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Kubernetes とは?クラウドネイティブ時代の基礎を - で俯瞰

Kubernetes とは?クラウドネイティブ時代の基礎を - で俯瞰

クラウドネイティブという言葉を耳にする機会が増えてきましたが、その中核を担う技術が Kubernetes(クーバネティス、通称 k8s)です。コンテナ化されたアプリケーションを効率的に運用するためのプラットフォームとして、今や多くの企業で採用されています。本記事では、Kubernetes の基本概念から、なぜ必要なのか、どのような仕組みで動いているのかを、初心者の方にもわかりやすく解説いたします。

背景

クラウドネイティブ時代の到来

従来のシステム開発では、物理サーバーや仮想マシン(VM)上に直接アプリケーションをデプロイする方式が主流でした。しかし、クラウド技術の進化とともに、より柔軟で拡張性の高いアプリケーション実行環境が求められるようになりました。

この流れの中で登場したのが「コンテナ」技術です。Docker に代表されるコンテナは、アプリケーションとその依存関係を 1 つのパッケージにまとめ、どの環境でも同じように動作させることを可能にしました。

コンテナ技術の普及

コンテナは VM と比べて以下のような利点があります。

#項目VMコンテナ
1起動速度数分数秒
2リソース効率低い(OS 全体を含む)高い(カーネル共有)
3ポータビリティ中程度非常に高い
4管理の容易性複雑シンプル

コンテナ技術の普及により、開発者はアプリケーションを小さな単位(マイクロサービス)に分割し、独立して開発・デプロイできるようになりました。

下図は、従来のサーバー構成からコンテナへの移行を示しています。

mermaidflowchart LR
  physical["物理サーバー<br/>(2000年代)"] --> vm["仮想マシン<br/>(2010年代)"]
  vm --> container["コンテナ<br/>(2015年〜)"]
  container --> orchestration["コンテナ<br/>オーケストレーション<br/>(Kubernetes)"]

  style physical fill:#f9f9f9
  style vm fill:#e6f3ff
  style container fill:#d4edda
  style orchestration fill:#fff3cd

この図から、技術の進化とともに、より軽量で効率的な実行環境へと移行してきたことがわかります。

コンテナオーケストレーションの必要性

コンテナが 1 つや 2 つであれば、手動で管理することも可能でしょう。しかし、実際の本番環境では数十から数百、場合によっては数千ものコンテナが稼働します。これらを手動で管理するのは現実的ではありません。

ここで必要となるのが「コンテナオーケストレーション」です。オーケストレーションとは、複数のコンテナを自動的に配置・管理・スケーリング・ネットワーク接続する仕組みを指します。

課題

コンテナ単体運用の限界

コンテナ技術が普及する中で、以下のような課題が顕在化してきました。

スケーリングの困難さ

アクセス量が増加した際に、手動でコンテナを増やすのは時間がかかりすぎます。また、アクセス量が減った際に不要なコンテナを削除する作業も煩雑です。

障害対応の複雑化

コンテナがクラッシュした場合、自動的に再起動する仕組みが必要です。また、複数のサーバー(ノード)間でコンテナを適切に配置し、1 台のサーバーに障害が発生しても サービスを継続できる仕組みが求められます。

デプロイの煩雑さ

新しいバージョンのアプリケーションをデプロイする際、ダウンタイムなしで更新するには高度な技術が必要です。ロールバック(以前のバージョンに戻す)の仕組みも必要でしょう。

下図は、コンテナ単体運用における課題を表しています。

mermaidflowchart TD
  start["コンテナ運用開始"] --> scale["スケール要求"]
  start --> fail["コンテナ障害"]
  start --> deploy["新バージョン<br/>デプロイ"]

  scale --> manual1["手動でコンテナ追加"]
  fail --> manual2["手動で検知・再起動"]
  deploy --> manual3["手動でローリング更新"]

  manual1 --> problem["★ 遅い・煩雑<br/>★ ヒューマンエラー<br/>★ 24時間対応不可"]
  manual2 --> problem
  manual3 --> problem

  style problem fill:#ffcccc

ネットワーク管理の複雑性

複数のコンテナ間での通信、外部からのアクセス、負荷分散など、ネットワーク設定が複雑になります。コンテナの IP アドレスは動的に変わるため、固定的な設定では対応できません。

設定管理の困難さ

環境変数、シークレット情報(パスワードなど)、設定ファイルを安全かつ効率的に管理する仕組みが必要です。開発環境、ステージング環境、本番環境で異なる設定を使い分けることも求められます。

マルチクラウド・ハイブリッドクラウドへの対応

現代のシステムは、1 つのクラウドプロバイダーに依存せず、複数のクラウド(AWS、GCP、Azure など)や、オンプレミス環境を組み合わせて運用するケースが増えています。

それぞれの環境で異なる運用方法を強いられると、管理コストが増大します。統一された運用基盤が必要でした。

解決策

Kubernetes の登場

Kubernetes は、Google が社内で使っていた Borg というシステムをベースに、2014 年にオープンソースプロジェクトとして公開されました。現在は Cloud Native Computing Foundation(CNCF)が管理しています。

Kubernetes は、前述のコンテナ運用における課題を解決するための包括的なプラットフォームです。

Kubernetes の主要機能

自動スケーリング

CPU 使用率やメモリ使用率などのメトリクスに基づいて、コンテナ(Pod)の数を自動的に増減させます。突然のアクセス増加にも柔軟に対応できます。

自己修復(Self-Healing)

コンテナが異常終了した場合、自動的に再起動します。ヘルスチェックに失敗したコンテナは自動的に削除され、新しいコンテナに置き換えられます。

宣言的な設定管理

「あるべき状態」を YAML ファイルで定義すると、Kubernetes がその状態を維持するよう自動的に調整します。手動でのコマンド実行は不要です。

ローリングアップデート&ロールバック

新しいバージョンを段階的にデプロイし、問題があれば自動的に以前のバージョンに戻せます。ダウンタイムゼロでのアップデートが可能です。

サービスディスカバリと負荷分散

コンテナに固定的な IP アドレスを割り当てる必要はありません。Kubernetes が自動的にサービスを発見し、トラフィックを適切に分散します。

下図は、Kubernetes がこれらの課題をどう解決するかを示しています。

mermaidflowchart LR
  challenges["コンテナ運用の課題"] --> k8s["Kubernetes"]

  k8s --> auto1["自動スケーリング<br/>(HPA/VPA)"]
  k8s --> auto2["自己修復<br/>(Self-Healing)"]
  k8s --> auto3["宣言的設定<br/>(YAML)"]
  k8s --> auto4["ローリング更新<br/>(RollingUpdate)"]
  k8s --> auto5["サービス<br/>ディスカバリ"]

  auto1 --> result["運用自動化<br/>高可用性<br/>コスト最適化"]
  auto2 --> result
  auto3 --> result
  auto4 --> result
  auto5 --> result

  style k8s fill:#326ce5,color:#fff
  style result fill:#d4edda

この図から、Kubernetes が複数の機能を組み合わせて、運用の自動化と高可用性を実現していることがわかります。

Kubernetes のアーキテクチャ

Kubernetes は、大きく「コントロールプレーン」と「ワーカーノード」に分かれます。

コントロールプレーン

クラスタ全体を管理する中枢部分です。以下のコンポーネントで構成されます。

  • API Server:すべての操作の窓口
  • etcd:クラスタの状態を保存する分散データベース
  • Scheduler:Pod をどのノードに配置するか決定
  • Controller Manager:あるべき状態を維持するための制御を実行

ワーカーノード

実際にコンテナが動作するサーバーです。以下のコンポーネントを持ちます。

  • kubelet:ノード上で Pod を起動・管理
  • kube-proxy:ネットワークルールを管理
  • Container Runtime:Docker や containerd など、実際にコンテナを実行

具体例

Kubernetes の基本リソース

Kubernetes では、さまざまな「リソース」を組み合わせてアプリケーションを構築します。ここでは代表的なリソースを紹介します。

Pod

Pod は Kubernetes における最小のデプロイ単位です。1 つ以上のコンテナをまとめたもので、同じ Pod 内のコンテナは同じネットワーク空間を共有します。

以下は、Nginx Web サーバーを起動する Pod の定義例です。

yamlapiVersion: v1
kind: Pod
metadata:
  name: nginx-pod
  labels:
    app: nginx

このセクションでは、Kubernetes の API バージョン、リソースの種類(Pod)、メタデータ(名前とラベル)を定義しています。

yamlspec:
  containers:
    - name: nginx
      image: nginx:1.21
      ports:
        - containerPort: 80

spec セクションでは、Pod の詳細な仕様を定義します。ここでは Nginx コンテナを起動し、ポート 80 を公開しています。

Deployment

Pod を直接作成すると、障害時に自動復旧されません。本番環境では Deployment を使います。Deployment は、指定した数の Pod を常に維持し、ローリングアップデートやロールバックを管理します。

yamlapiVersion: apps/v1
kind: Deployment
metadata:
  name: nginx-deployment

Deployment リソースを定義します。apps/v1 という API グループを使用します。

yamlspec:
  replicas: 3
  selector:
    matchLabels:
      app: nginx

レプリカ数を 3 に設定し、どの Pod を管理対象とするかをラベルセレクタで指定しています。

yamltemplate:
  metadata:
    labels:
      app: nginx
  spec:
    containers:
      - name: nginx
        image: nginx:1.21
        ports:
          - containerPort: 80

Pod のテンプレートを定義します。このテンプレートに基づいて 3 つの Pod が作成されます。

下図は、Deployment が Pod を管理する様子を表しています。

mermaidflowchart TD
  deployment["Deployment<br/>(nginx-deployment)<br/>replicas: 3"]

  deployment --> rs["ReplicaSet"]

  rs --> pod1["Pod 1<br/>nginx:1.21"]
  rs --> pod2["Pod 2<br/>nginx:1.21"]
  rs --> pod3["Pod 3<br/>nginx:1.21"]

  pod1 -.->|障害発生| fail["X"]
  fail -.->|自動復旧| pod1_new["Pod 1(新)<br/>nginx:1.21"]

  style deployment fill:#326ce5,color:#fff
  style rs fill:#fff3cd
  style fail fill:#ffcccc
  style pod1_new fill:#d4edda

図で理解できる要点:

  • Deployment が ReplicaSet を通じて Pod を管理
  • Pod に障害が発生すると自動的に新しい Pod が作成される
  • 常に指定した数(replicas: 3)の Pod が維持される

Service

Pod の IP アドレスは動的に変わるため、直接アクセスすることはできません。Service リソースを使うと、Pod へのアクセスを抽象化し、固定的なエンドポイントを提供できます。

yamlapiVersion: v1
kind: Service
metadata:
  name: nginx-service
spec:
  selector:
    app: nginx

Service リソースを定義し、app: nginx というラベルを持つ Pod を対象とします。

yamlports:
  - protocol: TCP
    port: 80
    targetPort: 80
type: LoadBalancer

外部からポート 80 でアクセスできるように設定し、type を LoadBalancer にすることでクラウドプロバイダーのロードバランサーを自動作成します。

ConfigMap と Secret

アプリケーションの設定情報を Pod の定義から分離することで、環境ごとに異なる設定を柔軟に適用できます。

ConfigMap は一般的な設定情報を、Secret は機密情報(パスワード、API キーなど)を管理します。

yamlapiVersion: v1
kind: ConfigMap
metadata:
  name: app-config
data:
  database_host: 'db.example.com'
  log_level: 'info'

ConfigMap では、キーと値のペアで設定情報を定義します。

yamlapiVersion: v1
kind: Secret
metadata:
  name: app-secret
type: Opaque
data:
  password: cGFzc3dvcmQxMjM= # base64 エンコード済み

Secret では、機密情報を base64 でエンコードして保存します(実際の本番環境では、より高度な暗号化を使用します)。

Kubernetes の全体アーキテクチャ

これまで紹介したコンポーネントがどのように連携するかを、全体像として見てみましょう。

mermaidflowchart TB
  subgraph control["コントロールプレーン"]
    api["API Server"]
    etcd[("etcd<br/>(状態保存)")]
    scheduler["Scheduler"]
    controller["Controller<br/>Manager"]
  end

  subgraph node1["ワーカーノード 1"]
    kubelet1["kubelet"]
    proxy1["kube-proxy"]
    pod1a["Pod A"]
    pod1b["Pod B"]
  end

  subgraph node2["ワーカーノード 2"]
    kubelet2["kubelet"]
    proxy2["kube-proxy"]
    pod2a["Pod C"]
  end

  api <--> etcd
  api <--> scheduler
  api <--> controller

  kubelet1 <--> api
  kubelet2 <--> api

  kubelet1 --> pod1a
  kubelet1 --> pod1b
  kubelet2 --> pod2a

  style control fill:#e6f3ff
  style node1 fill:#f9f9f9
  style node2 fill:#f9f9f9

図で理解できる要点:

  • コントロールプレーンはクラスタ全体の状態を管理
  • ワーカーノードは実際にコンテナ(Pod)を実行
  • API Server がすべてのコンポーネントの中心として機能
  • etcd がクラスタの状態を永続化

実際の運用フロー

開発者が新しいアプリケーションをデプロイする際の流れを見てみましょう。

mermaidsequenceDiagram
  participant Dev as 開発者
  participant kubectl as kubectl<br/>(CLI)
  participant API as API Server
  participant etcd as etcd
  participant Scheduler as Scheduler
  participant kubelet as kubelet
  participant Pod as Pod

  Dev->>kubectl: マニフェスト<br/>ファイル適用
  kubectl->>API: Deployment<br/>作成リクエスト
  API->>etcd: 状態を保存
  API->>Scheduler: Pod配置を<br/>依頼
  Scheduler->>API: ノード決定を<br/>通知
  API->>kubelet: Pod起動指示
  kubelet->>Pod: コンテナ起動
  Pod-->>kubelet: 起動完了
  kubelet-->>API: 状態更新
  API-->>etcd: 状態保存

この図から、Kubernetes が宣言的な設定をどのように実行するかがわかります。開発者は「あるべき状態」を定義するだけで、後は Kubernetes が自動的に調整します。

図で理解できる要点:

  • 開発者は kubectl コマンドで YAML ファイルを適用するだけ
  • API Server がすべての操作の窓口となる
  • Scheduler が最適なノードを自動選択
  • kubelet が実際の Pod 起動を担当

ユースケース

Kubernetes は以下のようなシーンで活用されています。

#ユースケース説明主な利点
1マイクロサービス複数の小さなサービスを独立して運用スケーラビリティ、独立デプロイ
2CI/CD パイプライン継続的インテグレーション・デリバリー自動化、高速リリース
3ビッグデータ処理Spark、Hadoop などの分散処理リソース効率、スケール
4AI/ML ワークロード機械学習モデルのトレーニング・推論GPU リソース管理、並列処理
5ハイブリッドクラウドオンプレミスとクラウドの統合運用ポータビリティ、ベンダーロックイン回避

まとめ

Kubernetes は、コンテナ化されたアプリケーションを効率的に運用するための強力なプラットフォームです。クラウドネイティブ時代において、スケーラビリティ、可用性、運用自動化を実現する中核技術として広く採用されています。

本記事では、以下のポイントを解説いたしました。

背景と課題

コンテナ技術の普及に伴い、大量のコンテナを効率的に管理する仕組みが必要になりました。手動での運用では、スケーリング、障害対応、デプロイ管理が困難です。

Kubernetes による解決

自動スケーリング、自己修復、宣言的な設定管理、ローリングアップデート、サービスディスカバリなど、包括的な機能により運用を自動化します。コントロールプレーンとワーカーノードという明確なアーキテクチャで、大規模なシステムでも安定的に動作します。

主要リソース

Pod、Deployment、Service、ConfigMap、Secret といった基本リソースを組み合わせることで、柔軟なアプリケーション構成を実現できます。それぞれのリソースは明確な役割を持ち、YAML ファイルで宣言的に定義します。

実際の活用

マイクロサービス、CI/CD、ビッグデータ、AI/ML、ハイブリッドクラウドなど、さまざまなシーンで Kubernetes が活躍しています。クラウドプロバイダーも Kubernetes をベースとしたマネージドサービス(EKS、GKE、AKS など)を提供しており、導入のハードルは下がってきています。

Kubernetes の学習曲線は決して緩やかではありませんが、その投資に見合う価値は十分にあるでしょう。まずは小さな環境(minikube や kind)で基本的な操作を試し、徐々に理解を深めていくことをおすすめします。

クラウドネイティブの世界へ、ぜひ一歩踏み出してみてください。

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