FFmpeg コーデック地図 2025:H.264/H.265/AV1/VP9/ProRes/DNxHR の使いどころ
FFmpeg で動画をエンコードする際、どのコーデックを選ぶべきか迷ったことはありませんか?H.264、H.265、AV1、VP9、ProRes、DNxHR など、コーデックの選択肢は年々増えています。
「ファイルサイズを小さくしたい」「編集しやすい中間フォーマットが欲しい」「Web 配信に最適化したい」など、用途によって最適なコーデックは大きく異なります。しかし、それぞれの特性や使いどころを理解せずに選ぶと、エンコード時間の無駄遣いや画質の劣化、互換性の問題に悩まされることもあるでしょう。
本記事では、2025 年現在主流となっている 6 つのコーデック(H.264/H.265/AV1/VP9/ProRes/DNxHR)について、それぞれの特性、メリット・デメリット、具体的な FFmpeg コマンド例を交えて詳しく解説します。この記事を読めば、プロジェクトごとに最適なコーデックを自信を持って選択できるようになるはずです。
背景
動画コーデックは、動画データを圧縮・展開するためのアルゴリズムを指します。コーデックの選択は、ファイルサイズ、画質、エンコード速度、デコード速度、互換性など、さまざまな要素に影響を与えますね。
近年、インターネット動画配信の普及や 4K/8K 映像の一般化により、より高効率な圧縮技術が求められるようになりました。一方で、動画編集やプロフェッショナル用途では、圧縮率よりも画質保持や編集の快適さを重視する場面も多いです。
以下の図は、動画コーデックの主な分類と、それぞれの代表的なコーデックを示しています。
mermaidflowchart TB
root["動画コーデック"]
配信用["配信用<br/>高圧縮コーデック"]
編集用["編集用<br/>中間コーデック"]
root --> 配信用
root --> 編集用
配信用 --> h264["H.264/AVC"]
配信用 --> h265["H.265/HEVC"]
配信用 --> av1["AV1"]
配信用 --> vp9["VP9"]
編集用 --> prores["ProRes"]
編集用 --> dnxhr["DNxHR"]
図の要点:
- 動画コーデックは大きく「配信用(高圧縮)」と「編集用(中間)」に分類されます
- 配信用は H.264、H.265、AV1、VP9 など、ファイルサイズを抑えることが重視されます
- 編集用は ProRes、DNxHR など、画質保持と編集の快適さが優先されるのです
コーデックの歴史的変遷
動画コーデックは時代とともに進化してきました。以下の表は、主要コーデックの登場年と主な特徴をまとめたものです。
| # | コーデック | 登場年 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 1 | H.264/AVC | 2003 年 | DVD やブルーレイ、Web 配信で広く普及 |
| 2 | VP9 | 2013 年 | Google 開発、YouTube で採用 |
| 3 | H.265/HEVC | 2013 年 | H.264 の約 2 倍の圧縮効率 |
| 4 | AV1 | 2018 年 | ロイヤリティフリー、次世代コーデック |
| 5 | ProRes | 2007 年 | Apple 開発、編集用中間コーデック |
| 6 | DNxHR | 2014 年 | Avid 開発、編集用中間コーデック |
H.264 は 20 年以上前に登場したコーデックですが、現在でも最も広く使われているコーデックの一つです。その後、より高効率な H.265 や AV1 が登場し、配信用途でのファイルサイズ削減が進んでいます。
一方、ProRes や DNxHR は編集用途に特化しており、圧縮率よりも画質保持と編集時のパフォーマンスを重視しているのが特徴でしょう。
課題
動画コーデックの選択は、以下のような課題を抱えています。
課題 1:用途に応じた最適なコーデックがわかりにくい
配信用、編集用、アーカイブ用など、用途によって求められる特性は異なります。しかし、各コーデックの特性を理解せずに選択すると、エンコード時間やファイルサイズ、画質などで最適な結果が得られません。
例えば、Web 配信用の動画を ProRes でエンコードすると、ファイルサイズが大きくなりすぎて配信に不向きですし、編集用の中間ファイルを AV1 でエンコードすると、デコード負荷が高くて編集作業が快適に進まないでしょう。
課題 2:圧縮効率とエンコード時間のトレードオフ
高圧縮率のコーデック(H.265、AV1)は、ファイルサイズを大幅に削減できますが、エンコード時間が長くなる傾向があります。一方、エンコードが高速なコーデック(H.264)は、ファイルサイズが大きくなりがちです。
また、エンコード設定(プリセット、CRF 値など)によっても、品質とエンコード時間のバランスが変わります。
課題 3:互換性と将来性のバランス
H.264 は互換性が高く、ほぼすべてのデバイスで再生できますが、圧縮効率は最新のコーデックに劣ります。逆に、AV1 は高効率ですが、古いデバイスではサポートされていないこともありますね。
以下の図は、コーデック選択時の主な課題を整理したものです。
mermaidflowchart LR
選択課題["コーデック<br/>選択の課題"]
用途["用途の明確化"]
性能["性能要件"]
互換性["互換性"]
選択課題 --> 用途
選択課題 --> 性能
選択課題 --> 互換性
用途 --> 用途1["配信用"]
用途 --> 用途2["編集用"]
用途 --> 用途3["アーカイブ用"]
性能 --> 性能1["エンコード時間"]
性能 --> 性能2["ファイルサイズ"]
性能 --> 性能3["画質"]
互換性 --> 互換性1["デバイス対応"]
互換性 --> 互換性2["将来性"]
互換性 --> 互換性3["ライセンス"]
図の要点:
- コーデック選択には「用途」「性能」「互換性」の 3 つの軸があります
- 用途では、配信、編集、アーカイブのどれを重視するかを決めます
- 性能では、エンコード時間、ファイルサイズ、画質のバランスを考慮するのです
- 互換性では、デバイス対応、将来性、ライセンスを検討する必要があるでしょう
解決策
各コーデックの特性を理解し、用途に応じて適切に使い分けることで、上記の課題を解決できます。以下、各コーデックの特徴と使いどころを詳しく見ていきましょう。
H.264/AVC:互換性と汎用性の王道
H.264(正式名称:AVC/Advanced Video Coding)は、2003 年に標準化された動画コーデックです。20 年以上の歴史がありますが、現在でも最も広く使われているコーデックでしょう。
特徴
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 互換性 | ほぼすべてのデバイス・ブラウザで再生可能 |
| 2 | エンコード速度 | 高速(ハードウェアエンコーダーも広く普及) |
| 3 | 圧縮効率 | 中程度(新しいコーデックと比べると劣る) |
| 4 | ライセンス | 特許プール(商用利用には注意が必要) |
使いどころ
- Web 配信:最大限の互換性を求める場合
- モバイル向け配信:古い端末でも確実に再生したい場合
- リアルタイム配信:エンコード速度が重要な場合
- 汎用的なアーカイブ:将来的な再生互換性を重視する場合
デメリット
- 4K 以上の高解像度では、ファイルサイズが大きくなりやすいです
- 最新のコーデックと比較すると、圧縮効率が劣ります
H.265/HEVC:高圧縮率の次世代標準
H.265(正式名称:HEVC/High Efficiency Video Coding)は、2013 年に標準化された、H.264 の後継コーデックです。H.264 と比較して約 2 倍の圧縮効率を実現しています。
特徴
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 圧縮効率 | H.264 の約 2 倍 |
| 2 | 互換性 | 比較的高い(2015 年以降のデバイスで対応) |
| 3 | エンコード速度 | H.264 より遅い |
| 4 | ライセンス | 特許プール(複雑なライセンス体系) |
使いどころ
- 4K/8K 動画配信:高解像度でファイルサイズを抑えたい場合
- ストレージ節約:品質を保ちつつファイルサイズを削減したい場合
- モバイル配信:帯域幅を節約したい場合
- HDR 動画:広色域や高ダイナミックレンジを扱う場合
デメリット
- エンコード時間が H.264 より長くなります
- ライセンス費用が複雑で、商用利用時に注意が必要です
- 古いデバイスでは再生できないことがあるでしょう
AV1:ロイヤリティフリーの次世代コーデック
AV1 は、Alliance for Open Media(AOMedia)によって 2018 年に標準化された、完全にロイヤリティフリーのコーデックです。Google、Netflix、Amazon、Apple など、主要企業が支援しています。
特徴
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 圧縮効率 | H.265 より約 30% 向上 |
| 2 | ライセンス | 完全にロイヤリティフリー |
| 3 | エンコード速度 | 非常に遅い(改善中) |
| 4 | 互換性 | 新しいブラウザ・デバイスで対応が進む |
使いどころ
- Web 配信(最新ブラウザ):Chrome、Firefox、Edge などの最新版
- ストリーミングサービス:Netflix、YouTube などがすでに採用
- ライセンスフリーが重要な場合:特許料を避けたいプロジェクト
- 将来を見据えたアーカイブ:次世代標準として期待される
デメリット
- エンコード時間が非常に長いです(H.265 の数倍)
- 古いデバイスでは再生できません
- ハードウェアエンコーダー・デコーダーの普及が進行中でしょう
VP9:Google 主導のオープンコーデック
VP9 は、Google が開発したロイヤリティフリーのコーデックで、2013 年に公開されました。YouTube で広く採用されています。
特徴
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 圧縮効率 | H.264 より約 50% 向上 |
| 2 | ライセンス | ロイヤリティフリー |
| 3 | エンコード速度 | H.264 より遅い、AV1 より速い |
| 4 | 互換性 | Chrome、Firefox で広くサポート |
使いどころ
- YouTube 配信:YouTube が標準で採用
- Web 配信(Chrome/Firefox):これらのブラウザがターゲットの場合
- ライセンスフリーが重要な場合:AV1 より軽量な代替
- 4K 配信:H.264 よりファイルサイズを削減したい場合
デメリット
- Safari や一部のデバイスで非対応です
- AV1 の登場により、将来的には置き換わる可能性があるでしょう
- H.265 と比較すると、圧縮効率がやや劣ります
ProRes:Apple の編集用中間コーデック
ProRes は、Apple が開発した編集用の中間コーデックです。2007 年に登場し、プロフェッショナルな動画編集現場で広く使われています。
特徴
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 画質 | 非常に高い(ほぼロスレス) |
| 2 | 編集性 | イントラフレーム圧縮で編集に最適 |
| 3 | ファイルサイズ | 非常に大きい |
| 4 | デコード速度 | 非常に高速 |
ProRes には、用途に応じた複数のプロファイルがあります。
| # | プロファイル | ビットレート | 用途 |
|---|---|---|---|
| 1 | ProRes 422 Proxy | 低 | オフライン編集、プレビュー |
| 2 | ProRes 422 LT | 中 | 一般的な編集作業 |
| 3 | ProRes 422 | 中高 | 放送品質の編集 |
| 4 | ProRes 422 HQ | 高 | 高品質な編集・グレーディング |
| 5 | ProRes 4444 | 最高 | アルファチャンネル、広色域対応 |
使いどころ
- 動画編集の中間ファイル:DaVinci Resolve、Final Cut Pro、Premiere Pro など
- カラーグレーディング:色情報を保持したい場合
- アルファチャンネル:透過情報が必要な場合(ProRes 4444)
- Apple 環境:macOS や iOS デバイスでネイティブサポート
デメリット
- ファイルサイズが非常に大きいです
- 配信用途には不向きでしょう
- Windows でのサポートは限定的です(FFmpeg では利用可能)
DNxHR:Avid の編集用中間コーデック
DNxHR は、Avid が開発した編集用の中間コーデックで、2014 年に登場しました。ProRes の対抗として、Windows 環境でも広くサポートされています。
特徴
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 画質 | 非常に高い |
| 2 | 編集性 | イントラフレーム圧縮で編集に最適 |
| 3 | ファイルサイズ | 非常に大きい |
| 4 | クロスプラットフォーム | macOS、Windows、Linux で対応 |
DNxHR にも、複数のプロファイルがあります。
| # | プロファイル | ビットレート | 用途 |
|---|---|---|---|
| 1 | DNxHR LB | 低 | オフライン編集、プレビュー |
| 2 | DNxHR SQ | 中 | 一般的な編集作業 |
| 3 | DNxHR HQ | 中高 | 高品質な編集 |
| 4 | DNxHR HQX | 高 | カラーグレーディング、広色域 |
| 5 | DNxHR 444 | 最高 | アルファチャンネル、最高品質 |
使いどころ
- 動画編集の中間ファイル:Avid Media Composer、DaVinci Resolve、Premiere Pro など
- クロスプラットフォーム環境:Windows と macOS を混在させる場合
- カラーグレーディング:色情報を保持したい場合
- アルファチャンネル:透過情報が必要な場合(DNxHR 444)
デメリット
- ファイルサイズが非常に大きいです
- 配信用途には不向きでしょう
- ProRes と比較すると、Apple 環境でのサポートがやや劣ります
コーデック選択フローチャート
以下の図は、用途に応じたコーデック選択のフローチャートです。
mermaidflowchart TD
start["コーデックを<br/>選択する"]
用途{用途は?}
配信["配信用"]
編集["編集用"]
start --> 用途
用途 -->|配信| 配信
用途 -->|編集| 編集
互換性{互換性<br/>重視?}
圧縮{圧縮効率<br/>重視?}
配信 --> 互換性
互換性 -->|はい| h264_choice["H.264"]
互換性 -->|いいえ| 圧縮
圧縮 -->|最高| av1_choice["AV1"]
圧縮 -->|高| h265_choice["H.265"]
圧縮 -->|中| vp9_choice["VP9"]
環境{Apple<br/>環境?}
編集 --> 環境
環境 -->|はい| prores_choice["ProRes"]
環境 -->|いいえ| dnxhr_choice["DNxHR"]
図で理解できる要点:
- まず「配信用」か「編集用」かを決めます
- 配信用では、互換性を重視するなら H.264、圧縮効率を重視するなら AV1 や H.265 を選びましょう
- 編集用では、Apple 環境なら ProRes、それ以外なら DNxHR が適しています
具体例
ここからは、FFmpeg を使った各コーデックの具体的なエンコード例を紹介します。実際のコマンドとともに、パラメータの意味や使い分けのポイントを解説していきますね。
H.264 エンコード例
H.264 でエンコードする際の基本的なコマンド例です。
基本的なエンコード
bashffmpeg -i input.mp4 -c:v libx264 -preset medium -crf 23 -c:a aac -b:a 128k output.mp4
パラメータの説明:
-c:v libx264:H.264 エンコーダーを使用-preset medium:エンコード速度と圧縮効率のバランス-crf 23:品質設定(0-51、低いほど高品質、18-28 が推奨)-c:a aac:音声を AAC でエンコード-b:a 128k:音声ビットレート 128kbps
プリセットの使い分け
プリセットは、エンコード速度と圧縮効率のバランスを調整します。
| # | プリセット | エンコード速度 | ファイルサイズ | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | ultrafast | 最速 | 最大 | リアルタイム配信 |
| 2 | superfast | 非常に速い | 大きい | クイックプレビュー |
| 3 | veryfast | 速い | やや大きい | 一般的な配信 |
| 4 | faster | やや速い | 中程度 | バランス重視 |
| 5 | fast | 普通 | 中程度 | バランス重視 |
| 6 | medium | 普通 | 標準 | デフォルト推奨 |
| 7 | slow | 遅い | 小さい | 高品質配信 |
| 8 | slower | 非常に遅い | より小さい | アーカイブ |
| 9 | veryslow | 最も遅い | 最小 | 最高品質 |
2 パスエンコード
より高品質なエンコードを行う場合は、2 パスエンコードを使用します。
bash# 1 パス目(解析)
ffmpeg -i input.mp4 -c:v libx264 -preset slow -b:v 2M -pass 1 -an -f mp4 /dev/null
1 パス目では、動画の特性を解析します。
-pass 1:1 パス目を指定-an:音声をエンコードしない(時間短縮)-f mp4 /dev/null:出力をダミーファイルに(Windows ではNUL)
bash# 2 パス目(エンコード)
ffmpeg -i input.mp4 -c:v libx264 -preset slow -b:v 2M -pass 2 -c:a aac -b:a 128k output.mp4
2 パス目では、1 パス目の解析結果を使って最適なエンコードを行います。
-pass 2:2 パス目を指定-b:v 2M:ビットレート 2Mbps を指定
H.265 エンコード例
H.265 でエンコードする際の基本的なコマンド例です。
基本的なエンコード
bashffmpeg -i input.mp4 -c:v libx265 -preset medium -crf 28 -c:a aac -b:a 128k output.mp4
パラメータの説明:
-c:v libx265:H.265 エンコーダーを使用-crf 28:H.264 の crf 23 と同程度の品質
H.265 は H.264 より圧縮効率が高いため、同じファイルサイズで高品質を得るには、crf 値を 4-6 程度上げるのが目安です。
4K 動画のエンコード
4K 動画を H.265 でエンコードする例です。
bashffmpeg -i input_4k.mp4 \
-c:v libx265 \
-preset slow \
-crf 24 \
-pix_fmt yuv420p10le \
-c:a aac \
-b:a 192k \
output_4k.mp4
パラメータの説明:
-pix_fmt yuv420p10le:10 ビット色深度を使用(より高品質)-b:a 192k:音声ビットレートを高めに設定
10 ビット色深度は、グラデーションのバンディング(階調のムラ)を軽減します。
ハードウェアエンコード(NVIDIA GPU)
NVIDIA の GPU を使ってエンコードを高速化する例です。
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v hevc_nvenc \
-preset p4 \
-cq 28 \
-c:a aac \
-b:a 128k \
output.mp4
パラメータの説明:
-c:v hevc_nvenc:NVIDIA HEVC エンコーダーを使用-preset p4:品質重視プリセット(p1-p7、数字が大きいほど高品質)-cq 28:品質設定(crf に相当)
ハードウェアエンコードは、ソフトウェアエンコードより高速ですが、品質がやや劣る場合があります。
AV1 エンコード例
AV1 でエンコードする際の基本的なコマンド例です。
基本的なエンコード(libaom-av1)
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libaom-av1 \
-cpu-used 4 \
-crf 30 \
-b:v 0 \
-c:a libopus \
-b:a 128k \
output.webm
パラメータの説明:
-c:v libaom-av1:libaom-av1 エンコーダーを使用-cpu-used 4:エンコード速度設定(0-8、数字が大きいほど高速)-crf 30:品質設定(H.265 の crf 28 と同程度)-b:v 0:可変ビットレート(VBR)を使用-c:a libopus:音声を Opus でエンコード(WebM 推奨)
libaom-av1 は非常に高品質ですが、エンコード時間が長いです。
高速エンコード(SVT-AV1)
SVT-AV1 は、Intel と Netflix が開発した高速な AV1 エンコーダーです。
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libsvtav1 \
-preset 6 \
-crf 30 \
-c:a libopus \
-b:a 128k \
output.webm
パラメータの説明:
-c:v libsvtav1:SVT-AV1 エンコーダーを使用-preset 6:エンコード速度設定(0-13、数字が大きいほど高速)
SVT-AV1 は、libaom-av1 より高速で、品質も十分に高いです。
2 パスエンコード
AV1 でも 2 パスエンコードが可能です。
bash# 1 パス目
ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libsvtav1 \
-preset 6 \
-b:v 2M \
-pass 1 \
-an \
-f webm /dev/null
bash# 2 パス目
ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libsvtav1 \
-preset 6 \
-b:v 2M \
-pass 2 \
-c:a libopus \
-b:a 128k \
output.webm
2 パスエンコードは、ビットレート制約がある場合に有効でしょう。
VP9 エンコード例
VP9 でエンコードする際の基本的なコマンド例です。
基本的なエンコード
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libvpx-vp9 \
-crf 30 \
-b:v 0 \
-c:a libopus \
-b:a 128k \
output.webm
パラメータの説明:
-c:v libvpx-vp9:VP9 エンコーダーを使用-crf 30:品質設定(15-35 が推奨)-b:v 0:可変ビットレート(VBR)を使用
高品質エンコード(2 パス)
VP9 では、2 パスエンコードが推奨されます。
bash# 1 パス目
ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libvpx-vp9 \
-b:v 2M \
-pass 1 \
-an \
-f webm /dev/null
bash# 2 パス目
ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libvpx-vp9 \
-b:v 2M \
-pass 2 \
-c:a libopus \
-b:a 128k \
output.webm
YouTube 向けエンコード
YouTube 推奨の VP9 エンコード設定です。
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libvpx-vp9 \
-b:v 0 \
-crf 23 \
-row-mt 1 \
-tile-columns 2 \
-threads 4 \
-c:a libopus \
-b:a 192k \
output.webm
パラメータの説明:
-row-mt 1:行ベースのマルチスレッドを有効化-tile-columns 2:タイル分割を有効化(並列処理)-threads 4:スレッド数を指定
これらの設定により、エンコード速度が大幅に向上します。
ProRes エンコード例
ProRes でエンコードする際の基本的なコマンド例です。
ProRes 422 HQ(高品質編集用)
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v prores_ks \
-profile:v 3 \
-pix_fmt yuv422p10le \
-c:a pcm_s16le \
output.mov
パラメータの説明:
-c:v prores_ks:ProRes エンコーダーを使用-profile:v 3:ProRes 422 HQ を指定-pix_fmt yuv422p10le:4:2:2 色空間、10 ビット-c:a pcm_s16le:音声を無圧縮 PCM でエンコード
プロファイルの指定
ProRes のプロファイルは、-profile:v で指定します。
| # | profile | プロファイル | 用途 |
|---|---|---|---|
| 1 | 0 | ProRes 422 Proxy | プレビュー・オフライン編集 |
| 2 | 1 | ProRes 422 LT | 一般的な編集 |
| 3 | 2 | ProRes 422 | 放送品質編集 |
| 4 | 3 | ProRes 422 HQ | 高品質編集・グレーディング |
| 5 | 4 | ProRes 4444 | アルファチャンネル・広色域 |
| 6 | 5 | ProRes 4444 XQ | 最高品質 |
ProRes 4444(アルファチャンネル対応)
bashffmpeg -i input.mov \
-c:v prores_ks \
-profile:v 4 \
-pix_fmt yuva444p10le \
-c:a pcm_s16le \
output.mov
パラメータの説明:
-profile:v 4:ProRes 4444 を指定-pix_fmt yuva444p10le:4:4:4:4 色空間(アルファ付き)、10 ビット
ProRes 4444 は、透過情報を含む動画や、カラーグレーディングで広色域を扱う場合に使用します。
DNxHR エンコード例
DNxHR でエンコードする際の基本的なコマンド例です。
DNxHR HQ(高品質編集用)
bashffmpeg -i input.mp4 \
-c:v dnxhd \
-profile:v dnxhr_hq \
-pix_fmt yuv422p \
-c:a pcm_s16le \
output.mov
パラメータの説明:
-c:v dnxhd:DNxHD/DNxHR エンコーダーを使用-profile:v dnxhr_hq:DNxHR HQ を指定-pix_fmt yuv422p:4:2:2 色空間
プロファイルの指定
DNxHR のプロファイルは、-profile:v で指定します。
| # | profile | プロファイル | 用途 |
|---|---|---|---|
| 1 | dnxhr_lb | DNxHR LB | プレビュー・オフライン編集 |
| 2 | dnxhr_sq | DNxHR SQ | 一般的な編集 |
| 3 | dnxhr_hq | DNxHR HQ | 高品質編集 |
| 4 | dnxhr_hqx | DNxHR HQX | カラーグレーディング |
| 5 | dnxhr_444 | DNxHR 444 | アルファチャンネル・最高品質 |
DNxHR 444(アルファチャンネル対応)
bashffmpeg -i input.mov \
-c:v dnxhd \
-profile:v dnxhr_444 \
-pix_fmt yuva444p \
-c:a pcm_s16le \
output.mov
パラメータの説明:
-profile:v dnxhr_444:DNxHR 444 を指定-pix_fmt yuva444p:4:4:4:4 色空間(アルファ付き)
コーデック変換のワークフロー例
実際の作業では、複数のコーデックを組み合わせて使うことが多いです。以下の図は、典型的なワークフローを示しています。
mermaidflowchart LR
素材["カメラ素材<br/>(H.264)"]
中間["編集用中間<br/>(ProRes/DNxHR)"]
編集["動画編集<br/>カラグレ"]
配信["配信用<br/>(H.264/H.265/AV1)"]
アーカイブ["アーカイブ<br/>(ProRes/DNxHR)"]
素材 -->|変換| 中間
中間 --> 編集
編集 --> 配信
編集 --> アーカイブ
ワークフローの要点:
- カメラ素材(H.264 など)を編集用中間ファイル(ProRes/DNxHR)に変換します
- 編集用中間ファイルで編集・カラーグレーディングを行います
- 編集完了後、配信用(H.264/H.265/AV1)とアーカイブ用(ProRes/DNxHR)を書き出します
このワークフローにより、編集時のパフォーマンスと配信時の効率を両立できるのです。
まとめ
本記事では、2025 年現在主流となっている 6 つの動画コーデック(H.264/H.265/AV1/VP9/ProRes/DNxHR)について、それぞれの特性、使いどころ、FFmpeg での具体的なエンコード方法を解説しました。
コーデック選択の基本的な考え方をまとめると、以下のようになります。
| # | 用途 | 推奨コーデック | 理由 |
|---|---|---|---|
| 1 | 最大限の互換性が必要な配信 | H.264 | ほぼすべてのデバイスで再生可能 |
| 2 | 4K 以上の高解像度配信 | H.265 | 高い圧縮効率と広い互換性 |
| 3 | 次世代の Web 配信 | AV1 | 最高の圧縮効率、ロイヤリティフリー |
| 4 | YouTube 配信 | VP9 | YouTube が推奨、ロイヤリティフリー |
| 5 | Apple 環境での編集 | ProRes | macOS/iOS でネイティブサポート |
| 6 | クロスプラットフォーム編集 | DNxHR | Windows/macOS/Linux で対応 |
各コーデックには、それぞれの強みと弱みがあります。配信用では「互換性」「圧縮効率」「エンコード速度」のバランスを、編集用では「画質保持」「編集パフォーマンス」「ファイルサイズ」のバランスを考慮して選択することが重要でしょう。
また、実際のワークフローでは、編集用の中間ファイル(ProRes/DNxHR)と配信用ファイル(H.264/H.265/AV1)を使い分けることで、編集時の快適さと配信時の効率を両立できます。
今後、AV1 のハードウェアエンコーダー・デコーダーが普及すれば、AV1 が配信用コーデックの主流になっていくことが予想されますね。一方、編集用の ProRes や DNxHR は、当面の間引き続き使われ続けるでしょう。
本記事で紹介した FFmpeg コマンド例を参考に、ぜひ自分のプロジェクトに最適なコーデックを選択してみてください。
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