★★★	★★★★	★★★★	★★★★
Angular	★★	★★	★★	★★★

この比較からもわかるように、Svelte は PWA 開発において最適な選択肢と言えるでしょう。

課題

PWA 開発の複雑さとハードル

PWA 開発には、通常の Web アプリ開発とは異なる複雑な要素が含まれています。多くの開発者が直面する主要な課題を見ていきましょう。

技術的な複雑さ

• Service Worker の理解: バックグラウンド処理やキャッシュ戦略の実装が複雑
• マニフェストファイル: 適切な設定項目の理解と最適化が必要
• オフライン対応: ネットワークが不安定な環境での動作保証

これらの課題により、多くの開発者が PWA 開発に躊躇してしまうのが現状です。

mermaidCopy codeflowchart TD
    start[PWA 開発開始] --> manifest[マニフェスト設定]
    manifest --> sw[Service Worker 実装]
    sw --> cache[キャッシュ戦略]
    cache --> offline[オフライン対応]
    offline --> push[プッシュ通知]
    push --> complex[複雑さの蓄積]
    complex --> barrier[開発ハードル]

ブラウザ対応の難しさ

PWA は比較的新しい技術のため、ブラウザごとの対応状況に差があります。

主要な対応課題

• iOS Safari の制限: Apple の PWA サポートは限定的で、一部機能が制限される
• ブラウザ固有の実装差: Chrome、Firefox、Safari で微妙に動作が異なる場合がある
• 古いブラウザへの対応: IE や古いバージョンでの動作保証が困難

オフライン対応の実装コスト

PWA の魅力的な機能であるオフライン対応ですが、実装には高いコストがかかります。

主要なコスト要因

• データ同期ロジック: オンライン復帰時の複雑な同期処理
• ストレージ管理: 限られた容量での効率的なデータ管理
• ユーザー体験設計: オフライン状態での適切な UI/UX 設計

これらの課題により、PWA 開発プロジェクトの工数が大幅に増加することが懸念されています。

解決策

Svelte を活用した PWA 開発手法

Svelte の特性を活かすことで、前述の課題を効果的に解決できます。以下に具体的なアプローチをご紹介します。

Svelte の優位性を活かした開発戦略

• 軽量性の活用: 小さなバンドルサイズにより、ネットワーク負荷を軽減
• コンパイル時最適化: ランタイムオーバーヘッドが少ないため、低スペックデバイスでも高速動作
• シンプルな学習コストライン: 既存の HTML、CSS、JavaScript 知識を活用可能

mermaidCopy codeflowchart LR
    challenges[PWA の課題] --> svelte[Svelte による解決]
    svelte --> lightweight[軽量化]
    svelte --> performance[高性能]
    svelte --> simple[シンプル実装]

    lightweight --> fast_load[高速読み込み]
    performance --> smooth_ui[スムーズな UI]
    simple --> low_cost[低開発コスト]

SvelteKit の PWA 機能活用

SvelteKit には PWA 開発を支援する豊富な機能が組み込まれています。これらを活用することで、開発効率を大幅に向上できます。

SvelteKit の主要 PWA 機能

• アダプター機能: 様々なデプロイ環境に対応した最適化
• プリレンダリング: 静的生成による高速な初期表示
• 自動的な Service Worker 生成: 設定ファイルから自動的に Service Worker を生成

Service Worker の効率的な実装方法

従来複雑とされていた Service Worker の実装も、Svelte エコシステムを活用することで大幅に簡素化できます。

効率的な実装アプローチ

• Workbox の活用: Google が開発した Service Worker ライブラリを使用
• 段階的実装: 基本的なキャッシュから始めて、徐々に高度な機能を追加
• 自動化ツールの活用: ビルドプロセスに組み込んだ自動化で人的ミスを削減

mermaidCopy codesequenceDiagram
    participant User as ユーザー
    participant App as Svelte App
    participant SW as Service Worker
    participant Cache as キャッシュ

    User->>App: アプリアクセス
    App->>SW: Service Worker 登録
    SW->>Cache: リソースキャッシュ
    User->>App: 再アクセス
    SW->>Cache: キャッシュから取得
    Cache->>User: 高速表示

これらの解決策により、PWA 開発のハードルを大幅に下げることができます。次の章では、実際の実装手順を詳しく見ていきましょう。

具体例

プロジェクト初期セットアップ

それでは実際に Svelte を使った PWA アプリの開発を始めましょう。まずは開発環境の構築から進めていきます。

Node.js と Yarn の準備

開発を始める前に、以下の環境が整っていることを確認してください。

bashCopy code# Node.js のバージョン確認（16.x 以上推奨）
node --version

# Yarn のインストール確認
yarn --version

SvelteKit プロジェクトの作成

新しい SvelteKit プロジェクトを作成します。PWA 対応のテンプレートを使用することで、初期設定を簡素化できます。

bashCopy code# SvelteKit プロジェクトの作成
yarn create svelte my-pwa-app

# プロジェクトディレクトリに移動
cd my-pwa-app

プロジェクト作成時のオプション選択では、以下を推奨します。

• TypeScript: Yes（型安全性のため）
• ESLint: Yes（コード品質管理）
• Prettier: Yes（コードフォーマット）
• Playwright: Yes（E2E テスト）

依存関係のインストール

PWA 開発に必要なパッケージをインストールします。

bashCopy code# 基本パッケージのインストール
yarn install

# PWA 関連パッケージの追加
yarn add -D @vite-pwa/sveltekit workbox-window

PWA マニフェスト設定

PWA として認識されるために、Web App Manifest ファイルの設定が必要です。これによりアプリのアイコンや表示方法を定義できます。

manifest.json の作成

static ディレクトリに manifest.json ファイルを作成します。

jsonCopy code{
  "name": "My PWA App",
  "short_name": "PWA App",
  "description": "Svelte で作成した高速 PWA アプリ",
  "start_url": "/",
  "display": "standalone",
  "background_color": "#ffffff",
  "theme_color": "#1976d2",
  "icons": [
    {
      "src": "/icon-192.png",
      "sizes": "192x192",
      "type": "image/png"
    },
    {
      "src": "/icon-512.png",
      "sizes": "512x512",
      "type": "image/png"
    }
  ]
}

HTML にマニフェストを追加

app.html ファイルでマニフェストファイルを読み込みます。

htmlCopy code<!DOCTYPE html>
<html lang="ja">
  <head>
    <meta charset="utf-8" />
    <link
      rel="icon"
      href="%sveltekit.assets%/favicon.png"
    />
    <meta name="viewport" content="width=device-width" />

    <!-- PWA マニフェスト -->
    <link rel="manifest" href="/manifest.json" />
    <meta name="theme-color" content="#1976d2" />

    %sveltekit.head%
  </head>
  <body data-sveltekit-preload-data="hover">
    <div style="display: contents">%sveltekit.body%</div>
  </body>
</html>

Service Worker 実装

Service Worker は PWA の核となる機能です。オフライン対応やバックグラウンド処理を可能にします。

Vite PWA プラグインの設定

vite.config.js を更新して、PWA プラグインを設定します。

javascriptCopy codeimport { sveltekit } from '@sveltejs/kit/vite';
import { SvelteKitPWA } from '@vite-pwa/sveltekit';

/** @type {import('vite').UserConfig} */
const config = {
  plugins: [
    sveltekit(),
    SvelteKitPWA({
      srcDir: './src',
      mode: 'development',
      scope: '/',
      base: '/',
      manifest: {
        short_name: 'PWA App',
        name: 'My PWA App',
        start_url: '/',
        scope: '/',
        display: 'standalone',
        theme_color: '#1976d2',
        background_color: '#ffffff',
      },
    }),
  ],
};

export default config;

Service Worker の基本実装

src​/​service-worker.js ファイルを作成し、基本的なキャッシュ機能を実装します。

javascriptCopy codeimport { build, files, version } from '$service-worker';

// キャッシュ名の定義
const CACHE = `cache-${version}`;

// プリキャッシュするファイル
const ASSETS = [
  ...build, // アプリケーションファイル
  ...files, // 静的ファイル
];

// Service Worker のインストール
self.addEventListener('install', (event) => {
  async function addFilesToCache() {
    const cache = await caches.open(CACHE);
    await cache.addAll(ASSETS);
  }

  event.waitUntil(addFilesToCache());
});

オフライン対応機能

PWA の大きな魅力の一つがオフライン対応です。ネットワークが不安定な環境でもアプリが動作するよう実装していきます。

フェッチイベントの処理

Service Worker でネットワークリクエストを制御します。

javascriptCopy code// フェッチイベントの処理
self.addEventListener('fetch', (event) => {
  // ナビゲーションリクエストの処理
  if (event.request.mode === 'navigate') {
    event.respondWith(
      (async () => {
        try {
          // ネットワークから取得を試行
          const preloadResponse =
            await event.preloadResponse;
          if (preloadResponse) {
            return preloadResponse;
          }

          const networkResponse = await fetch(
            event.request
          );
          return networkResponse;
        } catch (error) {
          // オフライン時はキャッシュから取得
          const cache = await caches.open(CACHE);
          const cachedResponse = await cache.match('/');
          return cachedResponse;
        }
      })()
    );
  }
});

オフライン状態の検知と UI 更新

アプリケーション側でオフライン状態を検知し、ユーザーに適切なフィードバックを提供します。

javascriptCopy code// src/lib/stores/network.js
import { writable } from 'svelte/store';
import { browser } from '$app/environment';

export const isOnline = writable(
  browser ? navigator.onLine : true
);

if (browser) {
  window.addEventListener('online', () =>
    isOnline.set(true)
  );
  window.addEventListener('offline', () =>
    isOnline.set(false)
  );
}

オフライン対応 UI コンポーネント

svelteCopy code<!-- src/lib/components/OfflineIndicator.svelte -->
<script>
  import { isOnline } from '$lib/stores/network.js';
</script>

{#if !$isOnline}
  <div class="offline-banner">
    <p>オフライン状態です。一部機能が制限される場合があります。</p>
  </div>
{/if}

<style>
  .offline-banner {
    background-color: #ff9800;
    color: white;
    padding: 8px 16px;
    text-align: center;
    position: fixed;
    top: 0;
    left: 0;
    right: 0;
    z-index: 1000;
  }
</style>

プッシュ通知の実装

PWA では、ネイティブアプリのようなプッシュ通知機能も実装できます。ユーザーエンゲージメントの向上に効果的です。

通知許可の取得

まずユーザーから通知許可を取得します。

javascriptCopy code// src/lib/utils/notifications.js
export async function requestNotificationPermission() {
  if (!('Notification' in window)) {
    throw new Error(
      'このブラウザは通知をサポートしていません'
    );
  }

  if (Notification.permission === 'granted') {
    return true;
  }

  if (Notification.permission !== 'denied') {
    const permission =
      await Notification.requestPermission();
    return permission === 'granted';
  }

  return false;
}

Service Worker でのプッシュ通知処理

javascriptCopy code// service-worker.js に追加
self.addEventListener('push', (event) => {
  if (event.data) {
    const data = event.data.json();

    const options = {
      body: data.body,
      icon: '/icon-192.png',
      badge: '/icon-192.png',
      data: data.url ? { url: data.url } : undefined,
    };

    event.waitUntil(
      self.registration.showNotification(
        data.title,
        options
      )
    );
  }
});

// 通知クリック時の処理
self.addEventListener('notificationclick', (event) => {
  event.notification.close();

  if (
    event.notification.data &&
    event.notification.data.url
  ) {
    event.waitUntil(
      clients.openWindow(event.notification.data.url)
    );
  }
});

デプロイと最適化

最後に、作成した PWA アプリを本番環境にデプロイし、パフォーマンスを最適化します。

ビルドとプロダクション準備

bashCopy code# プロダクション用ビルド
yarn build

# プレビューで動作確認
yarn preview

Lighthouse を使った PWA 監査

PWA の品質を確認するため、Lighthouse を使って監査を実行します。

bashCopy code# Lighthouse CLI のインストール
yarn global add lighthouse

# PWA 監査の実行
lighthouse http://localhost:4173 --only-categories=pwa --chrome-flags="--headless"

パフォーマンス最適化のポイント

• 画像の最適化: WebP フォーマットの使用
• コード分割: 動的インポートによる遅延読み込み
• プリロード戦略: 重要なリソースの優先読み込み

javascriptCopy code// 動的インポートの例
export async function loadHeavyComponent() {
  const { default: HeavyComponent } = await import(
    './HeavyComponent.svelte'
  );
  return HeavyComponent;
}

これで基本的な PWA アプリの実装が完成です。Svelte の軽量性により、高性能な PWA を効率的に開発できました。

まとめ

本記事では、Svelte を使用した PWA アプリの開発手順を段階的に解説してきました。Svelte の軽量性と高速性を活かすことで、従来の PWA 開発における課題を効果的に解決できることがおわかりいただけたでしょう。

重要なポイントの振り返り

Svelte PWA 開発の主要メリット

• 軽量なバンドルサイズ: 高速な読み込み時間を実現
• シンプルな実装: 複雑な PWA 機能も直感的に開発可能
• 優れたパフォーマンス: ネイティブアプリに匹敵するユーザー体験

実装で押さえるべきポイント

• SvelteKit の PWA プラグインを活用した効率的な開発
• Service Worker による適切なキャッシュ戦略の実装
• オフライン対応とプッシュ通知によるユーザーエンゲージメント向上

次のステップ

今回作成した基本的な PWA アプリをベースに、以下の拡張を検討してみてください。

• 認証機能: ユーザーログイン機能の追加
• データベース連携: リアルタイムデータ同期の実装
• 高度なキャッシュ戦略: Background Sync や Push API の活用

Svelte による PWA 開発は、今後も Web アプリケーション開発における重要な選択肢となるでしょう。ぜひ本記事の手順を参考に、実際の開発プロジェクトで活用してみてください。

関連リンク

• Svelte 公式サイト
• SvelteKit 公式ドキュメント
• Vite PWA プラグイン
• Web App Manifest - MDN
• Service Worker API - MDN
• PWA Builder - Microsoft
• Lighthouse - Google Developers
• Workbox - Google Developers