Storybook で“仕様が生きる”開発:ドキュメント駆動 UI の実践ロードマップ
UI 開発で「仕様書は古くなっていて、実装と合っていない」という経験はありませんか?ドキュメントと実装が乖離すると、メンテナンスコストが増大し、チーム間の認識のズレが生まれてしまいます。こうした課題を解決するのが「ドキュメント駆動 UI 開発」です。Storybook を活用すれば、仕様がコードと一体化し、常に最新の状態を保ったまま開発を進められます。
本記事では、Storybook を中心としたドキュメント駆動 UI 開発の実践ロードマップを、導入から運用まで段階的に解説します。
背景
UI 開発におけるドキュメントの課題
従来の UI 開発では、設計書や仕様書は Word や Excel、Confluence などの外部ツールで管理されるのが一般的でした。しかし、このアプローチには以下のような課題があります。
まず、ドキュメントと実装が別々に管理されるため、コードを更新してもドキュメントの更新を忘れてしまうことが頻繁に起こります。その結果、数ヶ月後には「どちらが正しいのか分からない」状態に陥ってしまうのです。
また、新しいメンバーがプロジェクトに参加した際、ドキュメントと実装の差異を見つけるのに時間がかかり、学習コストが増大します。さらに、デザイナーやプロダクトマネージャーなど非エンジニアのメンバーが実装状況を確認するハードルも高くなってしまいます。
以下の図は、従来のドキュメント管理における問題点を示しています。
mermaidflowchart TB
spec["仕様書<br/>(Word/Confluence)"] -->|参照| dev["開発者"]
dev -->|実装| code["実装コード"]
code -.->|更新忘れ| spec
spec -.->|古い情報| designer["デザイナー"]
spec -.->|乖離| pm["PM"]
code -->|実際の動作| review["レビュー"]
style spec fill:#ffcccc
style code fill:#ccffcc
上記の図が示すように、仕様書と実装コードが別々に存在することで、情報の同期が取れず、チーム間のコミュニケーションコストが増大します。
ドキュメント駆動開発とは
ドキュメント駆動開発(Documentation Driven Development)は、ドキュメントを開発プロセスの中心に据える手法です。ドキュメントとコードを同じ場所で管理し、常に同期させることで、仕様が「生きた状態」を保ちます。
この手法では、ドキュメントは単なる記録ではなく、開発のガイドとなり、コミュニケーションツールとして機能します。Storybook はまさにこの思想を UI 開発に適用するための最適なツールなのです。
課題
従来のドキュメント管理の限界
従来のドキュメント管理では、以下のような具体的な問題が発生します。
情報の断絶が最も大きな課題です。デザインツール(Figma)、仕様書(Confluence)、実装(GitHub)、動作確認環境(Staging)がそれぞれ別の場所に存在し、情報を集めるだけで多大な時間がかかります。
バージョン管理の難しさも深刻です。どのバージョンの仕様書が最新なのか、どのコミットに対応しているのかが不明確になり、混乱を招きます。
レビューの非効率性も見逃せません。実装されたコンポーネントを確認するためには、ローカル環境を立ち上げたり、特定のページに遷移したりする必要があり、レビューに時間がかかってしまいます。
以下の図は、情報が分散している状態を表しています。
mermaidflowchart LR
figma["Figma<br/>(デザイン)"]
conf["Confluence<br/>(仕様書)"]
github["GitHub<br/>(コード)"]
staging["Staging<br/>(動作確認)"]
dev["開発者"] -.->|行ったり来たり| figma
dev -.->|行ったり来たり| conf
dev -.->|行ったり来たり| github
dev -.->|行ったり来たり| staging
style dev fill:#ffcccc
この図が示すように、開発者は複数のツールを行き来する必要があり、認知負荷が高まります。
理想的なドキュメントの条件
ドキュメント駆動 UI 開発を実現するには、以下の条件を満たすドキュメントが必要です。
まず、実装と同期していることが絶対条件です。ドキュメントは常にコードと一致し、古い情報が残らないようにします。
次に、誰でもアクセスできることが重要です。エンジニアだけでなく、デザイナーやプロダクトマネージャーも簡単に確認できる必要があります。
さらに、インタラクティブであることで、静的な画像ではなく、実際に動作するコンポーネントを確認できるようにします。
最後に、検索・発見しやすい構造を持ち、必要な情報にすぐにたどり着けることが求められます。
Storybook はこれらすべての条件を満たすツールなのです。
解決策
Storybook によるドキュメント駆動 UI 開発
Storybook を活用することで、ドキュメントと実装が一体化し、常に同期した状態を保てます。ここでは、Storybook がどのようにドキュメント駆動開発を実現するのかを解説します。
Storybook の基本構造
Storybook は、UI コンポーネントを独立した環境で開発・表示するためのツールです。各コンポーネントに対して「Story(ストーリー)」と呼ばれる使用例を定義し、それがそのままドキュメントとして機能します。
以下の図は、Storybook を中心としたドキュメント駆動開発のフローを示しています。
mermaidflowchart TB
code["実装コード<br/>(TypeScript/React)"] --> story["Story ファイル<br/>(.stories.tsx)"]
story --> sb["Storybook UI"]
sb --> dev["開発者"]
sb --> designer["デザイナー"]
sb --> pm["PM"]
sb --> qa["QA"]
story --> docs["自動生成<br/>Docs"]
story --> test["Visual Test"]
style sb fill:#ccffcc
style story fill:#ccffcc
上記の図が示すように、Storybook は実装コードと密接に結びついており、Story ファイルを作成するだけで、自動的にドキュメントとテスト基盤が構築されます。
Story ファイルの役割
Story ファイルは、コンポーネントのドキュメントそのものです。以下のような情報を一箇所に集約できます。
- コンポーネントの Props(プロパティ)の説明
- 使用例とバリエーション
- インタラクティブな操作による動作確認
- デザイントークンやスタイルガイドライン
このように、Story ファイルは単なるサンプルコードではなく、「生きた仕様書」として機能します。
ドキュメント駆動 UI 開発の実践ステップ
Storybook を活用したドキュメント駆動 UI 開発は、以下のステップで進めます。
以下の図は、実践ステップの全体像を表しています。
mermaidflowchart TD
step1["ステップ1<br/>環境構築"] --> step2["ステップ2<br/>コンポーネント設計"]
step2 --> step3["ステップ3<br/>Story 作成"]
step3 --> step4["ステップ4<br/>ドキュメント拡充"]
step4 --> step5["ステップ5<br/>チーム運用"]
step5 --> review["レビュー"]
review --> step3
style step1 fill:#e1f5ff
style step2 fill:#e1f5ff
style step3 fill:#e1f5ff
style step4 fill:#e1f5ff
style step5 fill:#ccffcc
この図が示すように、各ステップを段階的に進めることで、ドキュメント駆動 UI 開発を実現できます。それでは、各ステップの詳細を見ていきましょう。
具体例
ステップ 1:Storybook 環境構築
まずは、Next.js プロジェクトに Storybook を導入します。
プロジェクトの前提条件
以下の環境を前提とします。
- Next.js 14 以降
- React 18 以降
- TypeScript
- Yarn パッケージマネージャー
Storybook のインストール
以下のコマンドで Storybook を自動セットアップします。
bashyarn dlx storybook@latest init
このコマンドを実行すると、Storybook が自動的にプロジェクトの構成を検出し、必要な設定ファイルを生成してくれます。
生成されるファイル構成
インストールが完了すると、以下のファイルが生成されます。
plaintext.storybook/
├── main.ts # Storybook のメイン設定
├── preview.ts # グローバルデコレーター設定
stories/
├── Button.stories.tsx
├── Header.stories.tsx
└── Page.stories.tsx
.storybook/main.ts には、Storybook の基本設定が記述されています。
Storybook の起動確認
以下のコマンドで Storybook を起動します。
bashyarn storybook
ブラウザで http://localhost:6006 にアクセスし、Storybook が正しく起動することを確認しましょう。サンプルの Story が表示されれば、環境構築は完了です。
ステップ 2:コンポーネント設計と Story の基本
実際のコンポーネントに対して Story を作成していきます。ここでは、汎用的な Button コンポーネントを例に解説します。
Button コンポーネントの実装
まず、基本的な Button コンポーネントを作成します。
typescript// components/Button/Button.tsx
import React from 'react';
次に、Button コンポーネントの型定義を行います。
typescriptexport interface ButtonProps {
/** ボタンのラベルテキスト */
label: string;
/** ボタンのバリエーション */
variant?: 'primary' | 'secondary' | 'danger';
/** サイズ */
size?: 'small' | 'medium' | 'large';
/** 無効化状態 */
disabled?: boolean;
/** クリック時のハンドラ */
onClick?: () => void;
}
型定義では、JSDoc コメントを使って各プロパティの説明を記述します。このコメントは後ほど Storybook のドキュメントに自動反映されます。
次に、Button コンポーネントの実装を行います。
typescriptexport const Button: React.FC<ButtonProps> = ({
label,
variant = 'primary',
size = 'medium',
disabled = false,
onClick,
}) => {
// バリエーションに応じたクラス名を生成
const variantClass = {
primary: 'bg-blue-600 hover:bg-blue-700 text-white',
secondary:
'bg-gray-200 hover:bg-gray-300 text-gray-800',
danger: 'bg-red-600 hover:bg-red-700 text-white',
}[variant];
// サイズに応じたクラス名を生成
const sizeClass = {
small: 'px-3 py-1 text-sm',
medium: 'px-4 py-2 text-base',
large: 'px-6 py-3 text-lg',
}[size];
return (
<button
className={`rounded font-semibold ${variantClass} ${sizeClass} ${
disabled ? 'opacity-50 cursor-not-allowed' : ''
}`}
disabled={disabled}
onClick={onClick}
>
{label}
</button>
);
};
この実装では、Tailwind CSS を使ってスタイリングしています。バリエーションとサイズに応じて動的にクラス名を切り替える仕組みになっています。
Button の Story 作成
次に、Button コンポーネントの Story ファイルを作成します。
typescript// components/Button/Button.stories.tsx
import type { Meta, StoryObj } from '@storybook/react';
import { Button } from './Button';
Meta 型を使って、Story 全体の設定を定義します。
typescriptconst meta: Meta<typeof Button> = {
title: 'Components/Button',
component: Button,
parameters: {
layout: 'centered',
},
tags: ['autodocs'],
argTypes: {
variant: {
control: 'select',
options: ['primary', 'secondary', 'danger'],
description: 'ボタンの視覚的なバリエーション',
},
size: {
control: 'select',
options: ['small', 'medium', 'large'],
description: 'ボタンのサイズ',
},
disabled: {
control: 'boolean',
description: 'ボタンを無効化するかどうか',
},
},
};
export default meta;
type Story = StoryObj<typeof Button>;
title プロパティは Storybook のサイドバーでの表示位置を決定します。tags: ['autodocs'] を指定することで、自動的にドキュメントページが生成されます。
次に、具体的な Story(使用例)を定義します。
typescript/** 基本的な Primary ボタン */
export const Primary: Story = {
args: {
label: 'Primary Button',
variant: 'primary',
},
};
/** Secondary バリエーション */
export const Secondary: Story = {
args: {
label: 'Secondary Button',
variant: 'secondary',
},
};
/** 危険なアクション用の Danger ボタン */
export const Danger: Story = {
args: {
label: 'Delete',
variant: 'danger',
},
};
各 Story には JSDoc コメントで説明を追加します。この説明は Storybook 上に表示されます。
サイズバリエーションの Story も作成します。
typescript/** Small サイズのボタン */
export const Small: Story = {
args: {
label: 'Small Button',
size: 'small',
},
};
/** Large サイズのボタン */
export const Large: Story = {
args: {
label: 'Large Button',
size: 'large',
},
};
無効化状態の Story も定義しておきます。
typescript/** 無効化されたボタン */
export const Disabled: Story = {
args: {
label: 'Disabled Button',
disabled: true,
},
};
この Story ファイルにより、Button コンポーネントのすべてのバリエーションが一覧できるようになります。
ステップ 3:インタラクティブなドキュメント作成
Storybook の Controls アドオンを活用することで、ドキュメント閲覧者が自由にプロパティを変更して、コンポーネントの動作を確認できるようになります。
Controls の自動生成
先ほど作成した Story では、argTypes で各プロパティのコントロールタイプを定義しました。これにより、Storybook の Controls パネルに以下のような UI が自動生成されます。
variant:セレクトボックス(primary / secondary / danger から選択)size:セレクトボックス(small / medium / large から選択)disabled:チェックボックスlabel:テキスト入力
この Controls パネルを使うことで、デザイナーやプロダクトマネージャーでも、コードを書かずにコンポーネントの動作を確認できます。
アクションの記録
ボタンのクリックなどのイベントを記録するには、Actions アドオンを使います。
Story に onClick のアクションを追加しましょう。
typescript// Button.stories.tsx(追加部分)
import { fn } from '@storybook/test';
export const WithAction: Story = {
args: {
label: 'Click me',
onClick: fn(),
},
};
fn() 関数を使うことで、ボタンがクリックされたことが Actions パネルに記録され、いつ、どのような引数でイベントが発火したかを確認できます。
ステップ 4:複合的なコンポーネントのドキュメント化
単一のコンポーネントだけでなく、複数のコンポーネントを組み合わせたパターンもドキュメント化できます。ここでは、Form コンポーネントを例に解説します。
Form コンポーネントの実装
まず、シンプルな入力フォームのコンポーネントを作成します。
typescript// components/Form/Form.tsx
import React, { useState } from 'react';
import { Button } from '../Button/Button';
次に、Form コンポーネントの型定義を行います。
typescriptexport interface FormProps {
/** フォームのタイトル */
title: string;
/** 送信ボタンのラベル */
submitLabel?: string;
/** 送信時のハンドラ */
onSubmit: (data: {
email: string;
message: string;
}) => void;
}
Form コンポーネントの実装を行います。
typescriptexport const Form: React.FC<FormProps> = ({
title,
submitLabel = '送信',
onSubmit,
}) => {
const [email, setEmail] = useState('');
const [message, setMessage] = useState('');
const handleSubmit = (e: React.FormEvent) => {
e.preventDefault();
onSubmit({ email, message });
};
return (
<form onSubmit={handleSubmit} className='space-y-4'>
<h2 className='text-xl font-bold'>{title}</h2>
<div>
<label className='block text-sm font-medium mb-1'>
メールアドレス
</label>
<input
type='email'
value={email}
onChange={(e) => setEmail(e.target.value)}
className='w-full px-3 py-2 border rounded'
required
/>
</div>
<div>
<label className='block text-sm font-medium mb-1'>
メッセージ
</label>
<textarea
value={message}
onChange={(e) => setMessage(e.target.value)}
className='w-full px-3 py-2 border rounded'
rows={4}
required
/>
</div>
<Button label={submitLabel} variant='primary' />
</form>
);
};
Form コンポーネントは内部で Button コンポーネントを使用しており、コンポーネント間の依存関係も明確になっています。
Form の Story 作成
Form コンポーネントの Story を作成します。
typescript// components/Form/Form.stories.tsx
import type { Meta, StoryObj } from '@storybook/react';
import { fn } from '@storybook/test';
import { Form } from './Form';
const meta: Meta<typeof Form> = {
title: 'Components/Form',
component: Form,
parameters: {
layout: 'padded',
},
tags: ['autodocs'],
};
export default meta;
type Story = StoryObj<typeof Form>;
基本的な Form の Story を定義します。
typescript/** 基本的なお問い合わせフォーム */
export const ContactForm: Story = {
args: {
title: 'お問い合わせ',
submitLabel: '送信する',
onSubmit: fn(),
},
};
別のバリエーションも作成します。
typescript/** フィードバックフォーム */
export const FeedbackForm: Story = {
args: {
title: 'フィードバックをお聞かせください',
submitLabel: 'フィードバックを送信',
onSubmit: fn(),
},
};
このように、複合的なコンポーネントも Story として定義することで、実際の使用シーンをドキュメント化できます。
ステップ 5:MDX によるリッチなドキュメント作成
Storybook では、MDX 形式を使ってより詳細なドキュメントを作成できます。MDX は Markdown と JSX を組み合わせた形式で、説明文の中に実際のコンポーネントを埋め込めます。
MDX ドキュメントの作成
Button コンポーネントのより詳細なドキュメントを MDX で作成します。
mdx{/* components/Button/Button.mdx */}
import { Meta, Story, Canvas, Controls } from '@storybook/blocks';
import \* as ButtonStories from './Button.stories';
<Meta of={ButtonStories} />
# Button コンポーネント
Button は、ユーザーのアクションをトリガーするための基本的な UI コンポーネントです。
# 使い方
最も基本的な使用例は以下の通りです。
<Canvas of={ButtonStories.Primary} />
# バリエーション
Button コンポーネントは 3 つのバリエーションをサポートしています。
## Primary
最も重要なアクションに使用します。ページ内で 1 つまでの使用を推奨します。
<Canvas of={ButtonStories.Primary} />
## Secondary
補助的なアクションに使用します。
<Canvas of={ButtonStories.Secondary} />
## Danger
削除や取り消し不可能な操作など、危険性の高いアクションに使用します。
<Canvas of={ButtonStories.Danger} />
# サイズ
3 つのサイズから選択できます。
<Canvas of={ButtonStories.Small} />
<Canvas of={ButtonStories.Large} />
# Props
<Controls of={ButtonStories.Primary} />
この MDX ファイルでは、マークダウンで説明を書きつつ、<Canvas> コンポーネントで実際の Story を埋め込んでいます。
使用ガイドラインの追加
さらに、使用ガイドラインをドキュメントに追加します。
mdx{/* Button.mdx(続き) */}
# 使用ガイドライン
## こんなときに使う
- フォームの送信
- ダイアログの確認・キャンセル
- アクションのトリガー
## 避けるべき使い方
- リンク遷移には使わない(`<a>` タグまたは Link コンポーネントを使用)
- 1 ページに Primary ボタンを複数配置しない
# アクセシビリティ
- キーボード操作(Enter / Space)で動作します
- `disabled` 状態では操作できません
- スクリーンリーダーは `label` プロパティの内容を読み上げます
このように、単なる見た目のサンプルだけでなく、いつ使うべきか、避けるべき使い方は何かといったガイドラインもドキュメント化することで、チーム全体で統一された UI を実装できます。
ステップ 6:チーム運用とレビューフロー
Storybook を活用したドキュメント駆動 UI 開発を、チーム全体で運用するためのフローを構築します。
Storybook のデプロイ
まず、Storybook を静的サイトとしてビルドし、チーム全体がアクセスできるようにデプロイします。
以下のコマンドで Storybook をビルドします。
bashyarn build-storybook
ビルド結果は storybook-static ディレクトリに出力されます。このディレクトリを静的ホスティングサービス(Vercel、Netlify、GitHub Pages など)にデプロイすることで、誰でもブラウザから Storybook にアクセスできるようになります。
GitHub Actions での自動デプロイ
GitHub Actions を使って、プルリクエストごとに Storybook を自動デプロイする設定を行います。
以下のワークフローファイルを作成します。
yaml# .github/workflows/storybook.yml
name: Deploy Storybook
on:
pull_request:
branches: [main]
次に、ビルドとデプロイのジョブを定義します。
yamljobs:
deploy-storybook:
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v3
- name: Setup Node.js
uses: actions/setup-node@v3
with:
node-version: '18'
- name: Install dependencies
run: yarn install --frozen-lockfile
- name: Build Storybook
run: yarn build-storybook
- name: Deploy to Vercel
uses: amondnet/vercel-action@v20
with:
vercel-token: ${{ secrets.VERCEL_TOKEN }}
vercel-org-id: ${{ secrets.VERCEL_ORG_ID }}
vercel-project-id: ${{ secrets.VERCEL_PROJECT_ID }}
working-directory: ./storybook-static
この設定により、プルリクエストが作成されるたびに、変更内容を反映した Storybook が自動的にデプロイされ、レビュアーが実際の動作を確認できるようになります。
レビューフローの確立
以下のようなレビューフローを確立すると、効果的です。
- 開発者が新しいコンポーネントを実装する際、必ず Story を作成する
- プルリクエストを作成すると、自動的に Storybook がデプロイされる
- レビュアーはデプロイされた Storybook で実際の動作を確認する
- デザイナーも Storybook を確認し、デザインとの差異をチェックする
- フィードバックを反映し、再度レビュー
このフローにより、コードレビューとデザインレビューを同時に行えるようになり、手戻りが大幅に減少します。
Story 作成のルール化
チーム内で Story 作成のルールを統一することも重要です。以下のようなルールを設けると良いでしょう。
| # | ルール | 説明 |
|---|---|---|
| 1 | 必須 Story | すべてのコンポーネントに少なくとも 1 つの Story を作成する |
| 2 | バリエーション | 主要なバリエーションはすべて Story として定義する |
| 3 | エッジケース | エラー状態やローディング状態も Story 化する |
| 4 | JSDoc | Props にはすべて JSDoc コメントを記述する |
| 5 | MDX ドキュメント | 重要なコンポーネントは MDX で詳細ドキュメントを作成する |
これらのルールをプルリクエストテンプレートに含めることで、レビュー時のチェックリストとして活用できます。
ステップ 7:継続的なメンテナンス
ドキュメント駆動 UI 開発を継続するためのメンテナンス方法を紹介します。
Story の整合性チェック
定期的に Story が実際のコンポーネントと一致しているかをチェックします。以下のような観点で確認しましょう。
- Props の型定義と Story の
argTypesが一致しているか - 新しく追加された Props が Story に反映されているか
- 削除された Props が Story から削除されているか
TypeScript を使っている場合、型チェックで多くの不整合を検出できます。
Visual Regression Testing
Storybook の Story を活用して、Visual Regression Testing(視覚的回帰テスト)を導入すると、UI の意図しない変更を自動検出できます。
Chromatic などのサービスを使うと、簡単に Visual Testing を導入できます。
bashyarn add --dev chromatic
以下のコマンドで Visual Testing を実行します。
bashyarn chromatic --project-token=<your-project-token>
このコマンドを実行すると、すべての Story のスクリーンショットが撮影され、前回のスナップショットと比較されます。差異があれば通知されるため、意図しない UI の変更を検出できます。
ドキュメントのアクセス解析
Storybook をデプロイした際、どの Story がよく閲覧されているかを分析すると、チームがどのコンポーネントに関心を持っているかが分かります。
Google Analytics などの解析ツールを組み込むことで、以下のような情報を収集できます。
- よく閲覧される Story(人気のコンポーネント)
- あまり閲覧されない Story(不要なコンポーネントの候補)
- Story のナビゲーション経路
この情報をもとに、ドキュメントの構造を最適化したり、不要なコンポーネントを削除したりできます。
図で理解できる要点まとめ
本章では、Storybook を使ったドキュメント駆動 UI 開発の具体的な実践方法を、7 つのステップに分けて解説しました。以下の要点を押さえておきましょう。
- Story ファイルは実装と密接に結びつき、ドキュメントとして機能する
- Controls アドオンによりインタラクティブなドキュメントが自動生成される
- MDX を活用することで、説明文と実際のコンポーネントを一体化できる
- GitHub Actions で自動デプロイすることで、レビューフローが効率化される
- ルール化と継続的なメンテナンスにより、ドキュメントの品質が保たれる
まとめ
Storybook を活用したドキュメント駆動 UI 開発は、仕様書と実装の乖離を解消し、チーム全体のコミュニケーションを劇的に改善します。
本記事で解説した実践ロードマップを振り返ると、以下のような流れになります。
まず、従来のドキュメント管理の課題を認識し、ドキュメント駆動開発の必要性を理解します。次に、Storybook を導入し、コンポーネントごとに Story を作成することで、実装とドキュメントを一体化させます。さらに、MDX を活用してリッチなドキュメントを作成し、チーム全体で活用できる体制を整えます。
最も重要なのは、「ドキュメントは常に最新である」という状態を保つことです。Story ファイルはコードと同じリポジトリで管理され、コードレビューの対象となるため、古いドキュメントが残り続けることはありません。
また、Storybook はエンジニアだけのツールではありません。デザイナーやプロダクトマネージャー、QA エンジニアもブラウザから簡単にアクセスでき、実際のコンポーネントを確認できます。これにより、「実装されてから初めて確認する」というフローから、「実装中に継続的に確認する」フローへと移行できます。
ドキュメント駆動 UI 開発を実践することで、以下のような効果が期待できます。
- 仕様と実装の乖離がなくなり、メンテナンスコストが削減される
- チーム間のコミュニケーションが円滑になり、手戻りが減少する
- 新メンバーのオンボーディングが容易になる
- コンポーネントの再利用性が向上し、開発スピードが向上する
ぜひ、本記事で紹介した実践ロードマップを参考に、Storybook を活用したドキュメント駆動 UI 開発を始めてみてください。最初は小さなコンポーネントから始めて、徐々に適用範囲を広げていくことをおすすめします。
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