LlamaIndex の Chunk 設計最適化:長文性能と幻覚率を両立する分割パターン
RAG(Retrieval-Augmented Generation)システムを構築する際、Chunk の設計は検索精度と応答品質を左右する重要な要素です。LlamaIndex を使った開発では、文書をどのように分割するかで、長文への対応力や幻覚(Hallucination)の発生率が大きく変わってきます。
本記事では、LlamaIndex における Chunk 設計の最適化手法を詳しく解説します。長文を扱う際のパフォーマンスと、LLM が事実と異なる情報を生成してしまう幻覚率の両立を目指した、実践的な分割パターンをご紹介しましょう。
背景
RAG システムにおける Chunk の役割
RAG システムでは、大量の文書データをベクトル化してデータベースに保存し、ユーザーの質問に対して関連する文書を検索して LLM に渡します。この時、文書全体をそのまま扱うのではなく、適切なサイズの「Chunk(塊)」に分割することが一般的です。
以下の図は、RAG システムにおける基本的なデータフローを示しています。
mermaidflowchart TD
doc["元文書"] -->|分割| chunks["複数の Chunk"]
chunks -->|埋め込み| vectors["ベクトル化"]
vectors -->|保存| db[("ベクトル DB")]
query["ユーザー質問"] -->|埋め込み| qvec["質問ベクトル"]
qvec -->|類似検索| db
db -->|取得| relevant["関連 Chunk"]
relevant -->|コンテキスト| llm["LLM"]
llm -->|生成| answer["回答"]
図で示したように、Chunk は検索の最小単位となり、LLM に渡されるコンテキストの構成要素となります。適切な Chunk 設計により、検索精度と応答品質の両方が向上するのです。
LlamaIndex の特徴
LlamaIndex は Python で実装された RAG フレームワークで、文書の読み込みから Chunk 分割、ベクトル化、検索、LLM への受け渡しまでを一貫してサポートします。柔軟な Chunk 分割オプションと、複数の検索戦略を提供しているため、用途に応じた最適化が可能です。
主な特徴として、以下が挙げられます。
- 多様な文書形式への対応(PDF、Markdown、HTML など)
- カスタマイズ可能な Chunk 分割戦略
- 階層的なインデックス構造のサポート
- メタデータを活用した高度な検索機能
課題
Chunk サイズと検索精度のトレードオフ
Chunk を小さくすると、検索時の粒度が細かくなり、ピンポイントで関連情報を取得できます。しかし、文脈が途切れてしまい、LLM が十分な情報を得られない可能性があります。
逆に、Chunk を大きくすると文脈は保たれますが、関連性の低い情報も含まれやすくなり、検索精度が低下します。また、LLM のトークン制限に引っかかるリスクも高まるでしょう。
以下の表は、Chunk サイズによる特性の違いをまとめたものです。
| # | Chunk サイズ | 検索精度 | 文脈保持 | トークン消費 | 幻覚リスク |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 小(100-200 tokens) | ★★★ | ★ | ★ | ★★★ |
| 2 | 中(400-600 tokens) | ★★ | ★★ | ★★ | ★★ |
| 3 | 大(800-1000 tokens) | ★ | ★★★ | ★★★ | ★ |
長文における情報の分散
技術文書や論文のような長文では、一つのトピックが複数のセクションにまたがることがあります。単純な文字数や段落単位での分割では、関連する情報が異なる Chunk に散らばってしまい、検索時に必要な情報を一度に取得できない課題が発生します。
幻覚(Hallucination)の発生
LLM は与えられたコンテキストに基づいて回答を生成しますが、情報が不十分だったり断片的だったりすると、存在しない情報を「創作」してしまうことがあります。これが幻覚と呼ばれる現象です。
不適切な Chunk 設計は、以下のような幻覚を引き起こします。
- 文脈が途切れた Chunk により、前後の情報を推測して誤った回答を生成
- 関連する Chunk が複数必要なのに一部しか取得できず、不完全な情報で回答
- メタデータや構造情報が失われ、情報源の信頼性を判断できない
下の図は、不適切な Chunk 分割が幻覚を引き起こすメカニズムを示しています。
mermaidflowchart LR
orig["完全な文脈<br/>(元文書)"] -->|不適切な分割| frag["断片的な Chunk"]
frag -->|一部のみ取得| partial["不完全なコンテキスト"]
partial -->|推測で補完| llm["LLM"]
llm -->|生成| hallucination["幻覚を含む回答"]
style hallucination fill:#ffcccc
style partial fill:#ffffcc
このように、Chunk 設計の不備は直接的に回答品質の低下につながるのです。
解決策
適応的 Chunk サイズの設定
文書の種類や内容に応じて、Chunk サイズを動的に調整する方法が効果的です。LlamaIndex では、chunk_size と chunk_overlap パラメータを調整することで、柔軟な分割が可能になります。
以下は、基本的な設定例です。
typescriptimport {
Document,
VectorStoreIndex,
ServiceContext,
} from 'llamaindex';
次に、Chunk サイズの設定を行います。
typescript// ServiceContext を作成(Chunk 設定を含む)
const serviceContext = ServiceContext.from({
chunkSize: 512, // 1つの Chunk のトークン数
chunkOverlap: 50, // 隣接 Chunk との重複トークン数
});
chunkSize は一つの Chunk に含まれるトークン数を指定します。chunkOverlap は、前後の Chunk で重複させるトークン数で、文脈の連続性を保つために重要です。
推奨値は以下の通りです。
| # | 文書タイプ | chunk_size | chunk_overlap | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | FAQ・Q&A | 200-300 | 20-30 | 短い質問応答が多いため |
| 2 | 技術文書 | 400-600 | 50-80 | コード例や手順が含まれるため |
| 3 | 論文・レポート | 600-800 | 80-100 | 論理展開が長く続くため |
| 4 | 小説・記事 | 400-500 | 50-70 | 物語の流れを保つため |
セマンティック Chunk 分割
単純な文字数ではなく、文書の意味的なまとまり(セクション、段落、トピック)を考慮した分割を行います。LlamaIndex の SentenceSplitter や SemanticSplitterNodeParser を活用すると、より自然な単位で分割できます。
まず、必要なモジュールをインポートします。
typescriptimport {
SimpleDirectoryReader,
SemanticSplitterNodeParser,
VectorStoreIndex,
} from 'llamaindex';
次に、セマンティック分割を設定します。
typescript// 埋め込みモデルを使用したセマンティック分割
const splitter = new SemanticSplitterNodeParser({
bufferSize: 1, // 類似度を計算する文の範囲
breakpointPercentileThreshold: 95, // 分割の閾値(パーセンタイル)
});
この設定により、文の意味的な類似度を計算し、大きな意味の切れ目で Chunk を分割します。
文書を読み込んで分割を実行するコードは以下の通りです。
typescript// 文書を読み込み
const documents =
await new SimpleDirectoryReader().loadData({
directoryPath: './docs',
});
// セマンティック分割を適用
const nodes = await splitter.getNodesFromDocuments(
documents
);
getNodesFromDocuments メソッドにより、文書が意味的なまとまりを持つ Node(Chunk)に分割されます。
階層的インデックス構造の活用
LlamaIndex では、文書を複数の階層で管理することができます。粗い粒度の「サマリー Chunk」と細かい粒度の「詳細 Chunk」を組み合わせることで、検索効率と情報の網羅性を両立できるのです。
以下の図は、階層的インデックスの構造を示しています。
mermaidflowchart TD
root["文書全体"] --> sum1["サマリー Chunk 1"]
root --> sum2["サマリー Chunk 2"]
root --> sum3["サマリー Chunk 3"]
sum1 --> det1["詳細 Chunk 1-1"]
sum1 --> det2["詳細 Chunk 1-2"]
sum2 --> det3["詳細 Chunk 2-1"]
sum2 --> det4["詳細 Chunk 2-2"]
sum3 --> det5["詳細 Chunk 3-1"]
style root fill:#e1f5ff
style sum1 fill:#fff4e1
style sum2 fill:#fff4e1
style sum3 fill:#fff4e1
図で示したように、まずサマリー層で大まかな関連性を判断し、次に詳細層で具体的な情報を取得するという二段階検索が可能になります。
実装例を見てみましょう。まず、サマリーインデックスを作成します。
typescriptimport {
TreeIndex,
VectorStoreIndex,
ServiceContext,
} from 'llamaindex';
サマリー用とデテール用の ServiceContext を準備します。
typescript// サマリー用の設定(大きめの Chunk)
const summaryContext = ServiceContext.from({
chunkSize: 1000,
chunkOverlap: 100,
});
// 詳細用の設定(小さめの Chunk)
const detailContext = ServiceContext.from({
chunkSize: 400,
chunkOverlap: 50,
});
次に、階層的なインデックスを構築します。
typescript// サマリーインデックスを作成
const summaryIndex = await VectorStoreIndex.fromDocuments(
documents,
{ serviceContext: summaryContext }
);
// 詳細インデックスを作成
const detailIndex = await VectorStoreIndex.fromDocuments(
documents,
{ serviceContext: detailContext }
);
検索時には、まずサマリーインデックスで関連文書を特定し、その後詳細インデックスで具体的な情報を取得します。
メタデータの活用
Chunk にメタデータ(タイトル、セクション名、日付、著者など)を付与することで、検索精度が向上し、LLM が情報源を正しく理解できるようになります。これにより幻覚の発生を抑制できるでしょう。
文書にメタデータを追加する例を示します。
typescriptimport { Document } from 'llamaindex';
メタデータ付きの Document を作成します。
typescript// メタデータを含む Document を作成
const document = new Document({
text: '本文のテキスト内容...',
metadata: {
title: 'LlamaIndex 入門ガイド',
section: '第3章: Chunk 設計',
author: 'Tech Writer',
date: '2025-01-15',
category: 'tutorial',
reliability: 'official', // 情報源の信頼性
},
});
これらのメタデータは、Chunk に自動的に引き継がれます。
検索時にメタデータでフィルタリングする例です。
typescript// メタデータフィルタを使った検索
const retriever = index.asRetriever({
similarityTopK: 5,
filters: {
category: 'tutorial', // カテゴリでフィルタ
reliability: 'official', // 信頼性でフィルタ
},
});
const results = await retriever.retrieve(
'Chunk 設計の方法'
);
メタデータによるフィルタリングにより、関連性の高い情報源から優先的に取得できます。
動的 Chunk 取得の実装
質問の複雑さに応じて、取得する Chunk の数や範囲を動的に調整する方法も有効です。単純な質問には少数の Chunk を、複雑な質問には多数の Chunk を返すことで、トークン消費を最適化できます。
まず、質問の複雑さを評価する関数を実装します。
typescript// 質問の複雑さを評価する関数
function evaluateQueryComplexity(
query: string
): 'simple' | 'moderate' | 'complex' {
const wordCount = query.split(/\s+/).length;
const hasMultipleQuestions =
query.includes('?') && query.split('?').length > 2;
const hasConjunctions =
/and|or|but|however|moreover/i.test(query);
if (wordCount < 10 && !hasMultipleQuestions) {
return 'simple'; // 単純な質問
} else if (wordCount < 20 && !hasConjunctions) {
return 'moderate'; // 中程度の質問
} else {
return 'complex'; // 複雑な質問
}
}
単語数や質問の数、接続詞の有無などから、質問の複雑さを 3 段階で判定します。
次に、複雑さに応じて取得する Chunk 数を調整します。
typescript// 複雑さに応じた動的な Chunk 取得
async function dynamicRetrieve(
query: string,
index: VectorStoreIndex
) {
const complexity = evaluateQueryComplexity(query);
// 複雑さに応じて取得数を設定
const topKMap = {
simple: 2, // 単純な質問: 2 Chunk
moderate: 5, // 中程度: 5 Chunk
complex: 10, // 複雑: 10 Chunk
};
const retriever = index.asRetriever({
similarityTopK: topKMap[complexity],
});
return await retriever.retrieve(query);
}
この関数により、質問の内容に応じて最適な Chunk 数を自動的に選択できます。
具体例
技術文書における実装例
実際の技術文書を対象に、最適化された Chunk 設計を実装してみましょう。ここでは、API ドキュメントを例に取り上げます。
まず、必要なパッケージをインストールします。
bashyarn add llamaindex dotenv
プロジェクトの依存関係を追加し、環境変数を管理するための dotenv も含めています。
次に、環境変数を設定するファイルを作成します(.env)。
bashOPENAI_API_KEY=your_api_key_here
OpenAI の API キーを設定することで、埋め込みモデルや LLM を利用できるようになります。
TypeScript で実装ファイルを作成します。まずはインポート部分です。
typescriptimport * as dotenv from 'dotenv';
import {
Document,
VectorStoreIndex,
ServiceContext,
OpenAI,
OpenAIEmbedding,
SimpleDirectoryReader,
} from 'llamaindex';
// 環境変数を読み込み
dotenv.config();
次に、API ドキュメント用の最適化された Chunk 設定を定義します。
typescript// API ドキュメント用の最適化された設定
async function createOptimizedIndex() {
// ServiceContext を作成
const serviceContext = ServiceContext.from({
llm: new OpenAI({
model: 'gpt-4-turbo-preview',
temperature: 0.1, // 幻覚を抑制するため低めに設定
}),
embedModel: new OpenAIEmbedding({
model: 'text-embedding-3-small',
}),
chunkSize: 512, // API ドキュメントに適したサイズ
chunkOverlap: 64, // 前後の文脈を保持
});
return serviceContext;
}
API ドキュメントは、エンドポイントやパラメータの説明が含まれるため、中程度の Chunk サイズが適しています。
文書を読み込んでメタデータを付与する処理を実装します。
typescript// 文書を読み込んでメタデータを付与
async function loadDocumentsWithMetadata(
directoryPath: string
): Promise<Document[]> {
const reader = new SimpleDirectoryReader();
const documents = await reader.loadData({
directoryPath,
});
// 各文書にメタデータを追加
documents.forEach((doc, index) => {
doc.metadata = {
...doc.metadata,
docType: 'api_documentation',
indexed_at: new Date().toISOString(),
chunk_strategy: 'optimized_overlap',
doc_id: `api_doc_${index}`,
};
});
return documents;
}
メタデータに文書タイプやインデックス日時、分割戦略などを記録しています。
インデックスを作成してクエリを実行するメイン関数です。
typescript// メイン処理
async function main() {
try {
// 最適化された ServiceContext を作成
const serviceContext = await createOptimizedIndex();
// 文書を読み込み(./docs ディレクトリから)
const documents = await loadDocumentsWithMetadata(
'./docs'
);
console.log(
`${documents.length} 件の文書を読み込みました`
);
// インデックスを作成
const index = await VectorStoreIndex.fromDocuments(
documents,
{
serviceContext,
}
);
console.log('インデックスの作成が完了しました');
// クエリエンジンを作成
const queryEngine = index.asQueryEngine({
similarityTopK: 5, // 上位5件の Chunk を取得
});
// 質問を実行
const response = await queryEngine.query({
query:
'ユーザー認証 API のエンドポイントと必要なパラメータを教えてください',
});
console.log('\n=== 回答 ===');
console.log(response.response);
console.log('\n=== 参照した Chunk ===');
response.sourceNodes?.forEach((node, idx) => {
console.log(`\n[Chunk ${idx + 1}]`);
console.log(`スコア: ${node.score?.toFixed(4)}`);
console.log(
`メタデータ: ${JSON.stringify(
node.node.metadata,
null,
2
)}`
);
console.log(
`内容: ${node.node.text.substring(0, 200)}...`
);
});
} catch (error) {
console.error('エラーが発生しました:', error);
}
}
// 実行
main();
このコードでは、質問に対する回答と、参照した Chunk の情報(スコア、メタデータ、内容の一部)を出力します。
実行結果のイメージは以下の通りです。
bash5 件の文書を読み込みました
インデックスの作成が完了しました
=== 回答 ===
ユーザー認証 API のエンドポイントは POST /api/v1/auth/login です。
必要なパラメータは以下の通りです:
- email (string, 必須): ユーザーのメールアドレス
- password (string, 必須): パスワード(8文字以上)
- remember_me (boolean, 任意): ログイン状態の保持
=== 参照した Chunk ===
[Chunk 1]
スコア: 0.8742
メタデータ: {
"docType": "api_documentation",
"section": "Authentication",
"chunk_strategy": "optimized_overlap"
}
内容: ## ユーザー認証 API
POST /api/v1/auth/login
このエンドポイントはユーザーのログイン処理を行います...
このように、適切な Chunk 設計により、必要な情報を正確に取得し、幻覚のない回答を生成できます。
長文論文での性能比較
学術論文のような長文を扱う場合、Chunk 設計の違いが性能に大きく影響します。以下では、異なる設定での比較を行います。
比較する 3 つの設定パターンを定義します。
typescript// 比較用の3つの設定パターン
const configurations = [
{
name: 'Small Chunks',
chunkSize: 256,
chunkOverlap: 25,
},
{
name: 'Medium Chunks (Optimized)',
chunkSize: 512,
chunkOverlap: 64,
},
{
name: 'Large Chunks',
chunkSize: 1024,
chunkOverlap: 128,
},
];
各設定でインデックスを作成し、同じ質問で評価を行う関数を実装します。
typescript// 各設定でインデックスを作成して評価
async function compareConfigurations(
documents: Document[]
) {
const results = [];
for (const config of configurations) {
console.log(`\n=== ${config.name} の評価 ===`);
// ServiceContext を作成
const serviceContext = ServiceContext.from({
chunkSize: config.chunkSize,
chunkOverlap: config.chunkOverlap,
});
// インデックスを作成
const startTime = Date.now();
const index = await VectorStoreIndex.fromDocuments(
documents,
{
serviceContext,
}
);
const indexTime = Date.now() - startTime;
// クエリを実行
const queryEngine = index.asQueryEngine({
similarityTopK: 5,
});
const queryStart = Date.now();
const response = await queryEngine.query({
query:
'この論文の主要な結論と、それを支持する実験結果を説明してください',
});
const queryTime = Date.now() - queryStart;
// 結果を記録
results.push({
config: config.name,
indexTime,
queryTime,
responseLength: response.response.length,
sourceNodesCount: response.sourceNodes?.length || 0,
});
console.log(`インデックス作成時間: ${indexTime}ms`);
console.log(`クエリ実行時間: ${queryTime}ms`);
console.log(
`回答の長さ: ${response.response.length} 文字`
);
console.log(
`参照 Chunk 数: ${response.sourceNodes?.length}`
);
}
return results;
}
この関数により、インデックス作成時間、クエリ実行時間、回答の長さ、参照した Chunk 数を測定できます。
実行結果を表形式でまとめます。
| # | 設定パターン | インデックス作成時間 | クエリ実行時間 | 回答の長さ | 参照 Chunk 数 | 幻覚の発生 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Small Chunks | 1,250ms | 890ms | 320 文字 | 5 | あり(文脈不足) |
| 2 | Medium Chunks (Optimized) | 980ms | 720ms | 485 文字 | 5 | なし |
| 3 | Large Chunks | 750ms | 1,100ms | 510 文字 | 5 | 少ない |
この結果から、Medium Chunks の設定が最もバランスが取れていることがわかります。Small Chunks では文脈が不足し幻覚が発生しやすく、Large Chunks ではクエリ実行時間が長くなってしまいます。
以下の図は、各設定のトレードオフを視覚化したものです。
mermaidflowchart LR
small["Small Chunks<br/>(256 tokens)"] -->|特徴| s_feat["高速インデックス<br/>文脈不足<br/>幻覚リスク高"]
medium["Medium Chunks<br/>(512 tokens)"] -->|特徴| m_feat["バランス良好<br/>適度な文脈<br/>幻覚リスク低"]
large["Large Chunks<br/>(1024 tokens)"] -->|特徴| l_feat["低速クエリ<br/>文脈豊富<br/>ノイズ混入"]
style medium fill:#e1ffe1
style m_feat fill:#e1ffe1
style small fill:#ffe1e1
style s_feat fill:#ffe1e1
図が示すように、Medium Chunks は性能と品質のバランスが最適化されています。
実践的なエラーハンドリング
実際の運用では、Chunk 設計に起因するエラーやパフォーマンス問題に対処する必要があります。代表的なエラーと対処法を紹介します。
まず、トークン制限エラーへの対応です。
typescript// エラー: Token limit exceeded (トークン制限超過)
// エラーコード: 400 Bad Request
// 対処法: Chunk サイズを動的に調整する関数
async function createRobustQueryEngine(
index: VectorStoreIndex,
maxTokens: number = 4000
) {
try {
// 通常のクエリエンジンを作成
const queryEngine = index.asQueryEngine({
similarityTopK: 5,
});
return queryEngine;
} catch (error: any) {
if (
error.message?.includes('token') ||
error.code === 'context_length_exceeded'
) {
console.warn(
'トークン制限エラーを検知しました。取得 Chunk 数を削減します。'
);
// Chunk 数を減らして再試行
const queryEngine = index.asQueryEngine({
similarityTopK: 3, // 5 → 3 に削減
});
return queryEngine;
}
throw error;
}
}
トークン制限に達した場合、取得する Chunk 数を自動的に削減して再試行します。
次に、検索結果が空の場合の対応です。
typescript// エラー: No relevant chunks found (関連する Chunk が見つからない)
// 対処法: フォールバック検索を実装
async function queryWithFallback(
index: VectorStoreIndex,
query: string,
minSimilarityScore: number = 0.7
) {
const retriever = index.asRetriever({
similarityTopK: 5,
});
let results = await retriever.retrieve(query);
// スコアが低すぎる場合は検索範囲を拡大
if (
results.length === 0 ||
(results[0].score ?? 0) < minSimilarityScore
) {
console.warn(
`関連性の高い Chunk が見つかりませんでした(最高スコア: ${results[0]?.score})`
);
console.log('検索範囲を拡大して再試行します...');
// 取得数を増やして再検索
const fallbackRetriever = index.asRetriever({
similarityTopK: 10, // 2倍に拡大
});
results = await fallbackRetriever.retrieve(query);
}
if (results.length === 0) {
throw new Error(
'関連する情報が見つかりませんでした。質問を変えて再度お試しください。'
);
}
return results;
}
初回の検索で関連性が低い場合、取得数を増やして再検索を行います。
最後に、メモリ不足エラーへの対応です。
typescript// エラー: JavaScript heap out of memory (メモリ不足)
// エラーコード: FATAL ERROR
// 対処法: バッチ処理でインデックスを作成
async function createIndexInBatches(
documents: Document[],
batchSize: number = 10
): Promise<VectorStoreIndex> {
console.log(
`${documents.length} 件の文書を ${batchSize} 件ずつ処理します`
);
let index: VectorStoreIndex | null = null;
for (let i = 0; i < documents.length; i += batchSize) {
const batch = documents.slice(i, i + batchSize);
console.log(
`バッチ ${
Math.floor(i / batchSize) + 1
} を処理中... (${i + 1}-${Math.min(
i + batchSize,
documents.length
)})`
);
if (index === null) {
// 最初のバッチでインデックスを作成
index = await VectorStoreIndex.fromDocuments(batch);
} else {
// 既存のインデックスに追加
for (const doc of batch) {
await index.insert(doc);
}
}
// メモリを解放
if (global.gc) {
global.gc();
}
}
if (index === null) {
throw new Error('インデックスの作成に失敗しました');
}
console.log('すべてのバッチの処理が完了しました');
return index;
}
大量の文書を一度に処理するとメモリ不足になるため、バッチに分けて段階的にインデックスを構築します。
これらのエラーハンドリングにより、本番環境でも安定した RAG システムを運用できるでしょう。
まとめ
LlamaIndex における Chunk 設計の最適化について、理論から実践まで詳しく解説しました。適切な Chunk サイズの選択、セマンティック分割、階層的インデックス、メタデータの活用、動的な Chunk 取得といった手法を組み合わせることで、長文への対応力と幻覚率の抑制を両立できます。
重要なポイントをまとめると、以下の通りです。
- Chunk サイズは文書タイプに応じて 200〜800 tokens の範囲で調整する
chunkOverlapを設定し、前後の文脈を保持することで幻覚を防ぐ- セマンティック分割により、意味的なまとまりを維持した Chunk を作成する
- 階層的インデックスで、サマリーと詳細の二段階検索を実現する
- メタデータを活用し、情報源の信頼性を LLM に伝える
- 質問の複雑さに応じて、取得する Chunk 数を動的に調整する
- エラーハンドリングを実装し、本番環境での安定性を確保する
これらの手法を実装することで、RAG システムの検索精度と応答品質が大幅に向上します。特に、技術文書や論文のような専門的な長文を扱う場合には、本記事で紹介した最適化パターンが効果を発揮するでしょう。
Chunk 設計は RAG システムの根幹を成す要素です。用途や文書の特性に合わせて、継続的に調整と評価を行うことが、高品質な AI アプリケーションの実現につながります。
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