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Docker開発の落とし穴:よくある失敗パターン10選+実践的な回避策

Docker開発の落とし穴:よくある失敗パターン10選+実践的な回避策

Dockerは非常に便利な仮想化ツールですが、その反面、初心者がつまずきやすいポイントも数多く存在します。

この記事では「Dockerでよくやりがちな失敗例とその解決法10選」と題し、開発現場や本番運用で実際によく発生するトラブルと、それを防ぐための具体的な対処法について詳しく解説いたします。

実際のコード例を交えながら、丁寧に順を追ってご紹介します。

1. イメージサイズが巨大になる

Docker初心者が最初に直面しがちな問題のひとつが、イメージサイズの肥大化です。

例えば以下のようなDockerfileは一見シンプルですが、無駄なファイルまで含まれてしまい、不要にサイズが大きくなってしまいます。

DockerfileFROM node:18
WORKDIR /app
COPY . .
RUN npm install
CMD ["node", "index.js"]

原因

  • .gitnode_modules.env など、不要なファイルやフォルダを除外していない
  • マルチステージビルドを使わず、開発用と本番用を混在させている

解決策

  • .dockerignore ファイルを活用
  • ビルドと実行を分離したマルチステージビルドを使用
dockerfile# .dockerignore
node_modules
dist
.env
.git
.DS_Store
coverage

# Dockerfile
FROM node:18 AS builder
WORKDIR /app
COPY package*.json ./
RUN npm ci
COPY . .
RUN npm run build

FROM node:18
WORKDIR /app
COPY --from=builder /app/dist ./dist
COPY --from=builder /app/node_modules ./node_modules
CMD ["node", "dist/index.js"]

こうすることで、依存関係やビルド結果のみを本番環境に含められ、サイズの最小化とセキュリティ向上の両方を実現できます。

詳細は公式ドキュメントをご参照ください。

2. キャッシュの活用を無視して毎回フルビルド

Dockerでは、レイヤーキャッシュを適切に活用することで、ビルド時間を大幅に短縮できます。

以下のような記述は、毎回 npm install が再実行されてしまう典型例です。

DockerfileCOPY . .
RUN npm install

コード変更のたびにキャッシュが無効化され、node_modulesの再構築が発生してしまいます。

解決策

依存関係の変更が無い限りキャッシュを利用できるよう、package.json などを先にコピーしましょう。

DockerfileCOPY package*.json ./
RUN npm install
COPY . .

実行例:

bashdocker build -t my-app .

この方法により、package.jsonに変更がない限り、キャッシュされたレイヤーが使われます。

キャッシュの詳細もぜひご確認ください。

3. コンテナ内にデータを保存してしまい永続化できない

MySQLやPostgreSQLなどのデータベースをDockerで動かす際、コンテナ削除でデータが失われるトラブルは非常に多いです。

bashdocker run -d --name mysql -e MYSQL_ROOT_PASSWORD=root mysql:8

このままだと、コンテナを削除するとDBのデータもすべて消えてしまいます。

解決策

Docker Volumeを使って、永続化領域を分離します。

bashdocker volume create mysql-data

docker run -d \
  --name mysql \
  -v mysql-data:/var/lib/mysql \
  -e MYSQL_ROOT_PASSWORD=root \
  mysql:8

また、docker-compose.ymlを使用する場合は以下のように設定します:

yamlversion: '3.9'
services:
  db:
    image: mysql:8
    environment:
      MYSQL_ROOT_PASSWORD: root
    volumes:
      - mysql-data:/var/lib/mysql

volumes:
  mysql-data:

Volumeの使い方はこちら

4. コンテナをrootユーザーで実行してしまう

セキュリティの観点から、Dockerコンテナ内のプロセスをrootユーザーで動かすのは避けるべきです。

DockerfileFROM node:18
WORKDIR /app
COPY . .
RUN npm install
CMD ["node", "index.js"]

このような設定では、すべてのコマンドがroot権限で実行されてしまいます。

解決策

非特権ユーザーを作成し、コンテナ内の実行ユーザーとして明示的に指定しましょう。

DockerfileFROM node:18
RUN useradd --user-group --create-home --shell /bin/false appuser
WORKDIR /home/appuser/app
COPY --chown=appuser:appuser . .
USER appuser
CMD ["node", "index.js"]

これにより、本番環境におけるセキュリティリスクを低減できます。

USER命令の詳細はこちら

5. latestタグに依存してバージョンを固定しない

Dockerイメージのタグにlatestを使い続けると、予期せぬバージョンアップによりアプリケーションの動作が不安定になる可能性があります。

DockerfileFROM node:latest

このように書かれたDockerfileでは、次回ビルド時に取得されるイメージが異なっている場合があり、想定外の不具合につながります。

解決策

明示的に安定したバージョンを指定しましょう。

DockerfileFROM node:18.19.1

CI/CDパイプラインでは、イメージのバージョンが常に固定されていることで、再現性のあるビルドが可能になります。

yamlimage: node:18.19.1

イメージのバージョン指定については、Docker Hubでタグ一覧を確認できます。

6. マルチコンテナ構成をdocker runで構築してしまう

複数のサービス(アプリケーション+DBなど)を構成する場合、docker runでそれぞれ立ち上げるのは煩雑で非効率です。

bashdocker run -d --name db postgres

docker run -d --name app --link db my-app

このように手動で個別に起動すると、管理が煩雑になり、環境ごとの差異も発生しやすくなります。

解決策

docker-compose.ymlを使用して、マルチコンテナを一元的に管理します。

yamlversion: '3.8'
services:
  app:
    build: .
    ports:
      - "3000:3000"
    depends_on:
      - db
  db:
    image: postgres:15
    environment:
      POSTGRES_PASSWORD: example

以下のコマンドで起動できます:

bashdocker-compose up -d

Composeの基本を参考にしてください。

7. ネットワーク設定の理解不足による通信トラブル

コンテナ間通信やホストからのアクセスがうまくいかない原因は、Dockerネットワークのモード設定の理解不足によることが多いです。

例:bridgeモードで通信できない

bashdocker run --rm alpine ping my-db

このときmy-dbが同じネットワークに属していないと名前解決されません。

解決策

カスタムネットワークを作成し、コンテナを同一ネットワークに配置します。

bashdocker network create app-net

docker run -d --name db --network app-net postgres

docker run -it --rm --network app-net alpine ping db

Dockerのネットワーク詳細は公式解説を参照してください。

8. ログ管理を疎かにしてトラブル対応が困難になる

Dockerコンテナのログが消えてしまったり、確認しにくくなるのは、ログ戦略が設計されていない場合です。

よくある失敗

bashdocker logs my-app

この方法では、コンテナ削除時にログも失われます。

解決策

ログドライバを使った保存設定や、ログ集約サービスへの連携を行いましょう。

bashdocker run \
  --log-driver json-file \
  --log-opt max-size=10m \
  --log-opt max-file=5 \
  my-app

また、FluentdやCloudWatch、ELKスタックとの連携も推奨されます。

ログドライバの詳細

9. シークレット情報をDockerfileに直書きしてしまう

APIキーやパスワードをENV命令でDockerfileに記述するのは重大なセキュリティリスクです。

DockerfileENV API_KEY=my-secret-key

この情報は、イメージの中に永続的に保存され、誰でも閲覧できる状態になります。

解決策

ビルド引数やDocker Secretsの使用を検討しましょう。

DockerfileARG API_KEY
RUN echo "API_KEY=${API_KEY}" >> /tmp/key.txt

ビルド時に値を渡す:

bashdocker build --build-arg API_KEY=abcdef .

本番用途では、SwarmやKubernetesと連携したDocker Secretsを活用するとより安全です。

10. Docker Composeでのベストプラクティスを無視

docker-compose.ymlファイルにおいて、複数環境の設定を直書きしたり、起動順の依存だけに頼った構成は保守性を下げます。

よくある問題

  • .envの未使用
  • depends_onで起動順だけを保証(完了は保証されない)

解決策

  • .envファイルを使った環境変数の分離
  • healthcheckを使って起動の完了を明示
  • overrideファイルを使った環境ごとの分割
yamlservices:
  db:
    image: mysql
    environment:
      MYSQL_ROOT_PASSWORD: ${DB_PASSWORD}
    healthcheck:
      test: ["CMD", "mysqladmin", "ping", "-h", "localhost"]
      interval: 5s
      retries: 3

詳細:Composeファイルベストプラクティス

まとめ

Dockerは柔軟でパワフルなツールですが、基礎的な設計ミスや運用上の盲点によって、トラブルや非効率な状態に陥ることが多々あります。

本記事では特に発生頻度の高い失敗例を10項目に整理し、それぞれに対する具体的な解決策を提示してきました。

No.よくある失敗例推奨される解決策
1イメージが肥大化する.dockerignoreやマルチステージビルドを活用
2キャッシュを無視したビルド依存関係の先読みによるキャッシュ利用
3データ永続化を考慮しないVolumeやBind Mountを活用
4rootユーザーでの実行非特権ユーザーを明示的に設定
5latestタグへの依存明示的にイメージバージョンを指定
6マルチコンテナを手動で管理docker-composeによる定義と一括起動
7ネットワーク設定の誤解カスタムネットワークの明示的な活用
8ログ管理を疎かにするログドライバと外部連携を併用
9シークレット情報の直書きbuild-argsecretsで安全に管理
10Compose設計のベストプラクティスを無視.env/healthcheck/overrideの活用

これらのベストプラクティスを順守することで、開発効率が向上するだけでなく、セキュリティや可搬性、保守性といった本番環境で求められる要件にも対応できます。

Dockerを安全かつ効果的に運用するためには、公式ドキュメントの確認と、小さなミスを見逃さない設計意識が重要です。

公式情報の継続的なチェックも習慣にしながら、実践と改善を繰り返していきましょう。

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