TypeScript Null 安全戦略の比較検証:ts-reset vs strictNullChecks vs noUncheckedIndexedAccess
TypeScript で開発していると、Cannot read property of undefined というエラーに悩まされた経験はありませんか?
このエラーは実行時に発生するため、本番環境で突然アプリケーションが停止してしまう可能性があります。TypeScript には Null 安全性を高めるための複数のアプローチが用意されていますが、それぞれの特徴や使い分けを理解している開発者は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、ts-reset、strictNullChecks、noUncheckedIndexedAccess という 3 つの主要な Null 安全戦略について、実際のコード例を交えながら詳しく比較検証していきます。それぞれのアプローチがどのような問題を解決し、どのようなトレードオフがあるのかを理解することで、プロジェクトに最適な Null 安全戦略を選択できるようになるでしょう。
背景
TypeScript における Null 安全性の重要性
TypeScript は JavaScript に静的型付けを追加することで、開発時にエラーを検出できるようにした言語です。
しかし、JavaScript の柔軟性を維持するため、デフォルトでは null や undefined の扱いが緩く設定されています。これにより、型システムが完全ではない「型の穴」が存在し、実行時エラーのリスクが残ってしまうのです。
以下の図は、TypeScript における Null 安全性の課題を示しています。
mermaidflowchart TD
code["TypeScript コード"] -->|コンパイル| js["JavaScript"]
code -->|型チェック| typecheck["型チェッカー"]
typecheck -->|通過| safe["安全と判断"]
safe -->|実行| runtime["実行時"]
runtime -->|null/undefined| error["実行時エラー発生"]
typecheck -.->|型の穴| gap["null/undefined を<br/>見逃す可能性"]
gap -.->|問題| error
型チェックを通過したコードでも、実行時に null や undefined によるエラーが発生する可能性があることがわかります。
JavaScript から引き継がれた課題
JavaScript では、値が存在しないことを表すために null と undefined という 2 つの異なる値が用意されています。
さらに、配列やオブジェクトのプロパティアクセスでは、存在しないキーにアクセスしても undefined が返されるだけでエラーになりません。この仕様は柔軟性がある一方で、予期しないバグの温床となっています。
TypeScript はこの JavaScript の特性を引き継いでいるため、適切な設定を行わなければ同様の問題を抱えることになるのです。
課題
デフォルト設定での型システムの限界
TypeScript のデフォルト設定では、以下のような問題のあるコードがコンパイルエラーにならず、型チェックを通過してしまいます。
以下は、配列の要素アクセスで発生する典型的な問題です。
typescript// デフォルト設定では型エラーにならない
const numbers: number[] = [1, 2, 3];
// numbers[10] は undefined だが、型は number として扱われる
const value: number = numbers[10];
console.log(value.toFixed(2)); // 実行時エラー: Cannot read property 'toFixed' of undefined
このコードは TypeScript のコンパイルを通過しますが、実行時にエラーが発生します。
また、オブジェクトのプロパティアクセスでも同様の問題が発生します。
typescriptinterface User {
name: string;
email?: string;
}
const user: User = { name: '太郎' };
// email は undefined の可能性があるが、型チェックは通る
const emailLength = user.email.length; // 実行時エラー: Cannot read property 'length' of undefined
Optional プロパティの扱いも、デフォルトでは十分に安全ではありません。
組み込みメソッドの型定義の問題
TypeScript の標準ライブラリの型定義にも、実用上の問題があります。
以下は、配列の find メソッドの典型的な例です。
typescriptconst users = [
{ id: 1, name: '太郎' },
{ id: 2, name: '花子' },
];
// find は undefined を返す可能性があるが、型は User | undefined
const user = users.find((u) => u.id === 999);
// user が undefined の可能性を考慮しないコード
console.log(user.name); // 型エラーにならない場合がある
find メソッドは要素が見つからない場合に undefined を返しますが、この型定義が適切に扱われないケースがあるのです。
以下の図は、これらの課題がどのように実行時エラーにつながるかを示しています。
mermaidflowchart LR
A["配列/オブジェクト<br/>アクセス"] -->|存在しない| B["undefined"]
C["Optional<br/>プロパティ"] -->|未設定| B
D["find/filter<br/>メソッド"] -->|見つからない| B
B -->|型チェック通過| E["開発時は問題なし"]
E -->|実行| F["実行時エラー<br/>TypeError"]
実行時エラーのリスク
これらの問題により、以下のようなリスクが発生します。
| # | リスク | 影響範囲 | 発見時期 |
|---|---|---|---|
| 1 | 予期しないアプリケーションクラッシュ | 本番環境 | 実行時 |
| 2 | ユーザー体験の低下 | エンドユーザー | 実行時 |
| 3 | デバッグコストの増加 | 開発チーム | 開発〜運用 |
| 4 | テストカバレッジの不足 | テスト工程 | テスト時 |
開発時に型チェックが通過してしまうため、問題を早期に発見できず、本番環境でエラーが発生してしまうケースが多いのです。
解決策
TypeScript では、これらの Null 安全性の課題を解決するために、複数のアプローチが提供されています。
それぞれの解決策には特徴とトレードオフがあるため、プロジェクトの要件に応じて適切に選択することが重要です。
strictNullChecks:TypeScript 公式の厳格な型チェック
strictNullChecks は、TypeScript の tsconfig.json で設定できる公式のコンパイラオプションです。
このオプションを有効にすると、null と undefined を明示的に型として扱うようになり、型システムがより厳格になります。
tsconfig.json での設定方法
以下のように tsconfig.json に設定を追加します。
json{
"compilerOptions": {
"strictNullChecks": true
}
}
あるいは、strict オプションを有効にすることで、strictNullChecks を含む複数の厳格なチェックをまとめて有効化できます。
json{
"compilerOptions": {
"strict": true
}
}
動作の変化
strictNullChecks を有効にすると、以下のようにコードの型チェックが変わります。
typescript// strictNullChecks: false の場合
let name: string = null; // エラーにならない
let age: number = undefined; // エラーにならない
上記のコードは、デフォルト設定では問題なくコンパイルされます。
typescript// strictNullChecks: true の場合
let name: string = null;
// Error: Type 'null' is not assignable to type 'string'
let age: number = undefined;
// Error: Type 'undefined' is not assignable to type 'number'
strictNullChecks を有効にすると、明示的に型を指定しない限りエラーになります。
正しくは、Union 型を使用して null や undefined を許容することを明示します。
typescript// 正しい記述方法
let name: string | null = null; // OK
let age: number | undefined = undefined; // OK
Optional Chaining との組み合わせ
strictNullChecks を有効にすると、Optional Chaining (?.) や Nullish Coalescing (??) との相性が良くなります。
typescriptinterface User {
name: string;
email?: string;
address?: {
city?: string;
};
}
const user: User = { name: '太郎' };
// strictNullChecks が有効な場合、以下のように安全にアクセスできる
const city = user.address?.city ?? '未設定';
const emailLength = user.email?.length ?? 0;
Optional Chaining を使用することで、undefined の可能性がある値に安全にアクセスできます。
noUncheckedIndexedAccess:配列・オブジェクトアクセスの安全性強化
noUncheckedIndexedAccess は、TypeScript 4.1 で導入されたコンパイラオプションです。
このオプションは、配列やオブジェクトのインデックスアクセスに対して、undefined の可能性を型に含めるようにします。
tsconfig.json での設定方法
以下のように設定します。
json{
"compilerOptions": {
"strictNullChecks": true,
"noUncheckedIndexedAccess": true
}
}
注意: noUncheckedIndexedAccess は strictNullChecks が有効な場合にのみ機能します。
配列アクセスでの動作
このオプションを有効にすると、配列の要素アクセス時の型が変わります。
typescriptconst numbers: number[] = [1, 2, 3];
// noUncheckedIndexedAccess: false の場合
const value1: number = numbers[10]; // 型は number
デフォルトでは、存在しないインデックスでも number 型として扱われます。
typescript// noUncheckedIndexedAccess: true の場合
const value2 = numbers[10]; // 型は number | undefined
// 以下はエラーになる
const doubled = numbers[10] * 2;
// Error: Object is possibly 'undefined'
// 正しい使用方法
const doubled2 = (numbers[10] ?? 0) * 2; // OK
undefined チェックが強制されるため、より安全なコードを書くことができます。
オブジェクトのインデックスアクセスでの動作
オブジェクトのインデックスシグネチャにも同様の効果があります。
typescriptinterface Dictionary {
[key: string]: string;
}
const dict: Dictionary = {
hello: 'こんにちは',
goodbye: 'さようなら',
};
上記のような Dictionary 型を定義した場合、以下のように動作が変わります。
typescript// noUncheckedIndexedAccess: true の場合
const value = dict['unknown']; // 型は string | undefined
// 以下はエラーになる
const upperValue = dict['unknown'].toUpperCase();
// Error: Object is possibly 'undefined'
// 正しい使用方法
const upperValue2 = dict['unknown']?.toUpperCase() ?? '';
インデックスアクセスの結果が undefined の可能性を考慮する必要があります。
ts-reset:標準ライブラリの型定義を改善
ts-reset は、Total TypeScript の Matt Pocock 氏が開発したライブラリです。
TypeScript の標準ライブラリの型定義を改善し、より実用的で安全な型を提供します。
インストールと設定方法
Yarn を使用してインストールします。
bashyarn add -D @total-typescript/ts-reset
次に、プロジェクトのエントリーポイント(通常は src/index.ts や型定義ファイル)でインポートします。
typescript// src/index.ts または src/types/global.d.ts
import '@total-typescript/ts-reset';
あるいは、tsconfig.json の types 配列に追加することもできます。
json{
"compilerOptions": {
"types": ["@total-typescript/ts-reset"]
}
}
改善される型定義の例
ts-reset は、標準ライブラリの複数のメソッドの型定義を改善します。
Array.prototype.filter の改善
以下は、filter メソッドでの型の扱いが改善される例です。
typescriptconst mixedArray = [1, 2, undefined, 3, null, 4];
// ts-reset なしの場合
const filtered1 = mixedArray.filter(
(x) => x !== undefined && x !== null
);
// 型: (number | undefined | null)[] - 型が絞り込まれない
標準の型定義では、filter 後も元の型が維持されてしまいます。
typescript// ts-reset ありの場合
const filtered2 = mixedArray.filter(
(x) => x !== undefined && x !== null
);
// 型: number[] - 正しく型が絞り込まれる
ts-reset を使用すると、フィルタ条件に基づいて型が適切に絞り込まれます。
Array.prototype.includes の改善
includes メソッドの引数の型も改善されます。
typescriptconst fruits = ['apple', 'banana', 'orange'] as const;
// ts-reset なしの場合
const hasGrape1 = fruits.includes('grape');
// エラーにならない(実行時は常に false)
存在しない値でもエラーにならず、実行時に予期しない結果になる可能性があります。
typescript// ts-reset ありの場合
const hasGrape2 = fruits.includes('grape');
// Error: Argument of type '"grape"' is not assignable to parameter of type '"apple" | "banana" | "orange"'
配列に存在しない値を渡そうとすると、コンパイル時にエラーが発生します。
JSON.parse の改善
JSON.parse の戻り値の型も、より安全になります。
typescript// ts-reset なしの場合
const data1 = JSON.parse('{"name": "太郎"}');
// 型: any - 型安全性が失われる
標準では any 型が返されるため、型安全性が確保できません。
typescript// ts-reset ありの場合
const data2 = JSON.parse('{"name": "太郎"}');
// 型: unknown - 型ガードが必要
// 型ガードを使用した安全なアクセス
if (
typeof data2 === 'object' &&
data2 !== null &&
'name' in data2
) {
console.log(data2.name);
}
unknown 型が返されるため、型ガードを使用して安全にアクセスする必要があります。
以下の図は、3 つの解決策がどのように Null 安全性を向上させるかを示しています。
mermaidflowchart TD
problem["Null 安全性の課題"] --> strict["strictNullChecks"]
problem --> indexed["noUncheckedIndexedAccess"]
problem --> reset["ts-reset"]
strict -->|効果| strict_effect["null/undefined を<br/>明示的に扱う"]
indexed -->|効果| indexed_effect["配列・オブジェクト<br/>アクセスを安全化"]
reset -->|効果| reset_effect["標準ライブラリの<br/>型定義改善"]
strict_effect --> result["開発時エラー検出"]
indexed_effect --> result
reset_effect --> result
result --> safe["実行時エラー削減"]
3 つのアプローチの比較表
各アプローチの特徴を表にまとめます。
| # | アプローチ | 設定方法 | 対象範囲 | 既存コードへの影響 | 学習コスト |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | strictNullChecks | tsconfig.json | null/undefined 全般 | 大(多数の修正が必要) | 中 |
| 2 | noUncheckedIndexedAccess | tsconfig.json | 配列・オブジェクトアクセス | 中(アクセス箇所の修正) | 低 |
| 3 | ts-reset | npm/yarn パッケージ | 標準ライブラリメソッド | 小〜中(メソッド使用箇所) | 低 |
具体例
実際のプロジェクトでこれらのアプローチを適用する際の具体的な例を見ていきましょう。
各アプローチの効果と、コードの変更方法を段階的に解説します。
例 1:ユーザー情報取得機能での比較
以下は、ユーザー情報を取得して表示する典型的な機能です。
デフォルト設定(問題のあるコード)
まず、TypeScript のデフォルト設定でのコードを見てみましょう。
typescript// users.ts - 型定義
interface User {
id: number;
name: string;
email?: string;
profile?: {
bio?: string;
avatar?: string;
};
}
ユーザーの型定義では、email と profile が Optional プロパティです。
typescript// users.ts - データ取得関数
const users: User[] = [
{ id: 1, name: '太郎', email: 'taro@example.com' },
{ id: 2, name: '花子' },
{ id: 3, name: '次郎', profile: { bio: 'エンジニア' } },
];
function getUserById(id: number): User {
return users.find((u) => u.id === id);
// 問題: find は undefined を返す可能性があるが、型は User
}
find メソッドは要素が見つからない場合に undefined を返しますが、この型定義では考慮されていません。
typescript// users.ts - 使用例(危険なコード)
const user = getUserById(999);
console.log(user.name); // 実行時エラー: Cannot read property 'name' of undefined
const emailLength = user.email.length;
// 実行時エラー: Cannot read property 'length' of undefined
const bio = user.profile.bio;
// 実行時エラー: Cannot read property 'bio' of undefined
このコードは TypeScript のコンパイルを通過しますが、実行時に複数のエラーが発生する可能性があります。
strictNullChecks を適用したコード
strictNullChecks を有効にした場合の改善例です。
typescript// users.ts - strictNullChecks 有効時
function getUserById(id: number): User | undefined {
return users.find((u) => u.id === id);
// 正しい型: User | undefined
}
戻り値の型を正確に定義することで、呼び出し側で undefined チェックが強制されます。
typescript// users.ts - 安全な使用例
const user = getUserById(1);
if (user) {
// user は User 型に絞り込まれる
console.log(user.name); // OK
// Optional プロパティへのアクセスも安全に
const emailLength = user.email?.length ?? 0;
const bio = user.profile?.bio ?? '未設定';
} else {
console.log('ユーザーが見つかりません');
}
型ガードと Optional Chaining を組み合わせることで、安全にプロパティにアクセスできます。
noUncheckedIndexedAccess を追加した場合
strictNullChecks に加えて noUncheckedIndexedAccess を有効にすると、配列アクセスもより安全になります。
typescript// users.ts - インデックスアクセスの例
const firstUser = users[0];
// noUncheckedIndexedAccess: true の場合、型は User | undefined
if (firstUser) {
console.log(firstUser.name); // OK
}
// または Nullish Coalescing を使用
const userName = users[0]?.name ?? 'ゲスト';
配列の最初の要素にアクセスする場合でも、undefined の可能性を考慮する必要があります。
ts-reset を追加した場合
さらに ts-reset を導入すると、filter メソッドの型推論が改善されます。
typescript// users.ts - filter を使用した例
const usersWithEmail = users.filter(
(u) => u.email !== undefined
);
// ts-reset なし: User[](email は依然として string | undefined)
// ts-reset あり: User[] & { email: string }[](email が string に絞り込まれる)
// ts-reset を使用した場合、以下が安全になる
usersWithEmail.forEach((user) => {
console.log(user.email.toUpperCase()); // OK(型が絞り込まれている)
});
filter の条件に基づいて、型が適切に絞り込まれることがわかります。
例 2:API レスポンス処理での比較
次に、外部 API からのレスポンスを処理する例を見ていきましょう。
デフォルト設定(問題のあるコード)
API レスポンスを処理する典型的なコードです。
typescript// api.ts - API レスポンスの型定義
interface ApiResponse {
data: {
items: Array<{
id: number;
title: string;
tags?: string[];
}>;
};
}
レスポンスの構造を型で定義します。
typescript// api.ts - データ取得と処理
async function fetchItems() {
const response = await fetch('/api/items');
const json = await response.json();
// json の型は any
return json.data.items;
}
response.json() は any 型を返すため、型安全性が失われます。
typescript// api.ts - 使用例(危険なコード)
async function displayFirstItem() {
const items = await fetchItems();
const firstItem = items[0];
console.log(firstItem.title); // 実行時エラーの可能性
const firstTag = firstItem.tags[0];
console.log(firstTag.toUpperCase()); // 実行時エラーの可能性
}
配列が空の場合や、tags が undefined の場合にエラーが発生します。
strictNullChecks + ts-reset を適用したコード
strictNullChecks と ts-reset を組み合わせた改善例です。
typescript// api.ts - 型ガード関数の定義
function isApiResponse(data: unknown): data is ApiResponse {
return (
typeof data === 'object' &&
data !== null &&
'data' in data &&
typeof data.data === 'object' &&
data.data !== null &&
'items' in data.data &&
Array.isArray(data.data.items)
);
}
型ガード関数を定義して、API レスポンスの形式を検証します。
typescript// api.ts - 安全なデータ取得
async function fetchItems(): Promise<
ApiResponse['data']['items']
> {
const response = await fetch('/api/items');
const json: unknown = await response.json(); // ts-reset により unknown 型
if (!isApiResponse(json)) {
throw new Error('Invalid API response format');
}
return json.data.items;
}
型ガードを使用して、実行時にレスポンスの形式を検証します。
strictNullChecks + noUncheckedIndexedAccess を適用したコード
配列アクセスの安全性も向上させます。
typescript// api.ts - 安全な使用例
async function displayFirstItem() {
const items = await fetchItems();
// 配列の最初の要素は undefined の可能性がある
const firstItem = items[0];
if (!firstItem) {
console.log('アイテムが見つかりません');
return;
}
console.log(firstItem.title); // OK
// tags が存在し、かつ最初の要素が存在する場合のみ処理
const firstTag = firstItem.tags?.[0];
if (firstTag) {
console.log(firstTag.toUpperCase()); // OK
}
}
すべてのアクセスで undefined チェックを行うことで、実行時エラーを防ぎます。
3 つのアプローチを組み合わせた最終形
すべてのアプローチを組み合わせた、最も安全なコード例です。
typescript// api.ts - 完全版
async function displayItems() {
try {
const items = await fetchItems();
// filter で undefined を除外(ts-reset により型が絞り込まれる)
const validItems = items.filter(
(item) => item !== undefined
);
if (validItems.length === 0) {
console.log('表示するアイテムがありません');
return;
}
validItems.forEach((item) => {
console.log(`タイトル: ${item.title}`);
// tags が存在する場合のみ処理
const tags = item.tags ?? [];
const tagList = tags.join(', ') || 'タグなし';
console.log(`タグ: ${tagList}`);
});
} catch (error) {
console.error('データ取得エラー:', error);
}
}
エラーハンドリング、型ガード、Optional Chaining を組み合わせることで、非常に堅牢なコードになります。
以下の図は、各アプローチを適用した場合のコードの安全性の向上を示しています。
mermaidflowchart LR
default["デフォルト設定<br/>安全性: ★☆☆☆☆"]
strict["+ strictNullChecks<br/>安全性: ★★★☆☆"]
indexed["+ noUncheckedIndexedAccess<br/>安全性: ★★★★☆"]
reset["+ ts-reset<br/>安全性: ★★★★★"]
default -->|null/undefined<br/>チェック| strict
strict -->|配列アクセス<br/>チェック| indexed
indexed -->|ライブラリ型<br/>改善| reset
例 3:段階的な導入戦略
既存プロジェクトに Null 安全戦略を導入する際の段階的なアプローチです。
フェーズ 1:noUncheckedIndexedAccess の導入
最も影響が少ない noUncheckedIndexedAccess から始めます。
json{
"compilerOptions": {
"strictNullChecks": true,
"noUncheckedIndexedAccess": true
}
}
tsconfig.json に上記の設定を追加します。
typescript// 修正が必要な箇所の例
const items = ['りんご', 'バナナ', 'オレンジ'];
// 修正前
const item = items[0];
console.log(item.toUpperCase());
// 修正後
const item = items[0];
if (item) {
console.log(item.toUpperCase());
}
// または
const item = items[0] ?? '';
console.log(item.toUpperCase());
配列やオブジェクトのインデックスアクセス箇所に undefined チェックを追加します。
フェーズ 2:ts-reset の導入
次に、ts-reset を導入して標準ライブラリの型を改善します。
bashyarn add -D @total-typescript/ts-reset
パッケージをインストールします。
typescript// src/types/global.d.ts - 型定義ファイルに追加
import '@total-typescript/ts-reset';
グローバルな型定義ファイルでインポートします。
typescript// 改善される箇所の例
const numbers = [1, 2, 3, undefined, 4];
// filter での型絞り込みが改善される
const validNumbers = numbers.filter((n) => n !== undefined);
// ts-reset により、型は number[] に絞り込まれる
validNumbers.forEach((n) => {
console.log(n * 2); // OK(undefined チェック不要)
});
filter メソッドの型推論が改善され、コードがシンプルになります。
フェーズ 3:既存コードの段階的な修正
既存のコードベースを少しずつ修正していきます。
typescript// 優先度の高い修正箇所
// 1. ユーザー入力を扱う部分
function processUserInput(input: string | undefined) {
// 修正前
// return input.trim();
// 修正後
if (!input) {
throw new Error('入力が必要です');
}
return input.trim();
}
ユーザー入力など、外部からのデータを扱う部分から優先的に修正します。
typescript// 2. API レスポンスを扱う部分
async function getUserData(userId: number) {
const response = await fetch(`/api/users/${userId}`);
const data: unknown = await response.json();
// 型ガードで検証
if (!isValidUserData(data)) {
throw new Error('Invalid user data');
}
return data;
}
API レスポンスの処理も、型ガードを使用して安全にします。
導入の進捗管理
各フェーズでの修正箇所を表で管理すると効果的です。
| # | フェーズ | 対象範囲 | 推定工数 | 優先度 | 完了状況 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | noUncheckedIndexedAccess | 配列・オブジェクトアクセス | 2〜3 日 | 高 | - |
| 2 | ts-reset 導入 | 標準ライブラリ使用箇所 | 1〜2 日 | 中 | - |
| 3 | ユーザー入力処理 | フォーム・API 入力 | 3〜5 日 | 高 | - |
| 4 | API レスポンス処理 | fetch・axios 使用箇所 | 5〜7 日 | 高 | - |
| 5 | 内部ロジック修正 | その他のビジネスロジック | 7〜10 日 | 中 | - |
まとめ
TypeScript の Null 安全戦略について、3 つの主要なアプローチを比較検証してきました。
それぞれのアプローチには明確な特徴があり、プロジェクトの状況に応じて適切に選択・組み合わせることが重要です。
各アプローチの要点
strictNullChecks は、TypeScript の型システムの基盤となる設定です。null と undefined を明示的に扱うことで、型の安全性を大幅に向上させますが、既存コードへの影響が大きく、導入には慎重な計画が必要になります。新規プロジェクトでは必ず有効にすべきオプションでしょう。
noUncheckedIndexedAccess は、配列やオブジェクトのインデックスアクセスに特化した設定です。strictNullChecks よりも影響範囲が限定的で、既存プロジェクトにも導入しやすいという特徴があります。配列操作が多いプロジェクトでは、優先的に導入を検討する価値があるでしょう。
ts-reset は、TypeScript の標準ライブラリの型定義を改善するサードパーティライブラリです。追加のコンパイラ設定なしで、filter、includes、JSON.parse などのメソッドの型安全性を向上させます。導入の手軽さと効果のバランスが優れており、最初に試してみるアプローチとしておすすめです。
推奨される導入順序
既存プロジェクトへの導入を検討する場合、以下の順序が効果的でしょう。
まず、ts-reset を導入して標準ライブラリの型定義を改善します。これは既存コードへの影響が最も少なく、すぐに効果を実感できます。
次に、strictNullChecks が有効になっていることを確認した上で、noUncheckedIndexedAccess を有効にします。配列やオブジェクトのインデックスアクセス箇所で型エラーが発生するため、該当箇所に適切な undefined チェックを追加していきます。
最後に、プロジェクト全体で Optional Chaining (?.) と Nullish Coalescing (??) を活用して、より安全で読みやすいコードに改善していくことをおすすめします。
新規プロジェクトでの推奨設定
新規プロジェクトを開始する場合は、以下の設定をすべて有効にすることを強く推奨します。
json{
"compilerOptions": {
"strict": true,
"noUncheckedIndexedAccess": true
}
}
加えて、ts-reset もインストールして、型定義ファイルでインポートしておきましょう。
これらの設定により、開発の初期段階から高い Null 安全性を確保でき、実行時エラーのリスクを大幅に削減できます。最初は型エラーが多く感じられるかもしれませんが、適切な型ガードと Optional Chaining を使用することで、すぐに慣れることができるでしょう。
最後に
Null 安全性は、TypeScript の型システムを最大限に活用するための重要な要素です。
strictNullChecks、noUncheckedIndexedAccess、ts-reset という 3 つのアプローチを理解し、プロジェクトの要件に応じて適切に組み合わせることで、より堅牢で保守性の高いコードベースを構築できます。実行時エラーを減らし、開発者体験を向上させるために、ぜひこれらの戦略を活用してみてください。
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