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Dify で実現する RAG 以外の戦略:ツール実行・関数呼び出し・自律エージェントの全体像

Dify で実現する RAG 以外の戦略:ツール実行・関数呼び出し・自律エージェントの全体像

AI アプリケーション開発において、RAG(Retrieval-Augmented Generation)は知識ベースを活用した有力な手法として知られています。しかし、Dify はそれだけではありません。ツール実行、関数呼び出し、自律エージェントといった高度な AI 戦略を簡単に実装できるプラットフォームとして進化を続けているのです。

本記事では、RAG 以外の戦略に焦点を当て、Dify が提供するエージェントノードの仕組みと活用方法を体系的に解説します。これらの機能を理解することで、より柔軟で強力な AI アプリケーションを構築できるようになるでしょう。

背景

AI アプリケーションにおける戦略の多様化

従来の AI アプリケーション開発では、知識ベースから情報を検索して回答を生成する RAG が主流でした。しかし、実際のビジネスシーンでは、単なる情報検索だけでなく、外部 API の呼び出し、複数ステップにわたる推論、動的なツール選択など、より複雑なタスクが求められます。

例えば、天気情報を取得してスケジュールを提案する、データベースを検索して計算を実行する、複数のワークフローを状況に応じて使い分けるといったシナリオでは、RAG だけでは対応できません。

Dify のアプローチ

Dify は、このような課題に対して「エージェントノード」という仕組みを提供しています。エージェントノードを使えば、LLM が自律的にツールを選択・実行し、推論を重ねながら複雑なタスクを遂行できるのです。

下図は、Dify におけるエージェント戦略の全体像を示しています。

mermaidflowchart TB
    user["ユーザーからの質問"] --> agent["エージェントノード"]
    agent --> strategy{"推論戦略の選択"}

    strategy -->|高精度・構造化| fc["Function Calling"]
    strategy -->|柔軟な推論| react["ReAct"]

    fc --> tool_select["ツール選択"]
    react --> reason_loop["推論ループ<br/>(分析→選択→実行→評価)"]

    tool_select --> tools["ツール実行"]
    reason_loop --> tools

    tools --> api["外部 API"]
    tools --> workflow["ワークフロー"]
    tools --> builtin["組み込みツール"]

    api --> result["実行結果"]
    workflow --> result
    builtin --> result

    result --> agent
    agent --> response["ユーザーへの応答"]

この図は、ユーザーの質問がエージェントノードに入力され、推論戦略(Function Calling または ReAct)を通じてツールが実行され、結果が返される一連の流れを表しています。

重要なのは、この一連のプロセスが LLM によって自律的に制御される点です。開発者は事前にツールと指示を定義するだけで、実行時の判断は AI に委ねられます。

課題

従来の AI アプリケーション開発における制約

RAG を中心とした従来の AI アプリケーション開発には、以下のような課題がありました。

#課題説明
1静的なワークフローあらかじめ決められた処理フローしか実行できず、動的な判断ができない
2外部連携の困難さAPI 呼び出しやデータベース操作を組み込むには複雑な実装が必要
3複数ステップの推論一度の応答で完結せず、段階的に推論を深める処理が難しい
4ツール選択の固定化ユーザーの質問内容に応じて最適なツールを動的に選ぶことができない
5コンテキスト管理会話履歴や状態を保持しながら処理を続けることが困難

これらの課題は、AI アプリケーションの適用範囲を制限し、開発者に大きな負担をかけていました。特に、ビジネスロジックが複雑になるほど、実装の難易度は飛躍的に上がっていったのです。

具体的な課題シナリオ

例えば、食事プランニングアプリを考えてみましょう。ユーザーが「今日の夕食のメニューを考えて」と質問した場合と「このメニューの栄養バランスは?」と質問した場合では、必要な処理が全く異なります。

前者はメニュー提案ワークフロー、後者は栄養分析ワークフローを実行すべきですが、従来のアプローチでは、開発者が事前に質問パターンを分岐処理として実装する必要がありました。これは保守性や拡張性の面で大きな問題となります。

下図は、従来のアプローチと Dify のエージェントアプローチの違いを示しています。

mermaidflowchart LR
    subgraph traditional["従来のアプローチ"]
        q1["質問A"] --> if1{"分岐判定<br/>(開発者が実装)"}
        q2["質問B"] --> if1
        if1 -->|パターン1| w1["ワークフロー1"]
        if1 -->|パターン2| w2["ワークフロー2"]
        if1 -->|パターン3| w3["ワークフロー3"]
    end

    subgraph dify_approach["Dify エージェント"]
        q3["あらゆる質問"] --> agent_node["エージェントノード<br/>(AI が自律判断)"]
        agent_node --> auto_select["最適なツールを自動選択"]
        auto_select --> t1["ツール1"]
        auto_select --> t2["ツール2"]
        auto_select --> t3["ツール3"]
    end

従来のアプローチでは開発者が全ての分岐を実装する必要がありますが、Dify のエージェントアプローチでは AI が状況に応じて最適なツールを選択します。この違いが、開発効率と柔軟性に大きな差を生み出すのです。

解決策

エージェントノードによる自律的なツール実行

Dify のエージェントノードは、上記の課題を解決するための強力な機能です。このノードは、ユーザーの質問を受け取り、複数のツールの中から最適なものを自律的に選択・実行し、推論を重ねながら回答を生成します。

エージェントノードの主な特徴は以下の通りです。

#特徴説明
1自律的なツール選択LLM が質問内容を分析し、登録されたツールから最適なものを動的に選択
2複数ステップ実行一度のツール実行で終わらず、必要に応じて複数のツールを順次実行
3推論戦略の選択Function Calling と ReAct の 2 つの戦略から状況に応じて選択可能
4メモリ機能会話履歴を記憶し、コンテキストを保持しながら処理を継続
5柔軟な拡張性プラグインシステムにより、独自の推論戦略も追加可能

2 つの推論戦略:Function Calling と ReAct

Dify のエージェントノードは、2 つの推論戦略を提供しています。それぞれの特性を理解し、適切に使い分けることが重要です。

Function Calling(関数呼び出し)

Function Calling は、ユーザーの指示を事前定義された関数やツールにマッピングする戦略です。高精度で構造化された出力が得られるため、外部 API やツールとの連携に適しています。

主な特徴

  • 高精度なツール選択が可能
  • 構造化されたパラメータ渡しに対応
  • 外部 API との連携が容易
  • 予測可能な動作で信頼性が高い

適用シナリオ

  • 天気情報取得 API の呼び出し
  • データベース検索の実行
  • 計算ツールの利用
  • 明確に定義されたワークフローの実行

ReAct(推論と行動の反復)

ReAct(Reason + Act)は、思考と行動を交互に繰り返しながら問題を解決する戦略です。継続的な分析、ツール選択、実行、結果評価を通じて、複雑なタスクに対応します。

主な特徴

  • 柔軟な推論プロセス
  • 段階的な問題解決
  • 多様なシナリオに対応
  • 探索的なタスクに強い

適用シナリオ

  • 情報検索と分析の組み合わせ
  • Q&A 応答の生成
  • 複数の情報源を統合する処理
  • 答えが明確でない探索的なタスク

下図は、2 つの戦略の処理フローの違いを示しています。

mermaidflowchart TD
    subgraph fc_flow["Function Calling の処理フロー"]
        fc_input["ユーザー入力"] --> fc_parse["質問の解析"]
        fc_parse --> fc_map["関数へのマッピング"]
        fc_map --> fc_params["パラメータ抽出"]
        fc_params --> fc_exec["関数実行"]
        fc_exec --> fc_output["結果の返却"]
    end

    subgraph react_flow["ReAct の処理フロー"]
        react_input["ユーザー入力"] --> think1["思考:問題分析"]
        think1 --> act1["行動:ツール実行"]
        act1 --> observe1["観察:結果評価"]
        observe1 --> decide{"目標達成?"}
        decide -->|No| think2["思考:次の手段"]
        think2 --> act2["行動:別ツール実行"]
        act2 --> observe2["観察:再評価"]
        observe2 --> decide
        decide -->|Yes| react_output["最終回答"]
    end

Function Calling は一直線の処理フローであるのに対し、ReAct は循環的な推論プロセスを持っています。この違いが、それぞれの戦略が得意とするシナリオを決定づけているのです。

エージェントノードの設定項目

エージェントノードを効果的に活用するには、適切な設定が不可欠です。主な設定項目とその役割を見ていきましょう。

モデル選択

使用する LLM を選択します。Dify は OpenAI、Anthropic Claude、AWS Bedrock など、多様なモデルに対応しています。エージェント機能を利用するには、関数呼び出しをサポートするモデルが必要です。

推奨モデル

  • GPT-4 / GPT-4 Turbo(OpenAI)
  • Claude 3 Haiku / Sonnet / Opus(Anthropic)
  • AWS Bedrock の Claude モデル

ツールリスト

エージェントが利用できるツールを登録します。Dify では以下の種類のツールを設定できます。

#ツールの種類説明
1組み込みツールDify が標準で提供するツール(Web 検索、計算など)
2ワークフローツール別途作成したワークフローをツールとして登録
3カスタムツール外部 API を呼び出すカスタムツール
4プラグインツールMarketplace からインストールしたプラグイン

指示文(System Prompt)

エージェントの動作を制御する指示文を定義します。この指示文で、ツールの選択基準や応答スタイルを指定できます。

指示文の例

typescript// 食事プランニングエージェントの指示文例
const systemPrompt = `
あなたは食事に関する質問に答える AI アシスタントです。
以下のツールを適切に使い分けてください。

- menu_planning: 献立の提案が必要な場合
- nutrition_analysis: 栄養バランスの分析が必要な場合
- general_qa: 一般的な食事に関する質問の場合

ユーザーの質問内容を正確に理解し、最も適切なツールを選択してください。
`;

クエリ変数

ユーザーの入力を受け取る変数を定義します。通常は {{#sys.query#}} という変数で現在のユーザー入力を参照します。

最大実行ステップ数

エージェントが実行できるツール呼び出しの最大回数を設定します。無限ループを防ぐための重要な設定で、通常は 3〜10 ステップ程度に設定します。

出力変数

エージェントの実行結果を格納する変数を定義します。この変数は後続のノードで参照できます。

メモリ機能による会話コンテキストの保持

Dify のエージェントノードには、会話履歴を記憶するメモリ機能が搭載されています。この機能を有効にすると、過去の会話内容を考慮した応答が可能になります。

メモリ機能の設定

  • メモリスイッチ:ON/OFF の切り替え
  • メモリウィンドウサイズ:保持する過去の会話メッセージ数(例:10 メッセージ)

メモリ機能により、以下のような対話が実現できます。

typescript// メモリ機能を活用した会話の例
// 1回目の質問
user: "今日の夕食にパスタを作りたい"
agent: [menu_planning ツールを実行]
      "トマトソースのパスタはいかがでしょうか..."

// 2回目の質問(前回の文脈を参照)
user: "それの栄養バランスは?"
agent: [nutrition_analysis ツールを実行、「トマトソースのパスタ」を分析]
      "炭水化物が中心ですが..."

// 3回目の質問(さらに文脈を保持)
user: "もう少しタンパク質を増やすには?"
agent: [menu_planning ツールを再実行]
      "鶏肉を追加すると良いでしょう..."

メモリ機能がない場合、2 回目以降の質問で「それ」や「もう少し」といった代名詞や省略表現が理解できません。メモリウィンドウサイズを適切に設定することで、自然な対話体験を提供できるのです。

具体例

食事プランニングアプリの実装

ここでは、Function Calling を使った具体的な実装例として、食事プランニングアプリを構築してみましょう。このアプリは、ユーザーの質問内容に応じて 3 つのワークフローを自動的に使い分けます。

ステップ 1:ワークフローツールの作成

まず、エージェントが呼び出すワークフローを 3 つ作成します。

メニュー提案ワークフロー(menu_planning)

typescript// ワークフロー名: menu_planning
// 説明: ユーザーの要望に基づいて献立を提案する

// 入力変数
{
  "preferences": "string", // ユーザーの好みや制約
  "meal_type": "string"    // 朝食/昼食/夕食
}

// LLM ノードの設定
{
  "model": "gpt-4-turbo",
  "prompt": `
    ユーザーの要望: {{#preferences#}}
    食事の種類: {{#meal_type#}}

    上記を考慮して、具体的なメニューを提案してください。
    - 料理名
    - 材料リスト
    - 簡単な調理手順
  `
}

// 出力変数
{
  "menu_suggestion": "string" // 提案されたメニュー
}

栄養分析ワークフロー(nutrition_analysis)

typescript// ワークフロー名: nutrition_analysis
// 説明: 指定されたメニューの栄養バランスを分析する

// 入力変数
{
  "menu": "string" // 分析対象のメニュー
}

// LLM ノードの設定
{
  "model": "gpt-4-turbo",
  "prompt": `
    以下のメニューの栄養バランスを分析してください。
    メニュー: {{#menu#}}

    分析項目:
    - カロリー
    - 三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)
    - ビタミン・ミネラル
    - 栄養バランスの評価
  `
}

// 出力変数
{
  "nutrition_info": "string" // 栄養分析結果
}

一般質問対応ワークフロー(general_qa)

typescript// ワークフロー名: general_qa
// 説明: 食事に関する一般的な質問に回答する

// 入力変数
{
  "question": "string" // ユーザーの質問
}

// LLM ノードの設定
{
  "model": "gpt-4-turbo",
  "prompt": `
    食事に関する以下の質問に回答してください。
    質問: {{#question#}}

    専門的かつわかりやすく説明してください。
  `
}

// 出力変数
{
  "answer": "string" // 回答
}

ステップ 2:エージェントノードの設定

次に、チャットフローにエージェントノードを追加し、上記のワークフローをツールとして登録します。

typescript// エージェントノードの設定

// モデル選択
{
  "provider": "openai",
  "model": "gpt-4-turbo",
  "temperature": 0.7
}

// 推論戦略
{
  "strategy": "function_calling" // Function Calling を選択
}

// ツールリスト
[
  {
    "type": "workflow",
    "workflow_id": "menu_planning",
    "name": "献立提案",
    "description": "ユーザーの要望に基づいて献立を提案するツール"
  },
  {
    "type": "workflow",
    "workflow_id": "nutrition_analysis",
    "name": "栄養分析",
    "description": "メニューの栄養バランスを分析するツール"
  },
  {
    "type": "workflow",
    "workflow_id": "general_qa",
    "name": "一般質問",
    "description": "食事に関する一般的な質問に回答するツール"
  }
]

ステップ 3:System Prompt の定義

エージェントの動作を制御する指示文を設定します。

typescript// System Prompt(指示文)
const agentInstructions = `
あなたは食事プランニングの専門家です。
ユーザーの質問内容を正確に理解し、適切なツールを選択してください。

【ツールの使い分け基準】

1. 献立提案ツール
   - 「メニューを考えて」「何を作ろう」といった献立提案のリクエスト
   - 材料や好みの条件が指定されている場合

2. 栄養分析ツール
   - 「栄養バランスは?」「カロリーは?」といった栄養に関する質問
   - 既に決まっているメニューの分析を求められた場合

3. 一般質問ツール
   - 食材の保存方法、調理のコツなど一般的な質問
   - 上記 2 つに該当しない食事関連の質問

【応答スタイル】
- 親しみやすく丁寧な口調で
- 具体的で実践的な情報を提供
- 必要に応じて補足説明を加える

ユーザーの質問: {{#sys.query#}}
`;

ステップ 4:メモリとステップ数の設定

typescript// メモリ設定
{
  "memory_enabled": true,
  "memory_window_size": 10 // 過去 10 メッセージを保持
}

// 最大実行ステップ数
{
  "max_steps": 5 // 最大 5 回のツール呼び出しを許可
}

// 出力変数
{
  "output_variable": "agent_response"
}

ステップ 5:実行例と動作確認

設定が完了したら、実際にテストしてみましょう。

テストケース 1:献立提案

typescript// ユーザー入力
user: "今日の夕食に和食を作りたいです"

// エージェントの処理
agent_analysis: {
  selected_tool: "menu_planning",
  reason: "献立提案のリクエストのため menu_planning を選択",
  parameters: {
    preferences: "和食",
    meal_type: "夕食"
  }
}

// ツール実行結果
menu_planning_output: "
  【提案メニュー】
  - 鮭の塩焼き
  - ほうれん草のおひたし
  - 味噌汁
  - ご飯

  【材料リスト】
  鮭(2切れ)、ほうれん草(1束)、豆腐(半丁)...

  【調理手順】
  1. 鮭に塩をふって 10 分置く...
"

// エージェントの応答
agent: "和食の夕食でしたら、鮭の塩焼きを中心としたメニューはいかがでしょうか..."

テストケース 2:栄養分析(会話履歴を活用)

typescript// 前回の会話(menu_planning 実行済み)を記憶

// ユーザー入力
user: "そのメニューの栄養バランスはどうですか?"

// エージェントの処理(メモリから前回のメニューを参照)
agent_analysis: {
  selected_tool: "nutrition_analysis",
  reason: "栄養バランスの質問のため nutrition_analysis を選択",
  parameters: {
    menu: "鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたし、味噌汁、ご飯"
  }
}

// ツール実行結果
nutrition_analysis_output: "
  【栄養分析】
  カロリー: 約 650kcal

  三大栄養素:
  - 炭水化物: 90g
  - タンパク質: 35g
  - 脂質: 15g

  評価: バランスの取れた健康的なメニューです...
"

// エージェントの応答
agent: "ご提案したメニューの栄養バランスは非常に良好です..."

テストケース 3:一般質問

typescript// ユーザー入力
user: "鮭を保存する最適な方法を教えてください"

// エージェントの処理
agent_analysis: {
  selected_tool: "general_qa",
  reason: "保存方法という一般的な質問のため general_qa を選択",
  parameters: {
    question: "鮭を保存する最適な方法を教えてください"
  }
}

// ツール実行結果
general_qa_output: "
  鮭の保存方法は以下の通りです...

  【冷蔵保存】
  購入当日〜翌日に使用する場合...

  【冷凍保存】
  長期保存する場合...
"

// エージェントの応答
agent: "鮭の保存方法についてご説明します..."

下図は、これらのテストケースにおけるツール選択の流れを示しています。

mermaidflowchart TD
    q1["質問1:<br/>和食を作りたい"] --> agent1["エージェントノード"]
    q2["質問2:<br/>栄養バランスは?"] --> agent2["エージェントノード<br/>(メモリあり)"]
    q3["質問3:<br/>鮭の保存方法は?"] --> agent3["エージェントノード"]

    agent1 --> analyze1["質問分析:<br/>献立提案"]
    agent2 --> analyze2["質問分析:<br/>栄養分析<br/>メモリから前回メニュー取得"]
    agent3 --> analyze3["質問分析:<br/>一般質問"]

    analyze1 --> tool1["menu_planning<br/>実行"]
    analyze2 --> tool2["nutrition_analysis<br/>実行"]
    analyze3 --> tool3["general_qa<br/>実行"]

    tool1 --> r1["献立提案結果"]
    tool2 --> r2["栄養分析結果"]
    tool3 --> r3["保存方法の説明"]

この図からわかるように、エージェントノードは質問内容を分析し、適切なツールを自動選択しています。また、質問 2 ではメモリ機能により前回の会話内容(献立)を参照していることがポイントです。

ReAct を使った探索的タスクの実装

次に、ReAct 戦略を使った実装例を見てみましょう。ReAct は、複数の情報源を探索しながら答えを導き出すタスクに適しています。

シナリオ:レシピ検索と在庫確認の組み合わせ

「冷蔵庫にある材料でパスタを作りたい」という質問に対して、以下の処理を ReAct で実現します。

  1. 冷蔵庫の在庫を確認
  2. 在庫に基づいてレシピを検索
  3. 不足材料があれば代替案を提案
typescript// エージェントノードの設定(ReAct 版)

// 推論戦略
{
  "strategy": "react" // ReAct を選択
}

// ツールリスト
[
  {
    "type": "custom",
    "name": "check_inventory",
    "description": "冷蔵庫の在庫を確認するツール"
  },
  {
    "type": "custom",
    "name": "search_recipe",
    "description": "条件に合うレシピを検索するツール"
  },
  {
    "type": "custom",
    "name": "suggest_alternative",
    "description": "代替材料を提案するツール"
  }
]

// System Prompt(ReAct 用)
const reactPrompt = `
ユーザーの要望を満たすために、段階的に推論しながらツールを実行してください。

【思考プロセス】
1. 現在の状況を分析
2. 次に必要なアクションを決定
3. ツールを実行
4. 結果を評価
5. 目標達成まで繰り返す

ユーザーの質問: {{#sys.query#}}
`;

ReAct の実行フロー

typescript// ユーザー入力
user: "冷蔵庫にある材料でパスタを作りたい"

// ReAct の推論ループ

// ステップ 1:思考
thought_1: "まず冷蔵庫の在庫を確認する必要がある"
action_1: {
  tool: "check_inventory",
  parameters: { category: "all" }
}
observation_1: {
  available_items: ["トマト", "玉ねぎ", "にんにく", "ベーコン", "チーズ"]
}

// ステップ 2:思考
thought_2: "在庫が確認できた。これらの材料で作れるパスタレシピを検索しよう"
action_2: {
  tool: "search_recipe",
  parameters: {
    dish_type: "pasta",
    available_ingredients: ["トマト", "玉ねぎ", "にんにく", "ベーコン", "チーズ"]
  }
}
observation_2: {
  recipe: "カルボナーラ",
  required_ingredients: ["パスタ", "ベーコン", "卵", "チーズ", "にんにく"],
  missing: ["卵"]
}

// ステップ 3:思考
thought_3: "卵が不足している。代替案を提案すべきか判断する"
action_3: {
  tool: "suggest_alternative",
  parameters: {
    missing_item: "卵",
    recipe: "カルボナーラ"
  }
}
observation_3: {
  suggestion: "卵なしでもチーズとベーコンで美味しいパスタが作れます。アマトリチャーナ風にアレンジしましょう"
}

// ステップ 4:思考
thought_4: "代替案が見つかった。これで回答できる"

// 最終回答
agent: "
  冷蔵庫の材料を確認したところ、トマト、玉ねぎ、にんにく、ベーコン、チーズがあります。

  これらを使って、アマトリチャーナ風のパスタをおすすめします。
  本来はカルボナーラも作れますが、卵が不足しているため、トマトソースをベースにした
  パスタにアレンジしましょう。

  【レシピ】
  1. にんにくと玉ねぎをオリーブオイルで炒める
  2. ベーコンを加えて炒める
  3. トマトを加えて煮込む
  4. 茹でたパスタと和える
  5. 仕上げにチーズをかける
"

下図は、ReAct の思考と行動のループを視覚化したものです。

mermaidstateDiagram-v2
    [*] --> Thought1: ユーザー質問<br/>「冷蔵庫の材料でパスタ」

    Thought1 --> Action1: 思考1<br/>在庫確認が必要
    Action1 --> Observe1: ツール実行<br/>check_inventory

    Observe1 --> Thought2: 観察1<br/>材料リスト取得
    Thought2 --> Action2: 思考2<br/>レシピ検索
    Action2 --> Observe2: ツール実行<br/>search_recipe

    Observe2 --> Thought3: 観察2<br/>卵が不足
    Thought3 --> Action3: 思考3<br/>代替案の検討
    Action3 --> Observe3: ツール実行<br/>suggest_alternative

    Observe3 --> Thought4: 観察3<br/>代替レシピ発見
    Thought4 --> [*]: 思考4<br/>回答可能

ReAct では、このように「思考 → 行動 → 観察」のサイクルを繰り返しながら、段階的に問題を解決していきます。Function Calling と比べて柔軟性が高く、予測困難なタスクに強いのが特徴です。

まとめ

本記事では、Dify で実現できる RAG 以外の AI 戦略として、エージェントノードを活用したツール実行、関数呼び出し、自律エージェントの仕組みを解説しました。

重要なポイントを振り返りましょう。

エージェント戦略の価値

従来の静的なワークフローでは対応困難だった動的なツール選択や複数ステップの推論が、Dify のエージェントノードによって簡単に実装できるようになりました。開発者は複雑な分岐処理を実装する必要がなく、AI に判断を委ねることで、柔軟性と保守性を両立できます。

2 つの推論戦略の使い分け

Function Calling と ReAct という 2 つの戦略は、それぞれ異なる強みを持っています。高精度で予測可能な処理には Function Calling を、探索的で柔軟な推論が必要な場合には ReAct を選択することで、幅広いユースケースに対応できます。

適切な設定の重要性

エージェントノードの効果を最大化するには、モデル選択、ツール定義、System Prompt、メモリ設定など、各項目を適切に設定することが重要です。特に System Prompt は、エージェントの動作を大きく左右するため、丁寧に設計しましょう。

実践的な活用シナリオ

食事プランニングアプリの例で示したように、複数のワークフローを状況に応じて使い分けるアプリケーションが、少ない実装コストで実現できます。メモリ機能により、自然な対話体験も提供できるのです。

今後の展開

Dify のエージェント機能は、プラグインシステムにより独自の推論戦略を追加することも可能です。v1.6.0 で導入された MCP(Model Context Protocol)統合や、Kubernetes 対応など、エンタープライズ利用を見据えた機能強化も進んでいます。

RAG と組み合わせることで、知識ベースを参照しながらツールを実行するハイブリッドな AI アプリケーションも構築できるでしょう。

Dify のエージェント機能を活用することで、AI アプリケーション開発の可能性は大きく広がります。ぜひ本記事の内容を参考に、実際のプロジェクトで試してみてください。

関連リンク