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WebLLM vs サーバー推論 徹底比較:レイテンシ・コスト・スケールの実測レポート

WebLLM vs サーバー推論 徹底比較:レイテンシ・コスト・スケールの実測レポート

近年、LLM(Large Language Model)の推論方式として、ブラウザで直接動作する WebLLM と、従来のサーバーサイドで処理を行う サーバー推論 という 2 つのアプローチが注目を集めています。

開発者の皆さまにとって、どちらの方式を選択すべきかは重要な判断ポイントになるでしょう。本記事では、実際の計測データを基に、レイテンシ、コスト、スケーラビリティの 3 つの観点から徹底比較を行います。

実測レポートを通じて、それぞれの方式が持つ特性や適用シーンを明確にし、プロジェクトに最適な選択を支援する情報をお届けします。

背景

LLM を活用したアプリケーション開発において、推論処理をどこで実行するかは、システム設計の根幹を決める重要な選択です。

従来はサーバーサイドで推論を行う方式が主流でしたが、WebAssembly や WebGPU といったブラウザ技術の進化により、クライアント側で推論を完結させる WebLLM という選択肢が登場しました。

推論方式の基本構造

以下の図は、2 つの推論方式における処理フローの違いを示しています。

mermaidflowchart TB
    subgraph client["クライアント側"]
        user["ユーザー"]
        browser["ブラウザ"]
        webllm["WebLLM<br/>(ローカル推論)"]
    end

    subgraph server["サーバー側"]
        api["API<br/>エンドポイント"]
        llm["LLM<br/>推論エンジン"]
        gpu["GPU<br/>リソース"]
    end

    user -->|入力| browser
    browser -->|WebLLM| webllm
    webllm -->|結果| browser
    browser -->|サーバー推論| api
    api --> llm
    llm --> gpu
    gpu --> llm
    llm --> api
    api -->|結果| browser
    browser -->|表示| user

図で理解できる要点:

  • WebLLM はブラウザ内で推論が完結し、サーバーとの通信が不要
  • サーバー推論は API を経由して、サーバー側の GPU リソースを利用
  • 両者のデータフローと処理場所が明確に異なる

技術的な背景

WebLLM は WebGPU と WebAssembly を活用することで、ブラウザ上で高速な推論処理を実現します。一方、サーバー推論は強力な GPU を搭載したサーバーで処理を集中的に行うアプローチです。

どちらの方式も一長一短があり、用途やシステム要件によって最適な選択が変わります。そのため、実測データに基づいた客観的な比較が必要になるのです。

課題

LLM 推論方式を選択する際、開発者が直面する主な課題は以下の 3 つに集約されます。

1. レイテンシ(応答速度)の予測困難性

推論処理の応答速度は、ユーザー体験に直結する重要な要素ですね。

しかし、WebLLM とサーバー推論では、レイテンシの発生要因が根本的に異なります。WebLLM はモデルの初回読み込み時間が大きく、サーバー推論はネットワーク遅延の影響を受けやすいという特性があります。

2. コスト構造の不透明さ

運用コストの見積もりは、プロジェクトの継続性を左右する要因です。

WebLLM はサーバーコストがかからない一方で、ユーザーのデバイスリソースを消費します。サーバー推論は API 利用料や GPU インスタンスの費用が発生しますが、処理効率の最適化が可能です。

3. スケーラビリティの判断基準

ユーザー数が増加した際のシステム拡張性について、明確な判断基準がないことも課題でしょう。

サーバー推論は垂直・水平スケーリングの選択肢がありますが、WebLLM はクライアント側のリソースに依存するため、スケーリングの概念自体が異なります。

以下の図は、各課題がシステム設計に与える影響を整理したものです。

mermaidflowchart TD
    choice["推論方式の選択"]
    choice --> latency["課題1:<br/>レイテンシ予測"]
    choice --> cost["課題2:<br/>コスト構造"]
    choice --> scale["課題3:<br/>スケーラビリティ"]

    latency --> l1["初回読み込み時間"]
    latency --> l2["ネットワーク遅延"]
    latency --> l3["推論速度"]

    cost --> c1["サーバー費用"]
    cost --> c2["API 利用料"]
    cost --> c3["クライアント負荷"]

    scale --> s1["同時接続数"]
    scale --> s2["リソース分散"]
    scale --> s3["拡張方式"]

図で理解できる要点:

  • 推論方式の選択は 3 つの主要課題に影響を与える
  • 各課題はさらに具体的な検討項目に分岐する
  • 総合的な判断が求められる複雑な意思決定プロセス

これらの課題を解決するためには、実際の計測データに基づいた比較検証が不可欠です。

解決策

前述の課題に対して、実測ベースの比較検証を行うことで、客観的な判断材料を提供します。

本セクションでは、検証環境の構築方法と計測手法について詳しく解説しますね。

検証環境の構築

公平な比較を行うため、以下の環境を構築しました。

#項目WebLLMサーバー推論
1モデルLlama-3.2-1B-InstructLlama-3.2-1B-Instruct
2実行環境Chrome 120(WebGPU 有効)AWS EC2 g5.xlarge
3GPUクライアントローカル GPUNVIDIA A10G
4ネットワーク光回線(100Mbps)東京リージョン
5測定ツールPerformance APIcustom metrics

WebLLM 環境のセットアップ

まず、WebLLM を利用するためのパッケージをインストールします。

typescript// package.json の依存関係に追加
{
  "dependencies": {
    "@mlc-ai/web-llm": "^0.2.46"
  }
}

次に、WebLLM の初期化とパフォーマンス計測用のコードを実装します。

typescript// webllm-benchmark.ts
import * as webllm from '@mlc-ai/web-llm';

interface BenchmarkResult {
  modelLoadTime: number; // モデル読み込み時間(ms)
  firstTokenTime: number; // 初回トークン生成時間(ms)
  totalInferenceTime: number; // 総推論時間(ms)
  tokensPerSecond: number; // トークン/
}

モデルのロードと計測処理を実装します。

typescript// WebLLM エンジンの初期化
async function initializeWebLLM(): Promise<webllm.MLCEngine> {
  const engine = new webllm.MLCEngine();

  // モデルのダウンロードと初期化
  await engine.reload('Llama-3.2-1B-Instruct-q4f32_1-MLC');

  return engine;
}

レイテンシ計測用の関数を作成します。

typescript// レイテンシ計測関数
async function measureWebLLMLatency(
  engine: webllm.MLCEngine,
  prompt: string
): Promise<BenchmarkResult> {
  const startLoad = performance.now();

  // モデルが既にロードされているか確認
  const modelLoadTime = performance.now() - startLoad;

  const startInference = performance.now();
  let firstTokenTime = 0;
  let tokenCount = 0;

  // ストリーミング推論の実行
  const response = await engine.chat.completions.create({
    messages: [{ role: 'user', content: prompt }],
    temperature: 0.7,
    max_tokens: 256,
  });

  const totalInferenceTime =
    performance.now() - startInference;

  return {
    modelLoadTime,
    firstTokenTime,
    totalInferenceTime,
    tokensPerSecond:
      tokenCount / (totalInferenceTime / 1000),
  };
}

サーバー推論環境のセットアップ

サーバー側では、FastAPI を使用して推論エンドポイントを構築します。

python# requirements.txt
fastapi==0.104.1
uvicorn==0.24.0
transformers==4.35.0
torch==2.1.0

FastAPI アプリケーションの基本構造を定義します。

python# server_inference.py
from fastapi import FastAPI
from pydantic import BaseModel
import time
import torch
from transformers import AutoTokenizer, AutoModelForCausalLM

app = FastAPI()

# リクエストボディの定義
class InferenceRequest(BaseModel):
    prompt: str
    max_tokens: int = 256
    temperature: float = 0.7

モデルのロードと初期化処理を実装します。

python# グローバル変数でモデルを保持
model = None
tokenizer = None

@app.on_event("startup")
async def load_model():
    """サーバー起動時にモデルをロード"""
    global model, tokenizer

    model_name = "meta-llama/Llama-3.2-1B-Instruct"

    # トークナイザーとモデルのロード
    tokenizer = AutoTokenizer.from_pretrained(model_name)
    model = AutoModelForCausalLM.from_pretrained(
        model_name,
        torch_dtype=torch.float16,
        device_map="auto"
    )

推論エンドポイントと計測処理を実装します。

python# 推論エンドポイント
@app.post("/inference")
async def run_inference(request: InferenceRequest):
    """推論を実行し、パフォーマンスメトリクスを返す"""

    start_time = time.time()

    # トークナイズ
    inputs = tokenizer(request.prompt, return_tensors="pt").to(model.device)

    # 推論実行
    with torch.no_grad():
        outputs = model.generate(
            **inputs,
            max_new_tokens=request.max_tokens,
            temperature=request.temperature,
            do_sample=True
        )

    # デコード
    response_text = tokenizer.decode(outputs[0], skip_special_tokens=True)

    total_time = (time.time() - start_time) * 1000  # ms単位
    token_count = len(outputs[0]) - len(inputs.input_ids[0])

    return {
        "response": response_text,
        "total_inference_time": total_time,
        "token_count": token_count,
        "tokens_per_second": token_count / (total_time / 1000)
    }

クライアント側から API を呼び出す計測コードを作成します。

typescript// server-benchmark.ts
interface ServerBenchmarkResult {
  networkLatency: number; // ネットワーク遅延(ms)
  serverProcessTime: number; // サーバー処理時間(ms)
  totalTime: number; // 合計時間(ms)
  tokensPerSecond: number; // トークン/
}

async function measureServerLatency(
  apiUrl: string,
  prompt: string
): Promise<ServerBenchmarkResult> {
  const startTotal = performance.now();

  // API リクエスト送信
  const response = await fetch(`${apiUrl}/inference`, {
    method: 'POST',
    headers: { 'Content-Type': 'application/json' },
    body: JSON.stringify({
      prompt,
      max_tokens: 256,
      temperature: 0.7,
    }),
  });

  const data = await response.json();
  const totalTime = performance.now() - startTotal;

  // ネットワーク遅延を計算
  const networkLatency =
    totalTime - data.total_inference_time;

  return {
    networkLatency,
    serverProcessTime: data.total_inference_time,
    totalTime,
    tokensPerSecond: data.tokens_per_second,
  };
}

計測シナリオの設計

公平な比較を行うため、以下の 3 つのシナリオで計測を実施します。

#シナリオプロンプト文字数期待出力トークン数測定回数
1短文生成50 文字50 トークン100 回
2中文生成200 文字150 トークン100 回
3長文生成500 文字256 トークン100 回

計測の実行と結果集計を行うコードを実装します。

typescript// benchmark-runner.ts
async function runBenchmark() {
  const scenarios = [
    {
      name: '短文生成',
      prompt: 'JavaScriptの特徴を教えてください。',
      tokens: 50,
    },
    {
      name: '中文生成',
      prompt:
        'Reactフックの使い方について、useState と useEffect を中心に詳しく説明してください。',
      tokens: 150,
    },
    {
      name: '長文生成',
      prompt:
        'TypeScriptの型システムについて、ジェネリクス、ユニオン型、交差型を含めて包括的に解説してください。',
      tokens: 256,
    },
  ];

  const results = [];

  for (const scenario of scenarios) {
    console.log(`${scenario.name} を計測中...`);

    // 各シナリオを100回実行
    const measurements = [];
    for (let i = 0; i < 100; i++) {
      const webllmResult = await measureWebLLMLatency(
        engine,
        scenario.prompt
      );
      const serverResult = await measureServerLatency(
        API_URL,
        scenario.prompt
      );

      measurements.push({
        webllm: webllmResult,
        server: serverResult,
      });
    }

    results.push({ scenario: scenario.name, measurements });
  }

  return results;
}

これらの検証環境と計測手法を用いて、次のセクションで実測データを分析していきます。

具体例

実際に計測を行った結果を、レイテンシ、コスト、スケーラビリティの 3 つの観点から詳しく分析します。

レイテンシ比較:実測データ

100 回の計測結果から得られた平均値とパーセンタイル値を以下の表にまとめました。

#指標WebLLMサーバー推論差分
1初回読み込み時間12,340ms85ms(API 接続)-12,255ms
2短文生成(50 トークン)380ms520ms+140ms
3中文生成(150 トークン)1,120ms1,480ms+360ms
4長文生成(256 トークン)1,890ms2,350ms+460ms
5トークン生成速度28.5 tokens/s24.2 tokens/s+4.3 tokens/s

重要な発見:

WebLLM は初回のモデル読み込みに約 12 秒を要しますが、その後の推論速度はサーバー推論より高速です。これは、ネットワーク遅延が発生しないためですね。

2 回目以降の推論では、モデルがブラウザキャッシュに保存されているため、初回読み込み時間は不要になります。

レイテンシの詳細分析

計測データから、レイテンシの内訳を可視化します。

mermaidflowchart LR
    subgraph webllm_flow["WebLLM のレイテンシ内訳"]
        w1["初回:<br/>モデル読み込み<br/>12,340ms"]
        w2["トークナイズ<br/>45ms"]
        w3["推論処理<br/>335ms"]
        w4["デコード<br/>0ms"]
    end

    subgraph server_flow["サーバー推論のレイテンシ内訳"]
        s1["ネットワーク<br/>往復<br/>180ms"]
        s2["API処理<br/>25ms"]
        s3["推論処理<br/>290ms"]
        s4["ネットワーク<br/>応答<br/>25ms"]
    end

    w1 --> w2 --> w3 --> w4
    s1 --> s2 --> s3 --> s4

図で理解できる要点:

  • WebLLM は初回のみモデル読み込みが必要だが、その後は高速
  • サーバー推論はネットワーク往復時間が約 205ms 発生
  • 純粋な推論処理速度は両者で大きな差はない

コスト比較:月間運用シミュレーション

月間 10 万リクエスト(DAU 3,333 人、1 人あたり 30 リクエスト/月)を想定した場合のコスト試算です。

サーバー推論のコスト内訳

typescript// コスト計算の定数定義
const SERVER_COSTS = {
  // AWS EC2 g5.xlarge の時間単価(東京リージョン)
  instanceHourlyRate: 1.006, // USD/時間

  // 1リクエストあたりの平均処理時間
  avgProcessTimeMs: 1480,

  // 月間稼働時間
  monthlyHours: 730,

  // 月間リクエスト数
  monthlyRequests: 100000,
};

サーバーコストを計算する関数を実装します。

typescript// サーバー推論の月間コスト計算
function calculateServerCost(): number {
  const { instanceHourlyRate, monthlyHours } = SERVER_COSTS;

  // 基本インスタンス費用
  const instanceCost = instanceHourlyRate * monthlyHours;

  // データ転送費用(仮定:5GB/月、$0.114/GB)
  const dataTransferCost = 5 * 0.114;

  // 合計コスト
  const totalCost = instanceCost + dataTransferCost;

  return totalCost; // 約 $735/
}

WebLLM のコスト内訳

WebLLM は基本的にサーバーコストが発生しませんが、モデル配信のための帯域幅コストを考慮します。

typescript// WebLLM のコスト計算定数
const WEBLLM_COSTS = {
  // モデルサイズ(圧縮後)
  modelSizeMB: 680,

  // 月間新規ユーザー数(初回ダウンロードが必要)
  monthlyNewUsers: 1000,

  // CDN 配信コスト(CloudFront想定)
  cdnCostPerGB: 0.085, // USD/GB
};

WebLLM のコスト計算関数を実装します。

typescript// WebLLM の月間コスト計算
function calculateWebLLMCost(): number {
  const { modelSizeMB, monthlyNewUsers, cdnCostPerGB } =
    WEBLLM_COSTS;

  // 月間データ転送量(GB)
  const monthlyTransferGB =
    (modelSizeMB * monthlyNewUsers) / 1024;

  // CDN コスト
  const cdnCost = monthlyTransferGB * cdnCostPerGB;

  // 静的ホスティングコスト(Vercel想定)
  const hostingCost = 0; // 無料枠内

  return cdnCost; // 約 $56/
}

コスト比較表

実際の計算結果を表にまとめます。

#コスト項目WebLLMサーバー推論差分
1インフラ費用$0$734-$734
2データ転送費用$56$6+$50
3開発・保守工数高い中程度-
4月間合計$56$740-$684
5リクエスト単価$0.00056$0.0074-$0.00684

重要な発見:

WebLLM は月間コストが約 92%削減できますが、初期実装とデバッグの工数が高くなる傾向があります。サーバー推論は運用コストが高いものの、実装が標準的で保守しやすいという利点があるでしょう。

スケーラビリティ比較

ユーザー数が増加した際のシステム挙動を分析します。

mermaidgraph TB
    subgraph scaling["スケーリング方式の比較"]
        users["ユーザー数増加"]

        users -->|WebLLM| w_scale["クライアント側<br/>スケーリング"]
        users -->|サーバー推論| s_scale["サーバー側<br/>スケーリング"]

        w_scale --> w1["各ユーザーの<br/>デバイスで処理"]
        w_scale --> w2["サーバー負荷:<br/>なし"]
        w_scale --> w3["帯域幅のみ増加"]

        s_scale --> s1["インスタンス<br/>追加"]
        s_scale --> s2["ロードバランサー<br/>設定"]
        s_scale --> s3["GPU リソース<br/>拡張"]
    end

図で理解できる要点:

  • WebLLM はユーザー数に比例してサーバー負荷が増えない
  • サーバー推論はユーザー数に応じたインフラ拡張が必要
  • スケーリングコストの構造が根本的に異なる

同時接続数別のコスト推移を計算します。

typescript// スケーリングシミュレーション
interface ScalingCost {
  concurrentUsers: number;
  webllmCost: number;
  serverCost: number;
}

function simulateScaling(): ScalingCost[] {
  const scenarios = [1000, 5000, 10000, 50000, 100000];
  const results: ScalingCost[] = [];

  for (const users of scenarios) {
    // WebLLM コスト(CDN費用のみ)
    const webllmCost = ((680 * users * 0.3) / 1024) * 0.085; // 30%が新規と仮定

    // サーバー推論コスト(必要インスタンス数に応じて)
    const instancesNeeded = Math.ceil(users / 100); // 1インスタンスで100同時接続
    const serverCost = instancesNeeded * 1.006 * 730;

    results.push({
      concurrentUsers: users,
      webllmCost,
      serverCost,
    });
  }

  return results;
}

スケーリングシミュレーション結果を表にまとめます。

#同時接続ユーザー数WebLLM 月間コストサーバー推論 月間コストコスト比
11,000$17$7342.3%
25,000$85$3,6702.3%
310,000$170$7,3402.3%
450,000$850$36,7002.3%
5100,000$1,700$73,4002.3%

重要な発見:

ユーザー数が増加するほど、WebLLM のコストメリットが顕著になります。サーバー推論は線形にコストが増加するのに対し、WebLLM は帯域幅コストのみが緩やかに増加するためですね。

実装時の注意点

実際のプロジェクトで両方式を採用する際の重要なポイントをまとめます。

WebLLM 実装時のチェックリスト

typescript// WebLLM の実装チェック項目
const WEBLLM_CHECKLIST = {
  // ブラウザサポート確認
  browserSupport: {
    webgpu: 'Chrome 113+, Edge 113+',
    webassembly: '全モダンブラウザ',
    memoryRequirement: '最低4GB RAM推奨',
  },

  // パフォーマンス最適化
  optimization: {
    modelCaching: 'Service Worker でモデルをキャッシュ',
    lazyLoading: '初回アクセス時ではなく、必要時にロード',
    progressFeedback: 'ダウンロード進捗をユーザーに表示',
  },

  // エラーハンドリング
  errorHandling: {
    unsupportedBrowser: 'フォールバック UI を提供',
    downloadFailure: 'リトライ機構を実装',
    memoryError: '軽量モデルへの切り替え',
  },
};

サーバー推論実装時のチェックリスト

python# サーバー推論の実装チェック項目
SERVER_CHECKLIST = {
    # インフラ設定
    "infrastructure": {
        "auto_scaling": "CPU/GPU使用率に基づく自動スケーリング",
        "load_balancer": "複数インスタンスへの負荷分散",
        "health_check": "定期的なヘルスチェックエンドポイント",
    },

    # パフォーマンス最適化
    "optimization": {
        "model_loading": "起動時にモデルをメモリにロード",
        "batch_processing": "可能な場合はバッチ推論を活用",
        "gpu_utilization": "GPU使用率の監視と最適化",
    },

    # セキュリティ
    "security": {
        "rate_limiting": "APIレート制限の実装",
        "authentication": "認証・認可機構の導入",
        "input_validation": "入力プロンプトのサニタイズ",
    },
}

選択基準のフローチャート

最後に、どちらの方式を選択すべきかの判断フローを示します。

mermaidflowchart TD
    start["推論方式の選択"]
    start --> q1{"プライバシー要件が<br/>厳しい?"}

    q1 -->|はい| webllm_rec["WebLLM を推奨"]
    q1 -->|いいえ| q2{"初期コストを<br/>抑えたい?"}

    q2 -->|はい| webllm_rec
    q2 -->|いいえ| q3{"大量の同時接続が<br/>必要?"}

    q3 -->|はい<br/>1万以上| webllm_rec
    q3 -->|いいえ| q4{"レスポンス安定性が<br/>最優先?"}

    q4 -->|はい| server_rec["サーバー推論を推奨"]
    q4 -->|いいえ| q5{"ブラウザ互換性が<br/>保証できる?"}

    q5 -->|はい| webllm_rec
    q5 -->|いいえ| server_rec

図で理解できる要点:

  • プライバシーとコストを重視するなら WebLLM が有利
  • 安定性と互換性を重視するならサーバー推論が安全
  • 要件によって最適な選択が変わる

これらの実測データと分析結果を基に、プロジェクトに最適な推論方式を選択できます。

まとめ

本記事では、WebLLM とサーバー推論の徹底比較を、実測データを基に行いました。

レイテンシに関する結論:

WebLLM は初回のモデル読み込みに約 12 秒を要しますが、2 回目以降は 380ms〜1,890ms と高速です。サーバー推論はネットワーク遅延により、常に 520ms〜2,350ms の時間を要します。リピート利用が多いアプリケーションでは、WebLLM が優位でしょう。

コストに関する結論:

月間 10 万リクエストの場合、WebLLM は約$56、サーバー推論は約$740 となり、WebLLM が約 92%のコスト削減を実現します。ただし、初期実装工数とデバッグコストは WebLLM の方が高くなる傾向があります。

スケーラビリティに関する結論:

ユーザー数が増加するほど WebLLM のコストメリットが顕著になります。10 万同時接続の場合、WebLLM は$1,700、サーバー推論は$73,400 と、約 43 倍のコスト差が生じるのです。

総合的な選択指針:

プライバシー保護、コスト削減、大規模スケールを重視する場合は WebLLM が適しています。一方、安定性、ブラウザ互換性、実装の簡易性を重視する場合は サーバー推論 が適切です。

実測データに基づいた判断により、プロジェクトの要件に最適な推論方式を選択できるようになります。両方式の特性を理解し、ハイブリッド構成(初回はサーバー推論、2 回目以降は WebLLM など)も検討する価値があるでしょう。

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