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GitHub Actions と Jenkins の違いを徹底比較

GitHub Actions と Jenkins の違いを徹底比較

現代のソフトウェア開発において、CI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)ツールの選択は、開発チームの生産性と製品品質に大きな影響を与えます。特に近年注目を集めているのが、GitHub 社が提供する GitHub Actions と、長年多くの企業で愛用されてきたオープンソースの Jenkins です。

この記事では、これら 2 つの代表的な CI/CD ツールを徹底的に比較し、どちらがあなたのプロジェクトに最適かを判断するための情報をお届けします。初心者の方にも分かりやすく、実際の導入事例も交えながら解説していきますね。

GitHub Actions とは

GitHub Actions は、GitHub 社が 2019 年に正式リリースしたクラウドネイティブな CI/CD サービスです。GitHub リポジトリと完全に統合されており、コードの変更からデプロイまでの一連の自動化処理を、YAML ファイルで直感的に定義できます。

クラウドネイティブな CI/CD サービス

GitHub Actions の最大の特徴は、完全にクラウド上で動作するという点です。従来の CI/CD ツールとは異なり、自社でサーバーを構築・運用する必要がありません。

GitHub Actions の基本的なワークフロー構成を図で示します。

mermaidflowchart TD
    A[コード Push] --> B[GitHub リポジトリ]
    B --> C{トリガー条件}
    C -->|条件一致| D[ワークフロー開始]
    D --> E[GitHub ランナー割り当て]
    E --> F[ジョブ実行]
    F --> G[テスト・ビルド・デプロイ]
    G --> H[結果通知]
    H --> I[ログ・アーティファクト保存]

上図のように、コードのプッシュから結果通知まで、すべてが GitHub 上で完結する仕組みになっています。

主な特徴は以下の通りです:

#特徴説明
1ゼロ設定リポジトリに .github​/​workflows​/​ フォルダを作成するだけで開始
2マネージドインフラGitHub がランナー(実行環境)を提供・管理
3従量課金実際の利用時間のみ課金される透明な料金体系

GitHub 統合による開発者体験

GitHub Actions は、GitHub の各機能と深く統合されているため、開発者にとって非常に使いやすい環境を提供します。

プルリクエストとの連携例を以下のワークフローで示します:

yamlname: PR Check
on:
  pull_request:
    branches: [main]

jobs:
  test:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - uses: actions/checkout@v3
      - name: Setup Node.js
        uses: actions/setup-node@v3
        with:
          node-version: '18'
      - name: Install dependencies
        run: yarn install

このように、プルリクエストが作成されるたびに自動的にテストが実行され、結果がプルリクエスト画面に直接表示されます。

統合による開発者体験の向上ポイントは以下の通りです:

  • シームレスな連携: プルリクエスト、イシュー、リリースとの自動連携
  • リアルタイム フィードバック: コード変更に対する即座の結果表示
  • マーケットプレイス: 豊富な事前定義アクションの利用可能

Jenkins とは

Jenkins は 2011 年にリリースされた歴史あるオープンソースの自動化サーバーです。Java 言語で開発されており、オンプレミス環境での柔軟なカスタマイズと豊富なプラグインエコシステムが最大の特徴となっています。

オープンソースの自動化サーバー

Jenkins は完全にオープンソースで開発されており、企業が独自の要件に合わせて自由にカスタマイズできる柔軟性を持っています。

Jenkins の基本的なアーキテクチャを図で示します。

mermaidflowchart TB
    A[Jenkins マスター] --> B[ビルド ジョブ管理]
    A --> C[プラグイン管理]
    A --> D[ユーザー管理]

    A --> E[エージェント 1]
    A --> F[エージェント 2]
    A --> G[エージェント N]

    E --> H[ビルド実行]
    F --> I[テスト実行]
    G --> J[デプロイ実行]

    K[SCM連携] --> A
    L[外部ツール] --> A

このマスター・エージェント構成により、大規模な並列処理と負荷分散を実現しています。

Jenkins の主な特徴:

#特徴詳細
1完全オンプレミス自社インフラでの完全な制御が可能
2高いカスタマイズ性あらゆる開発環境・ツールとの統合
3成熟したエコシステム10 年以上の開発で蓄積された豊富な知見

豊富なプラグインエコシステム

Jenkins の最大の強みは、1800 以上の公開プラグインを持つ豊富なエコシステムです。これにより、ほぼすべての開発ツールや外部サービスとの連携が可能になっています。

代表的なプラグインカテゴリ:

yaml# 主要プラグインカテゴリー例
version_control:
  - Git Plugin
  - Subversion Plugin
  - Mercurial Plugin

build_tools:
  - Maven Integration Plugin
  - Gradle Plugin
  - NodeJS Plugin

deployment:
  - Deploy to Container Plugin
  - Kubernetes Continuous Deploy Plugin
  - AWS CodeDeploy Plugin

このプラグイン システムにより、既存の開発ツールチェーンを変更することなく、Jenkins を導入できる柔軟性があります。

主要な違い

GitHub Actions と Jenkins には、アーキテクチャから運用方法まで、根本的な違いがあります。ここでは最も重要な 3 つの違いについて詳しく解説します。

インフラ管理

最も大きな違いは、インフラの管理方法です。

GitHub Actions と Jenkins のインフラ管理の違いを比較図で示します。

mermaidgraph TB
    subgraph GitHub Actions
        A1[GitHub Hosted Runners] --> A2[自動スケーリング]
        A1 --> A3[マネージドインフラ]
        A1 --> A4[メンテナンス不要]
    end

    subgraph Jenkins
        B1[自社サーバー] --> B2[手動スケーリング]
        B1 --> B3[インフラ構築・運用]
        B1 --> B4[定期メンテナンス]
    end

    A1 -.->|vs| B1

この図から分かるように、運用負荷に大きな差があります。

GitHub Actions:

  • インフラ構築・運用は GitHub が担当
  • 自動スケーリングで需要に応じたリソース提供
  • セキュリティ パッチやアップデートも自動

Jenkins:

  • サーバーの調達から設定まで自社で実施
  • 負荷増加時の手動スケーリングが必要
  • 定期的なメンテナンス作業が発生

設定方法

設定の approach も大きく異なります。

GitHub Actions の YAML 設定例:

yaml# .github/workflows/ci.yml
name: Continuous Integration
on:
  push:
    branches: [main, develop]
  pull_request:
    branches: [main]

jobs:
  test:
    runs-on: ubuntu-latest
    strategy:
      matrix:
        node-version: [16, 18, 20]

    steps:
      - name: Checkout code
        uses: actions/checkout@v3

      - name: Setup Node.js
        uses: actions/setup-node@v3
        with:
          node-version: ${{ matrix.node-version }}
          cache: 'yarn'

Jenkins の Pipeline 設定例:

groovy// Jenkinsfile
pipeline {
    agent any

    tools {
        nodejs '18'
    }

    stages {
        stage('Checkout') {
            steps {
                checkout scm
            }
        }

        stage('Install Dependencies') {
            steps {
                sh 'yarn install'
            }
        }

        stage('Test') {
            parallel {
                stage('Unit Tests') {
                    steps {
                        sh 'yarn test:unit'
                    }
                }
                stage('Integration Tests') {
                    steps {
                        sh 'yarn test:integration'
                    }
                }
            }
        }
    }
}

設定方法の比較:

#項目GitHub ActionsJenkins
1記述形式YAML(宣言的)Groovy/GUI(手続き的)
2学習コスト低(直感的)中〜高(DSL 習得必要)
3バージョン管理Git で自動管理手動での設定同期

コスト構造

料金体系も根本的に異なります。

GitHub Actions のコスト構造:

yaml# 料金例(2024年現在)
free_tier:
  public_repositories: '無制限'
  private_repositories: '月2000分まで無料'

paid_plan:
  per_minute: '$0.008/分(Linux)'
  concurrent_jobs: '最大20並列'

storage:
  artifacts: '$0.25/GB/月'

Jenkins のコスト構造:

  • 初期コスト: サーバー調達費、ライセンス費(商用版の場合)
  • 運用コスト: 電気代、データセンター費用、メンテナンス人件費
  • スケーリング コスト: 追加サーバー、ストレージ拡張費用

コスト比較の図解:

mermaidgraph LR
    subgraph GitHub Actions
        GA1[従量課金] --> GA2[利用分のみ]
        GA2 --> GA3[予測可能なコスト]
    end

    subgraph Jenkins
        J1[固定費] --> J2[インフラ維持費]
        J2 --> J3[人件費]
        J3 --> J4[予測困難なコスト]
    end

GitHub Actions は使った分だけの明確なコスト計算ができる一方、Jenkins は隠れたコストが発生しやすい構造になっています。

どちらを選ぶべきか

プロジェクトの特性とチームの状況に応じて、最適な選択は変わります。以下の判断基準を参考に検討してみてください。

プロジェクト規模別の判断基準

小規模プロジェクト(1-5 人チーム):

GitHub Actions が圧倒的に有利です。理由は以下の通りです:

  • 初期設定の簡単さ
  • インフラ運用の負荷がゼロ
  • 従量課金による低コスト
yaml# 小規模プロジェクト向けワークフロー例
name: Simple CI/CD
on: [push, pull_request]

jobs:
  test-and-deploy:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - uses: actions/checkout@v3
      - uses: actions/setup-node@v3
      - run: yarn install && yarn test
      - name: Deploy to Vercel
        uses: amondnet/vercel-action@v20

中規模プロジェクト(10-50 人チーム):

どちらも選択肢となりますが、以下の要因で判断します:

#判断要因GitHub ActionsJenkins
1GitHub 依存度高い場合に推奨複数 SCM 利用時に推奨
2カスタマイズ要求標準機能で充足時複雑な要件時
3運用リソース限定的な場合専任エンジニア確保時

大規模プロジェクト(50 人以上):

Jenkins が適している場合が多くなります:

  • 複雑なデプロイメント パイプライン
  • 厳格なセキュリティ要件
  • 既存システムとの高度な統合

チーム体制による選択指針

開発チームのスキルセットと体制に基づいた選択指針を図で整理します。

mermaidflowchart TD
    A[チーム分析] --> B{インフラ専任者}
    B -->|いる| C[Jenkins 検討可能]
    B -->|いない| D[GitHub Actions 推奨]

    C --> E{カスタマイズ要求}
    E -->|高| F[Jenkins 選択]
    E -->|低| G[GitHub Actions も選択肢]

    D --> H{予算制約}
    H -->|厳しい| I[GitHub Actions]
    H -->|余裕あり| J[両方検討可能]

チーム体制による推奨パターン:

GitHub Actions 推奨チーム:

  • フルスタック エンジニア中心
  • アジャイル開発重視
  • クラウドファースト指向
  • スタートアップ・小規模企業

Jenkins 推奨チーム:

  • インフラ エンジニア在籍
  • エンタープライズ環境
  • セキュリティ・コンプライアンス重視
  • レガシー システム連携必要

実際の導入事例

実際の導入事例を通じて、それぞれの特徴をより具体的に理解しましょう。

GitHub Actions 導入例

事例:スタートアップの Web アプリケーション開発

ある 5 人のスタートアップチームが、React + Next.js の Web アプリケーション開発に GitHub Actions を導入した事例です。

導入前の課題:

  • 手動デプロイによる人的ミス
  • テスト実行の忘れ
  • 開発速度の低下

導入したワークフロー:

yamlname: Production Deployment
on:
  push:
    branches: [main]

jobs:
  deploy:
    runs-on: ubuntu-latest
    steps:
      - name: Checkout
        uses: actions/checkout@v3

      - name: Setup Node.js
        uses: actions/setup-node@v3
        with:
          node-version: '18'
          cache: 'yarn'

      - name: Install and Test
        run: |
          yarn install
          yarn test --coverage
          yarn build

効果測定結果:

#指標導入前導入後改善率
1デプロイ時間30 分5 分83%短縮
2デプロイ頻度週 1 回日 3 回21 倍向上
3障害発生率月 2 回月 0.2 回90%削減

導入から 3 ヶ月で、開発チームの生産性が大幅に向上しました。

Jenkins 導入例

事例:中堅システム開発会社のエンタープライズ システム

50 人規模のシステム開発会社が、複数のプロジェクトを横断する CI/CD 基盤として Jenkins を導入した事例です。

導入の背景:

  • 複数のバージョン管理システム(Git、SVN、Mercurial)を使用
  • オンプレミスでの完全なコントロールが必要
  • 厳格なセキュリティ・コンプライアンス要件

Jenkins パイプライン設計:

groovypipeline {
    agent none

    stages {
        stage('Multi-SCM Checkout') {
            parallel {
                stage('Main Repo') {
                    agent { label 'linux' }
                    steps {
                        git 'https://internal.company.com/repo1.git'
                    }
                }
                stage('Config Repo') {
                    agent { label 'linux' }
                    steps {
                        svn 'https://internal.company.com/config'
                    }
                }
            }
        }

        stage('Compliance Check') {
            agent { label 'security-scanner' }
            steps {
                sh 'security-scan.sh'
                publishHTML([
                    allowMissing: false,
                    alwaysLinkToLastBuild: true,
                    keepAll: true,
                    reportDir: 'security-reports',
                    reportFiles: 'index.html'
                ])
            }
        }
    }
}

導入効果:

  • 統合性: 異なる SCM システムを単一の CI/CD で管理
  • セキュリティ: 社内セキュリティ要件を満たすカスタマイズ
  • 拡張性: プロジェクト増加に応じた柔軟なスケーリング

Jenkins 導入のアーキテクチャを図で示すと:

mermaidflowchart TB
    subgraph 社内ネットワーク
        A[Jenkins マスター] --> B[Linux エージェント]
        A --> C[Windows エージェント]
        A --> D[macOS エージェント]

        B --> E[Java プロジェクト]
        C --> F[.NET プロジェクト]
        D --> G[iOS プロジェクト]

        A --> H[セキュリティ スキャナ]
        A --> I[デプロイ サーバー]
    end

    J[外部 Git] -.->|VPN| A
    K[外部 SVN] -.->|VPN| A

このように、社内の複雑な環境を統一的に管理できる点が Jenkins の強みとして活用されました。

まとめ

GitHub Actions と Jenkins の選択は、プロジェクトの特性とチームの状況によって決まります。

選択のポイント整理

GitHub Actions を選ぶべき場合:

  • GitHub をメインのコード管理ツールとして利用
  • チームの運用リソースが限定的
  • 迅速な導入と開発開始を重視
  • スタートアップ〜中規模プロジェクト

Jenkins を選ぶべき場合:

  • 複雑なカスタマイズ要件がある
  • オンプレミスでの完全なコントロールが必要
  • 既存の開発ツールチェーンとの高度な統合
  • エンタープライズ レベルのセキュリティ要件

今後の展望

CI/CD ツールの選択において、以下のトレンドを押さえておくことが重要です:

#トレンドGitHub ActionsJenkins
1クラウドネイティブ化✅ ネイティブ対応🔄 CloudBees 等で対応
2コンテナ活用✅ Docker 統合✅ 豊富なプラグイン
3セキュリティ強化✅ 継続的改善✅ エンタープライズ対応

両ツールとも継続的に進化しており、将来的にはさらに使いやすくなることが期待されます。最終的には、あなたのチームの現在の状況と将来的な計画を考慮して、最適なツールを選択することが重要ですね。

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